政府の雇用保険の料率が、4月から引き上げられます。一般企業の場合は現行の1.35%から0.2%上げて1.55%に上げるもので、昨年末の労働政策審議会で了承されました。理由はコロナ禍における雇用調整助成金(雇調金)が巨額に上り、雇用保険の積立金が底をついたためです。
雇用保険料は企業などの使用者と労働者の折半で、現行の料率は使用者が賃金の0.85%、労働者が0.5%を負担し、合わせると1.35%。これを4月から0.2%上げるため、使用者は0.95%、労働者は0.6%と計1.55%になります。法律上の負担は1.55%ですが、これまではコロナ対策で料率を引き下げていたため、引き上げにより原則通りになる格好。労働者にとっては、月収30万円の場合なら、現行の月1500円から300円増えて1800円になります。
使い道の内訳は失業手当に0.8%、育児休業手当に0.4%、二事業(再就職支援などの企業助成と能力開発事業)に0.35%。失業手当と育児休業手当は労使折半で、二事業は使用者のみの負担。今回は現行の失業手当0.6%に0.2%を上乗せするものです。
雇用保険はこれまで比較的潤沢で2000年度以降は毎年積立金が増え続け、15年度には6兆4280億円の過去最高を記録。その後、保険料率を下げたことなどから減少が続いていましたが、それでもコロナ前の19年度には4兆4871億円ありました。
しかし、新型コロナの感染拡大が本格化した20年4月から、政府は雇用の維持を図るため、雇調金の支給要件を大幅緩和する特例を実施したことから、支給額は急増。20年度は累計で2兆9410億円、21年度は5兆898億円、22年度は6兆2600億円(12月末時点)に上りました。
この財源を積立金で賄ったことから、積立金が枯渇してしまい、21、22年度は補正予算を組んで辛うじて維持。しかし、失業給付など雇用保険の本来の事業に使う資金がなくなったため、料率アップに踏み切るものです。
雇調金が失業率の抑制効果を発揮したのは間違いありません。厳しいコロナ対策が実施された20年後半、完全失業率は2%台から3%台に上昇したものの、21年に入ると再び2%台に低下して現在に至っています。リーマン・ショックのあおりで失業率が5%台になった09、10年当時との大きな違いがここにあります。大和総研は20年時点の抑制効果を2.0~2.4ポイントと試算しており、「雇調金が機能しなかった場合、失業率は一時的に5%を超えた可能性がある」と分析しています。
しかし、21年に入って世界経済が回復傾向をみせた一方、日本経済は経済活動の低迷が続き、回復が軌道に乗ったのは22年になってから。コロナ対策の緩和に容易に踏み出せなかったのが大きな要因ですが、雇調金があくまで失業回避の一時的、緊急措置のはずだったのですが、広範囲に長期化したのも要因の一つと指摘されています。