※2024年12月時点の情報です。
2025年は、日本国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)となり、いわゆる「超高齢化社会」を迎えるとされています。超高齢化社会においては雇用や医療、福祉などをはじめ経済や社会に深刻な影響があると見られており、それらの問題を総称して「2025年問題」と呼ばれています。
内閣府「令和6年版高齢社会白書(概要版)」より引用
経済産業省は、2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」の中で、このような指摘をしています。
“「複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性がある」“ 経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」より引用 |
この状況を「2025年の崖」と呼んでいます。
「2025年の崖」について詳しくは、下記の記事も参考にしてみてください。
参考記事:エンジニア不足、DXできない企業に迫り来る「2025年の崖」
15歳以上65歳未満の生産年齢人口比率は、2023年時点で約6割となっていますが、2030年にはこれを大きく下回ると見込まれています。生産年齢人口が急激に減っていくことで、現在も問題視されている労働力不足はさらに悪化。社会や経済にさまざまな問題を引き起こすと見られており、それらの問題が「2030年問題」と総称されています。
ちなみに、2025年~2030年問題がその後もさらに深刻化し、「2040年問題」となることも懸念されています。
「2030年問題」について詳しくは、下記の記事も参考にしてみてください。
後期高齢者の増加は、年金や医療保険、介護保険、生活保護などの社会保障で「支えられる側」が増えることを意味します。こうした制度を維持するために国が支出する社会保障費が増大すると、納税などでそれをまかなう生産年齢層、つまり「支える側」の負担が重くなっていきます。
後期高齢者の増加により、医療や介護サービスの需要も増大すると見込まれており、それに対して十分な人材が確保できなくなることが懸念されています。厚生労働省が発表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、第9期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づき、都道府県が推計した「介護職員の必要数」を集計したところ、2026年度は約240万人が必要となりました。一方、2024年現在の介護職員数は約215万人と大きな差があります。人員増加のペースも年1~2万人程度に留まるため、需要を満たすことは難しいと見られています。
厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」より引用
少子高齢化は加速の一途をたどっており、2024年現在でも、成長に伴って新たに就業する人口を、高齢化によって退職する人口が超える、つまり「労働力が減る」状況が続いています。2025年、第一次ベビーブームのため特に人口の多い「団塊世代」は76歳~78歳。経営者として、またシニア雇用などで働き続けてきた人々の大量離職も予想されます。昨今見られるあらゆる業種での人手不足から見ても、労働力不足がより深刻な問題となるのは明らかです。
既存システムにおいて技術者の引退、サポート終了などのリスクを抱えている企業は、既存システムの維持や、新システム構築のためのIT人材を確保できなければ、「2025年の崖」を乗り越え事業を継続することも厳しくなってきます。一方、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が、2024年2月から5月初旬にかけて実施した「企業等におけるDX推進状況等調査分析」によると、DXの取り組みを担う人材の不足は一層深刻化しており、状況は改善していないといいます。
中小企業庁の「中小企業の事業承継・M&Aに関する検討会(第1回) 配布資料」によると、2023年時点の経営者年齢は平均60.5歳で、過去最高を更新。さらに70代以上の経営者の割合も継続して増加しています。後継者不在率は下がりつつあるものの、70代で3割、80代でも2割以上にのぼり、まだ十分とはいえません。また、建設業界などでは高齢化や若年層の不足から、専門技術の継承が進まないことも課題となっています。
中小企業庁の「中小企業の事業承継・M&Aに関する検討会(第1回) 配布資料」より引用
同資料によると、2023年度の休廃業・解散事業者の損益別比率は減少傾向にはあるものの、いまだ「黒字廃業」が半数を超えています。廃業理由の3割近くが「後継者不在」となっていることから、「利益や雇用の見込める事業であっても、後継者不在によって廃業した」様子がうかがえます。
こうした廃業が増えることで、事業承継すれば維持できたはずの雇用やGDPが失われ、経済縮小が加速していくことも懸念されています。
中小企業庁の「中小企業の事業承継・M&Aに関する検討会(第1回) 配布資料」より引用
内閣府「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査結果(概要版)」によると、高齢者のうち「収入のある仕事につきたいと考えているにもかかわらず、現在仕事をしていない理由」を聞くと「健康上の理由」に次いで、「年齢制限」「介護・家事」「仕事の種類・条件が合わない」といった回答が上位を占めています。つまり、企業側が多様な働き方に対応することで、双方の課題を解決できる可能性があるのです。従来の働き方の壁を打ち破る柔軟な対応が実現すれば、シニア雇用だけでなく、ビジネスケアラー問題や、女性活用などにも活路が開けるはずです。
内閣府「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査結果(概要版)」より引用
今や人手不足の解消法は「人を集める」ことだけではありません。配膳ロボットの活躍や、セルフレジの普及からもわかる通り「DX推進により業務全体を効率化し、必要な人手を最小限に抑える」体制作りも、立派な人手不足対策です。
ただし、既存システムの見直しのように抜本的な改革を行う場合、社内の限られたリソースだけですべてを実行するのはかなり難しくなります。外部の専門家と連携することで、DX自体も効率的に進められるはずです。
先の資料の通り、中小企業の廃業理由には「子どもがいない」、「子どもに継ぐ意思がない」、「適当な後継者が見つからない」という回答も多く、経営者が「子どもや従業員など身近な存在が継ぐものだ」と考えている様子も見受けられます。
中小企業庁の「中小企業の事業承継・M&Aに関する検討会(第1回) 配布資料」によると、M&Aを実施した中小企業は、実施していない企業と比べて、労働生産性などを向上させているという調査結果も出ています。「家業」や「跡継ぎ」といった考え方に固執せず、第三者へ引き継ぐことも考えたいところです。
中小企業庁「中小企業の事業承継・M&Aに関する検討会(第1回) 配布資料」より引用
「探し続ければ、そのうちいい人材を採用できて人手不足も解消できるのでは」、「どこかに、既存のシステムを維持したままDX推進してくれる人材がいるのでは」……と、「なんとかなる」ことに期待しながら手をこまねいているのでは、現状よりもさらに後れを取り、リカバリーしきれなくなる可能性もあります。「なんとかなる」ではなく「なんとかする」ことを肝に銘じ、対策を進めていきましょう。
※2024年12月時点の情報です。