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社労士のアドバイス/管理監督者の適正性

作成者: randstad|Aug 2, 2024 12:00:00 AM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の高田と申します。

弊事務所では、人事・労務分野における様々なサービスをご提供しております。筆者自身も主に労務相談顧問という形で日頃から顧問先企業様のご相談等に対応していますが、本コラムでは、企業で人事・労務の実務に携わる皆様の視点に立って、分かりやすい解説を心がけていきたいと思います。

Index

 

 

 

ポイント

  • 管理監督者とは、労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意である。
  • 世間一般的には、管理監督者を法律上の本来の範囲よりも広く取り扱う傾向が見られる。
  • 管理監督者の範囲が適切でなかった場合は、重大な法令違反や財務的なダメージに繋がるおそれがある。
  • 管理監督者性には、「職務内容」「責任と権限」「勤務態様」「賃金等の待遇」の4つの判断要素がある。
  • これらの判断要素は総合的に判断するものであり、否定する要素が1つもなかったからといって管理監督者として認められるわけではなく、また、1つでも否定する要素があったからといって直ちに管理監督者として否定されるわけでもない。

 

 

はじめに

管理監督者というのは、法律(労働基準法第41条第2号)上の表現を引用すれば「監督若しくは管理の地位にある者」のことですが、この解釈をめぐっては、しばしば労使間の対立が生じます。管理監督者に対しては、労働基準法の労働時間、休憩および休日に関する規定の適用が除外されますので(労働基準法第41条)、企業側としては、管理監督者には36協定を適用しなくてよい(労働時間の上限がない)、時間外・休日労働の割増賃金を支払わなくてよいといった捉え方をしがちです。このため、世間一般的には、管理監督者を法律上の本来の範囲よりも広く取り扱う傾向が見られることになります。

もし、皆様の企業において、本来は管理監督者に当たらない人を管理監督者として取り扱っており、それによって、労働時間の上限を超えて労働させていたり、または時間外・休日労働の割増賃金を支払っていなかった場合には、重大な法令違反に繋がるのみならず、未払賃金の遡及精算という財務的なダメージをも負うことになります。

そこで今回は、労働基準法上の管理監督者が、本来はどのような人を指しているのかについて、詳しく見ていきたいと思います。

 


1.管理監督者とは

管理監督者の定義については、通達(昭和22.9.13発基第17号、昭和63.3.14基発第150号)において以下のように示されています。

「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。

「部長や工場長」というのは単なる例示ですので、部長や工場長であれば管理監督者であるという意味ではありません。また、同じ「部長」という役職名であっても、その役割や権限は企業ごとに異なりますので、名称のみでもって一律に判断するのではなく、「実態に即して」判断することになります。

上記の定義の中では「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」の部分がキーワードであり、特に「経営者と一体的な立場」の部分からは、相当程度に高度な役割と権限を有している者を指していることが伺えます。決して、その企業における職制上の管理職(課長、係長といった組織の長)が自動的に管理監督者に当たるわけではなく、管理監督者というのは、本来は相当に狭い範囲を指しているとのイメージを持っておいた方が良さそうです。

 

 

2.管理監督者性の4つの判断要素

行政(厚生労働省)が公表しているパンフレット(下記)によると、管理監督者性の判断要素としては、次の4つが挙げられています。

① 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
② 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
③ 現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
④ 賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

具体的には、次以降で詳しく見ていきます。

 

①②「職務内容、責任と権限」についての判断要素

ここでは、自らが所属する組織(部門や支店等)の従業員に対して、採用、解雇、人事考課および労働時間管理といった職務や責任・権限を有しているかどうかで判断します。

「労務管理について経営者と一体的な立場にある」からには、自らが統括する組織の人員について計画を立てたり、また計画に沿って実際に人員を採用、解雇、昇降格、配置転換したり、処遇決定の基となる人事考課を実施する立場にあるはずです。加えて、日々の勤務に対しては、時間外や休日労働を命じたり、休暇を承認したりする役割も担っているはずです。したがって、以上で述べた判断要素を満たさない場合は、管理監督者性を否定する重要な要素となります。

③「勤務態様」についての判断要素

管理監督者とは、労働時間、休憩および休日の規制がなじまないような重要な職務を担う者のことですので、遅刻、早退等が生じた場合に、懲戒処分の対象となったり、人事考課においてマイナスの評価の対象となったりするようでは矛盾しているということです。つまり、その企業の勤務ルールにおける、特に「時間」についての拘束を受けるようでは管理監督者としての職務遂行にはなじみませんので、遅刻、早退がペナルティの対象となっていたり、欠務時間相応分の賃金が減額されたりする場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。

このほか、営業時間中は店舗に常駐することが義務付けられていたり、アルバイト等のシフト人員が不足する場合には自らがその穴埋めをして長時間労働を余儀なくされるなど、自らの労働時間に関する裁量が殆どないと認められる場合も、管理監督者性を否定する補強要素となります。

 

④「賃金等の待遇」についての判断要素

管理監督者とは、経営者と一体的立場にあるような重要な職務内容、責任と権限を有している者のことですので、その処遇についても、他の一般的な労働者と比べて一線を画す程度に優遇されて然るべきです。

この点、管理監督者の基本給等の固定的な賃金や1年間の賃金総額が、時間外・休日の割増賃金が支払われる一般の労働者と比べて、充分な優位性が確保されていなかったり、同程度以下であると評価される場合には、管理監督者性を否定する補強要素となります。

さらには、管理監督者の労働時間が長く、賃金総額を総労働時間で除した時間単価が極端に低額になるような場合(パンフレットにおいては「アルバイト・パート等の賃金額に満たない場合」と「最低賃金額に満たない場合」の2つを例示)は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となります。

 

 

まとめ

以上の4つの判断要素は、仮に、管理監督者性を否定する要素として挙げられているもののうち、該当するものが1つもなかったからといって、管理監督者として認められるわけではありません。また、判断要素のうち1つでも否定する要素に該当した場合に、直ちに管理監督者として認められなくなるという意味でもありません。あくまでも、総合的に判断するものとなります。

弊所では、労務診断等を通じて様々な企業の管理監督者の範囲を確認する機会がありますが、その範囲を、法律上の本来の範囲よりも広く取り扱っている企業は実に多いと感じます。ひとたび管理監督者性が否定された場合には、管理監督者ではない者に対して本来支払うべき時間外・休日労働の割増賃金を支払っていなかったことになりますので、将来に向かっての運用の是正のみでは済まされず、過去分の未払賃金の精算を余儀なくされることが一般的です。

もし管理監督者の範囲について不安があるという企業のご担当者様は、このような事態にならないよう、是非早めに対策を検討されるよう提言させていただきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考資料「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」パンフレット

〔執筆者プロフィール〕

社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
高田 弘人

社会保険労務士法人大野事務所に2008年入所。入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

 

 

〔この執筆者の記事〕