法人向けHRブログ workforce Biz

社労士のアドバイス/歩合給に対しても割増賃金は必要か?

作成者: randstad|Jul 5, 2024 8:27:12 AM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。

さて今回は、「歩合給に対しても割増賃金は必要か?」について採り上げます。

Index

ポイント
歩合給とは
歩合給の割増賃金の考え方
具体例な計算方法
みなし労働時間制が適用されている場合は?
まとめ

 

 

ポイント

  • 歩合給とは一般的に売上や成果に応じて決定される賃金のことをいい、毎月の成果に応じて支給額が決定する歩合給の場合には、時間外・休日・深夜労働が発生した際に、それぞれ割増賃金の支払いが必要となる。
  • 歩合給に対する割増賃金の計算は通常の計算方法と異なり、割増賃金の単価算出に際しては、歩合給を総労働時間で除して求める。
  • その単価に時間外労働では0.25、休日労働では0.35、深夜労働では0.25を乗じた金額が割増単価となる。
  • みなし労働時間制が適用されている場合、みなし労働時間制が適用される日の労働時間については「特定の時間」労働したものとして、総労働時間を算出するのが妥当と筆者は考える。
 

歩合給とは

歩合給とは一般的に売上や成果に応じて決定される賃金のことをいい、営業職や販売職などでよく見られます。歩合給は「出来高払制その他の請負制」の一つであり、出来高払制とは、「労働者の製造した物の量・価格や売上げの額などに応じた一定比率で額が定まる賃金制度をいう」とされています(「労働法」菅野和夫著)。
今回のコラムでは、毎月の成果に応じて支給額が決定する歩合給の割増賃金について整理します。

 

 

歩合給の割増賃金の考え方

割増賃金の対象となるのは労働基準法(以下、労基法)第37条第1項において「通常の労働時間又は労働日の賃金」とされていますが、労基法第37条第5項および同法施行規則第21条では、算定基礎額から除外できる賃金が挙げられています。具体的には、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金および⑦一か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つです。

今回の歩合給は上記の7つに該当しませんので、時間外・休日(法定休日をいいます。以下同じ。)および深夜労働に対する割増賃金が必要となります。通常の割増賃金は、月給ならば「割増賃金の算定基礎額÷月平均所定労働時間」により算出された単価、時間給ならば時間給に割増率を乗じて割増単価を算出しますが、歩合給の場合は計算方法が異なります。

この点、歩合給の場合の計算方法については労基法施行規則第19条第1項第6号および通達で次の通り示されており、歩合給を総労働時間で除して単価を算出し、その単価に時間外労働であれば0.25、休日労働であれば0.35、深夜労働であれば0.25を乗じた割増単価に、それぞれの時間数を乗じて求めることになります。なお、「1」の部分に関しては、歩合給の中に含まれているものとされています。

<歩合給の割増賃金の計算式>

「歩合給÷支給月の総労働時間数×割増率(0.25または0.35)×時間外・休日・深夜労働時間数」

 

<労基法施行規則第19条第1項第6号>

出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

 

<通達(昭23.11.25基収第3052号、昭63.3.14基発第150号、平6.3.31基発第181号、平11.3.31基発168号)>

出来高払制労働者の時間外割増賃金(労働基準法第37条関係)

(問)賃金が出来高払制その他の請負制によって定められている者が、法第36条第1項もしくは法第33条の規定によって時間外又は休日の労働をした場合の賃金の支払方法如何。その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に法第36条第1項もしくは法第33条の規定によって延長した労働時間数もしくは休日労働時間数を乗じた金額のそれぞれ12割5分、13割5分を支払うべきであるか、又はそれぞれ2割5分、3割5分で差支えないか。

(答)見解後段の通り。

※下線部は筆者追記
 

 

具体的な計算方法

それでは、以下の例で割増賃金の計算方法を確認してみましょう。

  • 基本給: 320,000円
  • 歩合給: 100,000円
  • 月間(平均)所定労働時間: 160時間
  • 時間外労働時間: 30時間
  • 休日労働時間:10時間
  • 深夜労働時間:5時間
  • 総労働時間:200時間(=160時間(月間所定労働時間)+30時間(時間外労働時間)+10時間(休日労働時間))

 

(1)通常の賃金の算出

■基本給
320,000円 ÷ 160時間(月間(平均)所定労働時間) = 2,000円
■歩合給
100,000円 ÷ 200時間(総労働時間) = 500円

 

2)時間外労働に対する割増賃金の計算

■基本給
2,000円 × 1.25 × 30時間 = 75,000円 … ①
■歩合給
500円 × 0.25 × 30時間 = 3,750円 … ②
時間外労働に対する割増賃金の支給合計:78,750円(①+②)
 
 
(3)休日労働に対する割増賃金の計算
■基本給
2,000円 × 1.35 × 10時間 = 27,000円 … ③
■歩合給
500円 × 0.35 × 10時間 = 1,750円 … ④

休日労働に対する割増賃金の支給合計:28,750円(③+④)

 

(4)深夜労働に対する割増賃金の計算

■基本給
2,000円 × 0.25 × 8時間 = 4,000円 … ⑤
■歩合給
500円 × 0.25 × 8時間 = 1,000円 … ⑥
深夜労働に対する割増賃金の支給合計:5,000円(⑤+⑥)
 

(5)支給合計

支給合計:532,500円
 = 320,000円(基本給) + 100,000円(歩合給) + 78,750円(時間外労働手当) + 28,750円(休日労働手当) + 5,000円(深夜労働手当)
 
 

 

みなし労働時間制が適用されている場合は?

ところで、事業場外のみなし労働時間制などのみなし労働時間制が適用されている場合の総労働時間はどのように考えればよいでしょうか。この点については法令および通達では明らかにされておらず、労働基準監督署によっても見解が異なるようです。ただ、みなし労働時間制により「特定の時間」を労働したものとみなすことから、みなし労働時間制が適用される日の労働時間は「特定の時間」働いたものとして、総労働時間を算出するのが妥当と筆者は考えます。

 

 

まとめ

毎月の成果に応じて毎月の支給額が決定する歩合給については以上となります。

なお、一か月を超える期間ごとに支払われる歩合給の場合には割増賃金の算定基礎から除外できる賃金に形式上は該当するものの、果たしてその成果を一か月以上にわたって算定する必要があるのか否かについては、その合理的な理由があるといえるのかがポイントになると筆者は考えます。割増賃金の算定基礎に含めたくない意図から歩合給の算定期間を一か月以上とするのは問題が生じる可能性がありますので、この点はご留意ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考URL

■厚生労働省 しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編

 
〔執筆者プロフィール〕
社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
土岐 紀文

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

 

〔この執筆者の記事〕
社労士のアドバイス/算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)
社労士のアドバイス/算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)
社労士のアドバイス/固定残業代の計算方法と運用上の留意点
社労士のアドバイス/研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?
社労士のアドバイス/労働時間の適正把握と労働時間の状況の把握