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11月1日施行・進化する「フリーランス」を守る法整備

作成者: randstad|Oct 18, 2024 12:00:00 AM

2023年春に成立した「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が、24年11月1日に施行されます。組織に属さず、自身の知識や能力を生かして個人で事業を行うフリーランスを守る新法で、発注側である企業に対する規制を強め、受注側であるフリーランスを守る法整備を施したのが特徴です。

新法制定の背景やポイントは、23年秋にお伝えしておりますが(下記参照)、今回の法令解説コラムでは、政府が施行に向けて1年がかりで策定を進めてきた新法に連なる省令と指針(ガイドライン)を中心に分かりやすく紹介します。

省令と指針は、実務上の運用ルールを定めた企業にとって大切な内容が盛り込まれており、公正取引委員会が「取引適正化」について、厚生労働省が「就業環境整備」について取りまとめました。

[参考記事] 企業に求められる「フリーランス新法」への理解と対応 ~ニーズに応じた働き方を柔軟に選択できる環境整備~

 

目次

(1)取引条件の明示義務
(2)期日における報酬支払義務
(3)発注企業の7つの禁止行為
(4)育児介護等と業務の両立に対する配慮義務
(5)ハラスメント対策に係る体制整備義務
(6)中途解除等の事前予告・理由開示義務

 

 

「フリーランス新法」とは

働き方の多様化が進み、フリーランスという働き方が広がってきた一方で、 フリーランスが取引先である企業との関係で、報酬の不払いやハラスメントなどのトラブルを経験しています。

 個人であるフリーランスと、組織である発注企業の間における交渉力の格差、それに伴うフリーランスの弱い立場をカバーするため、フリーランスが安心して働ける環境を整備するために制定しました。

 

 

違反行為への対応

<フリーランス> 発注企業に本法違反と思われる行為があった場合、その内容を公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に対して申し出ることができます。 

 <行政機関> 申し出の内容に応じて、報告徴収・立ち入り検査といった調査を行い、発注企業に対して指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・公表をすることができます。

■命令違反には50万円以下の罰金

 <発注企業> フリーランスが行政機関の窓口に申し出をしたことを理由に、契約解除や今後の取引を行わないようにするといった不利益な取り扱いをしてはなりません。 

  

 

 

義務と禁止行為

(1)取引条件の明示義務

フリーランスに業務委託をする場合、取引条件を書面または電磁的方法により明示しなければなりません。

※電磁的方法とは「電子メール」「SNSのメッセージ」「チャットツール」など 

<明示すべき8つの事項>

1、発注企業とフリーランスのそれぞれの名称
2、発注企業とフリーランスとの間で業務委託・受託を合意した日
3、フリーランスに依頼する業務の内容
4、作業期日と納品期日
5、作業場所と納品場所
6、作業内容を検査する場合の期日
7、具体的な報酬の支払い期日
8、現金以外の方法で報酬を支払う場合の支払方法

 

▼明示すべき8つの事項を満たした書面の例

出典:厚生労働省

 

▼明示すべき8つの事項を満たした電磁的方法の例

出典:厚生労働省

 

(2)期日における報酬支払義務

発注事業者は、発注した給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、支払期日を定め、その日までに報酬を支払わなければなりません。

出典:厚生労働省

 

(3)発注企業の7つの禁止行為

フリーランスに1カ月以上の業務を委託している発注企業は、7つの禁止行為が定められています。たとえフリーランスの了解を得たり、合意していても、また、発注企業に違法性の意識がなくても、これらの行為は本法に違反することになるので注意が必要です。

出典:厚生労働省

 

①受領拒否

フリーランスに責任がないのに、委託した物品や情報成果物の受け取りを拒む行為。発注事業者の一方的な都合による発注取り消しや、納期を延期することで、あらかじめ定めた納期に受け取らないことも受領拒否に当たります。

 

②報酬の減額

フリーランスに責任がないのに、業務委託時に定めた報酬の額を、後から減らして支払うことです。協賛金の徴収、原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず、あらゆる減額行為が禁止されています。

 

③返品

フリーランスに責任がないのに、フリーランスに委託した物品や情報成果物を受領後に引き取らせることです。不良品などがあった場合には、受領後6カ月以内に限って、返品することが認められます。

 

④買いたたき

フリーランスに委託する物品等に対して、通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬の額を定めることです。買いたたきは、発注事業者がフリーランスに業務委託し、報酬を決定する際に規制されるものです。

 

⑤購入・利用強制

フリーランスに委託した物品等の品質を維持、改善するためなどの正当な理由がないのに、発注企業が指定する物や役務を強制して購入、利用させることです。

 

⑥不当な経済上の利益の提供要請

発注企業が自己のために、フリーランスに金銭、役務、その他の経済上の利益を提供させることによってフリーランスの利益を不当に害することです。

名目を問わず、報酬の支払とは独立して行われる金銭の提供や、作業への労務の提供をすることが、フリーランスの直接の利益とならない場合が対象となります。

 

⑦不当な給付内容の変更・やり直し

フリーランスに責任がないのに、費用を負担せずに、フリーランスの給付の内容を変更させたり、フリーランスの給付を受領した後に給付をやり直させたりして、フリーランスの利益を不当に害することです。

発注側の都合で、発注を取り消したり、やり直しをさせる場合には、フリーランスが作業に要した費用をしっかり負担する必要があります。

 

 

(4)育児介護等と業務の両立に対する配慮義務

6カ月以上の業務委託について、フリーランスが妊娠、出産、育児または介護(育児介護)と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。 

※6カ月未満の業務委託について、フリーランスが育児介護と業務を両立できるよう、必要な配慮をするよう努めなければなりません(努力義務)。

 

育児介護の配慮の対応例

 出典:厚生労働省

 

(5)ハラスメント対策に係る体制整備義務

ハラスメントによりフリーランスの就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければなりません。

 

業務委託におけるハラスメントの類型

【セクハラ】セクシュアルハラスメント
<対価型>フリーランスに対し性的な関係を要求したが拒否されたため、フリーランスとの契約を解除すること。
 <環境型>発注企業の雇用する従業員が、同じ事業所において就業するフリーランスに関係する性的な内容の情報を意図的かつ継続的に広めたため、フリーランスが苦痛に感じて仕事が手につかないこと。

 

【マタハラ】妊娠・出産等に関するハラスメント
<状態への嫌がらせ型>妊娠したことなどのみを理由として嫌がらせをする行為。妊娠したことなどのみを理由として契約の解除、その他の不利益な取り扱いを示唆すること。 
<配慮申し出への嫌がらせ型>申し出をしないように言うなど、配慮の申し出を阻害すること。

 

【パワハラ】パワーハラスメント
業務委託に関して行われる
①取引上の優越的な関係を背景とした言動であって、
②委託業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③フリーランスの就業環境が害されるものであり、
①から③までの要素を全て満たす行為。

 

1、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発

①発注事業者の方針等の明確化と社内(業務委託に係る契約担当者)へ周知・啓発すること。
②ハラスメント行為者に対しては厳正に対処する旨の方針を就業規則などに規定すること。
 

2、 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

①相談窓口を設置し、フリーランスへ周知すること。
②相談窓口担当者が相談に適切に対応できるようにすること。
 

3、 業務委託におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

①事案についての事実関係を迅速かつ正確に把握すること。
②事実関係の確認ができた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に実施すること。
③事実関係の確認ができた場合、行為者に対する措置を適正に実施すること。
④ハラスメントに関する方針の再周知・啓発などの再発防止に向けた措置を実施すること。
 

4、併せて講ずべき措置

①上記1~3の対応に当たり、相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員およびフリーランスに対して周知すること。
 ②フリーランスが相談をしたこと、事実関係の確認などに協力したこと、労働局などに対して申出をし、適当な措置を求めたことを理由に契約の解除などの不利益な取扱いをされない旨を定め、フリーランスに周知・啓発すること。

 

 

(6)中途解除等の事前予告・理由開示義務

発注企業は、①6カ月以上の期間で行う業務委託について、②契約の解除または不更新をしようとする場合、③例外事由に該当する場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までにその旨を予告しなければなりません。

 予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を発注事業 者に請求した場合、発注事業者は、例外事由に該当する場合を除いて、遅滞なく開示しなければなりません

 

 

 

すべての業種で「労災保険」に特別加入

「フリーランス新法」の施行に合わせて、これまで一部の業種に認められていたフリーランスの「労災保険」特別加入がすべての業種に拡大されます。

 フリーランスが自身で保険料を負担する必要がありますが、仕事や通勤などでのケガ、病気、障害、死亡の際には、雇用されている労働者と同様の補償を得られます。

 

 出典:厚生労働省

 

まとめ

 フリーランスは企業などに雇用される労働者ではなく、独立した事業主という法的位置づけのため、労働基準法などの保護を受けられない立場です。政府が2020年に実施した調査によると、国内のフリーランス人口は約462万人、そのうち企業の業務委託を受けて働く人は6割にあたる約273万人と推計されています。

 労働組合のナショナルセンターである連合が実施したフリーランス調査では、契約内容の明示が「ある」は30%に過ぎず、「ない時もある」が46%、「ない」が25%。4割のフリーランスが発注者とのトラブルを経験しており、その中身は報酬支払いの遅れ、一方的な仕事内容の変更、不当な低報酬などが多数を占めています。

 フリーランスの活躍は日本経済の成長に大きく貢献するとみられており、フリーランスが"泣き寝入り"を余儀なくされている状況は打開しなければなりません。「多様な働き方」の推進につながる法整備は急速に広がっており、「フリーランス新法」の誕生もその一環と言えます。企業には、新たなルールと対応策を的確に押さえて、フリーランスと良好に連携していくことが期待されています。