ビジネスにおいて信頼感のある関係性を示すラポールが形成されていると、従業員のモチベーション維持や取引先との交渉に役立ちます。ラポール形成の重要性やテクニックをご紹介します。
ラポールとはフランス語の「rapport」に由来し、信頼関係や心が通じあう関係を指します。もともとは心理学や精神科の臨床などで、医療従事者と患者の関係性を表す言葉として使用されてきました。ラポールが形成されていると、双方がリラックスし効果的な対話が可能となります。
ビジネスシーンにおけるラポールも、上記と同様に信頼感や親密さのある関係性を指します。ラポールの形成により、人事と従業員、上司と部下、プロジェクトチーム、同僚、クライアントなどとの情報共有や協力関係の強化が期待できるでしょう。
信頼しあう関係性、つまりラポールが形成されていると、従業員や部下のモチベーション維持や、顧客とのより効果的なビジネスを可能にします。ここでは、ビジネスシーンにおける、ラポールの効果やメリットを解説します。
ラポールが形成されると話しやすい雰囲気が醸成され、円滑なコミュニケーションが実現します。これにより、無用な誤解や衝突が起こりにくくなることは大きなメリットといえるでしょう。
例えば、テレワークがメインの業務や、シフト制でメンバーが定まらない現場のように、一般に相談や報告がしにくい環境では、チーム間のラポール形成がスムーズな意思疎通のカギとなります。
ラポールがある関係では、相手が安心して話を聞いてくれるようになり、提案や説明に説得力が生まれます。また、相互理解が深まっているため、会話から相手のニーズや価値観を理解しやすくなります。
上記のようなラポールの効果により、社外においては成約率やリピート率の向上が、社内においてはチームワークが必要なプロジェクトや、社員研修、新人教育などへのよい影響が期待できます。
ラポールの形成は、心理的安全性にも大きく寄与します。心理的安全性とは、組織の中で否定されない・罰されないと感じ、安心してアイデアや意見を言える状態のことで、「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」という研究結果もあります。
心理的安全性の高いチームは、互いに助け合う風土が醸成されます。全体のパフォーマンスが底上げされ、プロジェクトの成功や目標達成がしやすくなるでしょう。
以下の記事では、心理的安全性の高い組織づくりについて解説しています。こちらもぜひご覧ください。
ラポールは時間をかけて形成されるもので、一朝一夕にはできないものです。しかし、ラポールの形成を助ける効果的なテクニックはいくつかあります。ここでは代表的な4つの手法を解説します。
ミラーリングはラポール形成テクニックの中では最もポピュラーといえるもので、相手のしぐさや動作をよく観察し、鏡のように真似ることをいいます。「自分と似ている人に親近感や好意を持ちやすい」という「類似性の法則」という心理を応用したテクニックです。
例えば相手が笑う、瞬きをする、机の上に手を出す、飲み物を飲む、前傾姿勢をとる……といった動作を真似します。ただし、意図的であることを気づかれると不審に思われて逆効果に。相手をよく観察し、かつ、おおげさではない自然さで取り入れるのがミラーリングのポイントとなります。
マッチングとは相手と声のトーンや大きさ、話のテンポなどを合わせる(同調させる)テクニックです。先のミラーリングは「視覚」で得た情報を模倣するものであるのに対し、マッチングは主に「聴覚」で得られた情報をもとにします。
例えば、相手と話すテンポや声の大きさが合わず話しにくかったという経験は、誰しもあるものです。マッチングは話す調子を相手と意識的に合わせることで、話しやすさや居心地のよさを演出することを狙いとします。
キャリブレーションとは、顔色や声色、しぐさなどから相手の状態を読み取って、自分の声のトーンや話す内容を調整していくテクニックです。
例えば、相手が楽しそうであれば声のトーンを明るくしたり、疲れているようであれば声のトーンを落として穏やかに話したりといったような配慮をしてみます。あるいは、不愉快そうな表情をしていたら話題を変える、納得していないようなら補足説明や要約をするなどもキャリブレーションのテクニックのひとつです。
キャリブレーションはミラーリングやマッチングよりも感覚に頼る部分が大きく、難易度が上がります。しかし、キャリブレーションがうまく機能すれば、相手は「自分のことを理解してくれている」と感じ、ラポールの効果的な形成につながるでしょう。
バックトラッキングとは、相手が言った言葉をそのまま返して会話を進めるテクニックです。「嬉しかったんですよ」「嬉しかったのですね」、「残念でした」「残念でしたね」と、相手の発言をオウム返しすることを基本とします。あるいは、相手の発言の中でキーとなる単語(例えば商品名、数字、場所など)だけを、そのまま言い返すという方法もあります。
適切なバックトラッキングが行えると、相手は「受け入れられている」「理解されている」と感じラポールを形成しやすくなります。ただし、不必要な言葉を付け足したり言い換えたりすると、相手の意図と異なってしまう可能性があり、その場合はバックトラッキングの効果が薄まります。相手の言葉そのままを返すのがポイントです。
自分の言いたいことに終始したり、やみくもにテクニックを駆使したりすることは、ラポールを築きにくくし、また、損ないやすくします。ラポール形成のつもりで関係を悪化させることのないよう、意識したいことや注意点を押さえておきましょう。
信頼関係を築くためには、「相手を尊重している」という姿勢を相手にわかるように示すことが重要です。身だしなみを整える、興味深そうに相槌を打つといった、コミュニケーションの基本的なマナーはラポール形成にかかせません。
また、むやみに話を遮ったり、「でも」や「いや、それは…」と否定から入ったりしていないかなど、自身のコミュニケーションを振り返ってみるのもよい方法です。相手の言い分が間違っていると感じたとしても、まずは相手の発言を受け止めて、尊重や理解を示すようにしてみましょう。
テクニックの項で解説したように、相手から発せられているメッセージや感情を読み取るためには、相手をよく観察することが第一歩となります。思い込みや偏見など、相手に対してバイアスをかけていないか、常に注意するクセをつけるのも効果的です。
テクニックばかりに頼ると不自然になり、かえって相手に不信感や不快感を抱かせる可能性も。大切なのは相手に対する理解や受容を、相手にわかるように示すことです。その上で補助的にテクニックを活用すれば、ラポール形成を効果的にサポートしてくれるでしょう。
ラポールは相互に安心感や安定感をもたらすものです。ビジネスシーンにおいても、人事と従業員、上司と部下、同僚、企業と取引先/顧客など、あらゆる関係性においてラポールの形成は重要といえます。
ラポールは段階的に築かれるものなので、日々のコミュニケーションで意識的に強化していく必要があります。日常のちょっとした会話や打ち合わせ前の雑談などは、お互いの共通点や価値観を知るよい機会と捉え、意識的にラポール形成に取り組んでみましょう。