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社労士のアドバイス/年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(後編)

作成者: randstad|Dec 6, 2024 12:00:00 AM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。

さて、前回前々回と「年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点」について採り上げてきましたが、今回は特に年次有給休暇(以下、年休といいます)の利用に関する留意点に焦点を当て、年休に関するコラムを締めくくりたいと思います。

Index

年休利用に関する留意点
  1. 年休が取得できる日
  2. 年休の取得理由を確認してもよいか
  3. 不利益取り扱いの禁止
  4. 年休申請期限の規定化
  5. 年休の事後的振替
  6. 年休の買い上げの可否
  7. 退職直前の年休消化と時季変更権
まとめ

 

ポイント

  • 年休が取得できるのは、もともと労働日であった日に限られる。
  • 年休の利用目的によって年休の取得に制限をすることは認められない。
  • 年休を取得したことを理由に不利益取り扱いをしてはならない。
  • 年休は取得日の前日までの申請が必要と解される。なお、就業規則への年休申請期限の規定化は直ちに問題となるものではないと考えられるが、ルールの厳格な運用には注意を要する。
  • 欠勤した場合の事後的な年休への振替は、会社の承認があれば認められる。ただし、年休の事後的振替について就業規則に規定しておくことが求められる。
  • 法定の年休に関しては年休の買い上げはできない(法定を上回る日数に関しての買い上げは差し支えない)。
  • 時季変更権を行使することが可能であったとしても、退職日を超えて時季変更することはできない。 
 

年休利用に関する留意点

1. 年休が取得できる日

年休はもともと労働日であった日について労働義務を免除するものとなりますので、もともと労働しなくてよい日に対して年休を使うことはできません。事由別の年休の使用可否については以下の通りです。

事由 年休の行使の可否
休日 もともと労働日ではないため、年休を使うことはできない。なお、休日労働を命じられた日についても同様。
産前休業 産前休業は本人からの請求に基づくものであるため、産前休業として休むのではなく、年休を使って休むことも可能。
産後休業 産後8週間は法的に休ませなければならない期間であることから労働の義務が免除されていることになるため、年休を使うことはできない。
育児・介護休業 育児・介護休業を申し出て、休業が開始した後は労働の義務が免除されているため、年休を使うことはできない。
労災・通災による休業 休業中については年休を使うことはできる。
(ただし、「休職発令により従来配属されていた所属を離れ、以後は単に会社に籍があるにとどまり、会社に対して全く労働の義務を免除されることとなる場合において、休職発令された者が年次有給休暇を請求したときは、労働義務がない日について年次有給休暇を請求する余地がないことから、これらの休職者は、年次有給休暇請求権の行使ができない」(昭24.12.28基発1456、昭31.2.13基収489)とされている点は注意が必要。)

なお、年休取得日当日に少しでも勤務した場合は年休を取得しなかったことになるのかという問題がありますが、年休は本来労働日(暦日)単位の取得を前提としたものとなりますので、半休や時間単位年休の制度を導入していない場合には、1日の一部でも労働があった場合には年休を取得したことにならないので、出勤したものとして取り扱う必要があることになります。

また、この考え方に基づけば、半休の制度を導入している場合、例えば午後半休の取得を申請している場合で午前の業務が午後の半休取得時間帯に及んでしまった場合であっても、午後の半休を取得したことにはならないという解釈になります。実務的にはこのような場面が生じてしまうことがあると思われますが、理屈上は以上の通りになるものと考えられます。

 

 

2.年休の取得理由を確認してもよいか

年休の取得に際して、年休の取得理由を確認してもよいかという問題があります。この点、年休の利用目的は労働者の自由とされていることから、年休の利用目的が休養のためではない場合でも、使用者がそれを理由に年休の取得を拒否することは法律上認められません(白石営林署事件 最高裁二小 昭48.3.2判決)。そのため、年休の申請書等において取得理由の記載欄を設けている場合であっても、記載が任意であれば問題はありませんが、記載を必須とするのは問題がありますので、この点は注意が必要です。

例外として、ストライキのための年休取得は認められないとされています。これは、「ストライキとは労働組合がその要求を貫徹するために集団的に労務の提供を拒否して業務の正常な運営を阻害するという行為であって、同じく休むといっても、年休とは性格上相容れないものというべきである(労働基準法 上 -労働法コンメンタール-、株式会社労務行政発行)」と解されていることによります。

 

 

3.不利益取り扱いの禁止

労働基準法(以下、労基法といいます)では、年休の取得が抑制・阻害されないよう、同法附則第136条において「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない」とする訓示規定を設けています。この点について通達(昭63.1.1基発1・婦発1)では、「精皆勤手当及び賞与の額の算定等に際して、年次有給休暇を取得した日を欠勤として、又は欠勤に準じて取り扱うことその他労働基準法上労働者の権利として認められている年次有給休暇の取得を抑制するすべての不利益な取扱いはしないようにしなければならないものであること」としており、不利益取り扱いを禁止しています。

4.年休申請期限の規定化

ところで、労基法では労働者が年休を申請する時期に関して何ら定めはありません。この点、上記1にありますように、年休は原則として労働日(暦日)単位での労働義務の免除であるため、遅くともその日が始まる前、すなわち年休取得日の前日までに申請する必要があると解されます。なお、就業規則において「年次有給休暇を請求しようとする者は、原則として取得を希望する日の●日前までに所属長に申し出なければならない。」といった申請期日を設けている例を目にしますが、これについては労働者の年休の時季指定権を損なわない範囲であれば、このような申請期日の定め自体が直ちに労基法に違反するものではないと筆者は考えます。

ただし、事前申請期限の合理的な範囲は、会社の規模や業態など様々な要素によって異なるため、一律に決定することは難しいと考えられます。そのため、この範囲については、労使間でよく話し合って決定することが望まれます。さらに、その決定された申請期日については守るように努めるべきルールという程度で考えるべきで、就業規則に定める事前申請期限を過ぎた後の年休申請を拒むことが、いかなる場合も有効となるものではないことに留意しておく必要があるでしょう。

 

5.年休の事後的振替

上記4の通り、年休は遅くとも前日までの申請が必要であると解されるところ、病気等により当日になって急に欠勤しなければならない事情が生じた場合であっても、会社の承認に基づいて当該欠勤を事後的に年休へ振り替えることは認められています。この点、通達(昭23.12.25基収4281、昭63.3.14基発150号)では「欠勤(病気事故)した場合、その日を労働者の請求により年次有給休暇に振替えることは違法ではないと思料するが、就業規則その他にその事を定める必要はないか。」との問いに対し、「当該取扱いが制度として確立している場合には、就業規則に規定することが必要である。」とされていますので、年休の事後的振替について、就業規則に規定しておくことが求められます。

<就業規則の規定例>
第××条 (年次有給休暇)
▼.…(略)…
▼.遅刻・早退および私傷病欠勤は、会社が承認した場合に限り、年次有給休暇残日数を限度として半日または1日の年次有給休暇と振り替えることができる。

 

 
 

6. 年休の買い上げの可否

年休は実際に取得して休むことに意味があるのはいうまでもありません。この点、通達(昭30.11.30基収4718号)においても、「年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である。」とされている通り、法定の年休を買い上げることは問題となります。ただし、労基法の規定を上回る形で会社独自の年休として付与している日数分に関しては、買い上げることは差し支えありません。

なお、退職時や消滅時効(労基法第115条により付与日から2年間)によって未消化のまま消滅する年休を買い上げることは事前の買い上げとは意味合いが異なることから、必ずしも違法とはなりません。ただし、このような買い上げの仕組みがあることで、結果として年休の取得が抑制されることのないよう、十分に留意する必要があります。また、買い上げが慣例化すると、買い上げが当然のことと捉えられる可能性もあるため、慎重に検討すべきでしょう。

 

 

7.退職直前の年休消化と時季変更権

最後に、実務上よく問題となるのが退職直前の年休消化です。退職する労働者は可能な限り退職日までに年休を消化したいと考える一方で、会社側は引継ぎなどをしっかり行い、退職日まで勤務してほしいと考えることが多いでしょう。このように双方の意見が対立し、トラブルに発展するケースが見受けられますが、会社側は引継ぎを理由に時季変更権を行使できるのでしょうか。

時季変更権については、前々回のコラムで触れた通り、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季にこれを与えることができる」とされています(労働基準法第39条第5項ただし書き)。ただし、退職者の場合、たとえ時季変更権行使の前提である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しても、退職日以降に時季変更は行えません。従って、例えば「退職日までのすべての労働日について年休を取得する」という申し出があった場合、事実上、時季変更権を行使できないという結論に至ります。この点については解雇に関する内容になりますが、通達(昭49.1.11基収5554号)においても「解雇予定日を超えての時季変更は行えないものと解する」とされています。

最終的には、退職する労働者と交渉して年休取得を取り下げてもらい、一定の日数は出勤してもらうことで着地を目指す方法が考えられます。ただし、実際には引継ぎが十分に行われないまま退職するケースも多く見られるため、業務が属人化しないよう、日頃から業務を可視化しておくことが大切です。突然の退職と年休消化の要望があった場合に、ある程度対応できる体制を整えておくことが望ましいと筆者は考えます。

 

 

まとめ

年休について3回にわたり解説しました。今回は特に実務上問題となりやすい事項について採り上げましたので、皆様の今後の実務対応にお役立ていただければ幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考URL

■厚生労働省 年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説

〔執筆者プロフィール〕
社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
土岐 紀文

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

 

〔この執筆者の記事〕
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