こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。
さて今回は、「年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)」について採り上げます。
Indexポイント1.労働基準法に定める年次有給休暇とは 2.継続勤務とは 3.全労働日と出勤率の算定方法 4.年休を与える時季と時季変更権 5.付与日数 6.年休の取得単位(1日、半日、時間単位の付与) まとめ |
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労働基準法(以下、労基法といいます)第39条では、雇入れの日から6か月間継続して勤務し、その期間の全労働日の出勤率が8割以上である場合の2つの要件を満たした場合に、年次有給休暇(以下、年休)を与えなければならないこととされています。その後は、最初に年休が付与された日(以下、基準日といいます)以後の1年間において全労働日の出勤率が8割以上である場合に、後述(「5.付与日数」参照)の日数が付与されることになります。
この2つの要件を満たすことにより、年休は労働者の権利として当然に発生することになります。なお、年休は労働者が請求する時季に与えることとされていますので、労働者が具体的な取得日を指定した場合には、原則としてその日に与える必要があります。
さて、年休の権利が発生するための2つの要件について、もう少し見ていきましょう。
まず、「継続勤務」について、通達(昭63.3.14基発150・婦発47、平6.3.31基発181)によれば「継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断すべきもの」とされており、次の場合が挙げられています。
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なお、定年退職者の再雇用に関し、同通達では「ただし、退職と再雇用の間に相当期間が存し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合にはこの限りではない」とされているところ、「相当期間」について具体的な期間は述べられていませんので、個別の事情や実態に応じて判断されることになります。実務上は定年退職後に1日の空白もなく再雇用となることが多いと思われますので、この場合には継続しているものと考えることになります。
次に、「全労働日の8割以上出勤していること」について確認します。「全労働日」とは労働義務が課されている日(=所定労働日)をいい、休日は含まれません。また、「8割以上出勤」に関して、出勤率の算定方法は以下の通りです。
<出勤率の計算式> 出勤率 = 出勤日 / 全労働日(暦日数 - 休日日数) |
<「出勤日」の計算において、出勤したものとみなす期間>
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<「全労働日」から除外する日>
※労基法第68条に定める生理休暇、会社が任意で定める慶弔休暇や特別休暇等の取扱いについては、会社の定めによります。また、遅刻早退の取扱いについては、「遅刻早退は、一労働日の所定労働時間の一部について就労しないものであるが、出勤率の計算上の出欠は、労働日を単位としてみるべきものと考えられるので、これを欠勤として取り扱うことは認められない(株式会社労務行政、労基法コンメンタール)」とされています。 |
年休は労働者が請求する時季に与えることとされていますので、労働者が具体的に取得日を指定して会社に通知した場合には、その日に年休を与える必要があります。ただし、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる(労基法第39条第5項ただし書き)とされており、会社にはいわゆる時季変更権の行使が認められています。
しかしながら、この時季変更権は単に忙しいからといった理由だけで認められるものではありません。事業の正常な運営を妨げる場合に該当するのは、例えば同一期間に多数の労働者が年休を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合といったように、極めて限定的なものであると考えておくべきといえます。
年休の権利発生要件を満たした場合に付与される日数については、勤続年数に応じて以下の通り定められています。
なお、パートタイム労働者など、所定労働日数や週所定労働時間数が一定以下の労働者については、所定労働日数等に応じて付与することになります(以下、比例付与といいます)。
<原則の付与日数>
勤務日数 | 6か月 | 1年 6か月 |
2年 6か月 |
3年 6か月 |
4年 6か月 |
5年 6か月 |
6年 6か月以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
<比例付与の日数>
週所定 労働日数 |
年間所定労働日数 | 勤続年数 | |||||||
6か月 | 1年 6か月 |
2年 6か月 |
3年 6か月 |
4年 6か月 |
5年 6か月 |
6年 6か月以上 |
|||
4日 | 169日~216日 | 付与日数 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121日~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | |
1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
比例付与の対象となるのは週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下であって、かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者です。従って、例えば週4日で1日の所定労働時間が7.5時間の場合、週所定労働時間は30時間となることから、比例付与ではなく、原則の付与日数によることになります。
また、全労働日の出勤率が8割以上の要件については、基準日前の6か月または1年間の状況により判断しますが、付与日数は基準日における所定労働日数等により決定することになる点は注意が必要です。例えば基準日前の出勤率を算定する際の過去の一定期間(6か月または1年間)は週所定労働日数が週3日であったため比例付与の対象となっていたものの、基準日時点において週5日の契約に変更となった場合には、原則の付与日数によることになる、ということです。
年休の取得単位に関して、労基法では原則として1日単位の取得を想定していますが、半日単位の取得も差し支えないこととされています。この点、休暇に関する事項となりますので、半日単位の取得を認める場合には、就業規則等に半日単位で年休が取得できることを定めておく必要があります(労基法第89条)。
<就業規則の規定例> 第××条 (年次有給休暇) ▼.…(略)… ▼.年次有給休暇は半日(●時間)を最小単位として取得することができる。 |
また、仕事と生活の調和を図る観点から、労基法により求められた事項を定めた労使協定の締結を要件として(①時間単位年休の対象者の範囲、②時間単位年休の日数、③時間単位年休1日分の時間数および④1時間以外の時間を単位として与える場合の時間数、詳細は下記URLのリーフレットをご参照ください)、5労働日分に限って時間単位での取得が認められています(以下、時間単位年休といいます)。なお、この時間単位年休については制度の導入が会社に義務付けられているものではありません。労使協定の締結を要件としている通り、導入するか否かは会社および労働者に委ねられています。なお、時間単位年休を導入する場合には、労使協定の締結のほか、半日単位の取得と同様に、就業規則に時間単位年休の取得ができる旨の規定が必要となります。
<就業規則の規定例> |
今回はここまでとさせていただきます。次回以降も引き続き年休に関する基本的な知識の整理とその他の年休に関するルールや留意点について触れたいと思います。実務を担当されている方々におかれましては簡単な内容に感じられたかもしれませんが、基本的な知識の確認と整理としてご参考になりましたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています
■厚生労働省 時間単位の年次有給休暇制度を導入しましょう!
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。