ランスタッドは世界38カ国に展開する世界最大の総合人材サービス会社。21年間にわたり、世界中で会社の認知度や働く場所としての魅力度を「エンプロイヤーブランドリサーチ」として調査、レポートしています。
エンプロイヤーブランドが高い企業は実際にどのような取り組みを行い、いかにして従業員との関係性を構築しているのでしょうか。その議論を深めていくウェビナー形式の本セッション、第3回目はゲストにJAPAN CLOUDの人事採用ディレクターの千葉修司氏をお迎えしました。
エンゲージメントの向上に力を入れる千葉氏。エンゲージメントとエンプロイヤーブランドの関係について、お話を伺いました。
ゲストスピーカー
千葉 修司 氏
ジャパン・クラウド・コンサルティング株式会社 人事・採用ディレクター
大日本印刷で人事総務を担当後、マーサージャパン、アクセンチュアにて組織・人材マネジメント、営業支援コンサルティングに従事。その後、セールスフォースのセールス・イネーブルメントに初期メンバーとして参画し、マルケトでのセールス・イネーブルメント、人事責任者等を経て現職。
ファシリテーター
西野 雄介
ランスタッド株式会社 人事本部 タレントアトラクション部 部長
人材会社を経てシンガポールへ移住し、エンワールドのシンガポール法人にて経営人材ヘッドハンティングや同事業の経営を経験。帰国後は事業会社の人事・採用責任者等を経験し現職。Forbes JAPANのオフィシャルコラムニストとして、キャリアや組織についても発信。
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社員のエンゲージメントが高い状態とは?
千葉:JAPAN CLOUDで人事採用を担当しております、千葉と申します。これまで約20年、人事の仕事をしてまいりました。外資、日系、コンサルティングと事業会社、そして大手あるいはスタートアップという、色々な特徴ある組織における人事に携わってきたというのが、私のキャリアの特徴かと思います。
未だにずっと、人事の仕事は難しいと思っている1人であり、日々悩みながらこの仕事に向き合っている1人であります。タイトルに“等身大”とありますが、私も今日、等身大で話をさせていただきたいと思っておりますのでよろしくお願い致します。
JAPAN CLOUDについて簡単にご紹介いたします。私たちの創業者はセールスフォース・ドットコム(セールスフォース・ジャパン)などの日本進出に関わってきました。そのノウハウを生かし、日本と世界トップクラスクラウドソリューションの架け橋となることを目指し、B2B SaaSの分野において海外で急成長している企業の日本市場への進出および中長期的な成長を支援しています。 日本企業の方々に安心して提供できるように、確実な成功例を持っている企業と共に日本市場開拓に取り組んでおります。
現時点では先に日本市場でスタートをきった会社で50〜60名規模、直近スタートしたばかりの会社はまだ2〜3名。それぞれの立ち上げフェーズにおける人事に私も携わっております。
西野:非常にユニークな会社ですよね。JAPAN CLOUDという会社と、各関連会社それぞれの取り組みに、千葉さんは関わっていらっしゃる。小さな組織から大きな組織まで、今日は両方の観点を踏まえながらお話を伺っていきたいと思います。
早速、一つ目のテーマ「社内のエンゲージメントを高める方法」を伺っていきましょう。ビッグテーマですけども、そもそもエンゲージメントって何でしょうか。
千葉:エンゲージメントという言葉が流行りはじめて数年が経ちますが、「エンゲージメントとは何か」というのは唯一の絶対解はないと思っています。一方で、「エンゲージメントが高い状態」というのは少し定義ができそうだと思うので、それを少しご紹介します。
私なりの解釈ですが、“属している会社の成長を自分が喜べる状態”、平たく言うとそれが「エンゲージメントの高い状態」かと思います。これが成り立つのは、けっこう難しい。
まずは会社が何らかの目標に向かって進んでいる・成長している状況があり、それに対して自分自身も貢献でき、かつ成長できていると思っている。しかもそれが何らかの形で認められている状態であり、金銭的・非金銭的かは問わいませんが報酬も得ている、さらにこの先自分が頑張れば、自分も会社もさらに良い方向に行きそうだと思える。これらがそれぞれ成り立たなければいけません。
シンプルに言うと「個の成長と組織の成長がイコールの関係にあり、喜べる状態」。これは言うのは簡単ですが、実現するのはとても難しい。この関係が崩れている状況が、多くの組織であるのではないかと捉えています。
ミスマッチを防ぐジョブディスクリプション
西野:難しく広いテーマですけど、エンゲージメントが低いとミスマッチが起こる訳ですよね。
千葉:そうですね。エンプロイヤーブランディングとも非常に大きく結びついてくると思うんです。エンゲージメントが高い組織はブランディングもしやすい。「自分も組織も成長している状態」は、ミスマッチが起こりにくい状況になっていると思うんです。
これを人事の言葉を用いて平たく言うと、ジョブディスクリプション(以下、JD)にいかに落とすか。会社としてこういう方を求めています、これをやっていただけるとパフォーマンスを発揮していると見なします。さらにはこんな成長を期待しています、と落とし込める。JD作りを怠ると、ミスマッチに結びつく問題と捉えています。これは詳細なJDを作り込みましょう、ということではありません。どんなことを求めているか、箇条書き5点で良いので整理することだと思います。
西野:期待値調整ということですね。JDや、面接で本人のやりたいことを聞くことも含め、お互いの期待値が合っているかどうか。100%合うことはなかなかないと思いますが、調整しあえる幅をお互い持っているかが1つのポイントでしょうか。
千葉:おっしゃる通りだと思います。大前提として、個人と雇用主の関係が「主従から対等に変わってきた」と言われて久しく、どの組織であってもゆっくりその方向性に向かっていると思います。伝統的な日本の大企業であっても新規事業(例:サブスクリプション型ビジネス)開発に舵を切った時など、これまで組織内では育成できていなかった人材を求めて中途採用が増えて、必ず直面する。
その「対等」の関係性において、会社側がどんなスキルセットや経験値を持つ方を採用したいのか。その要件に対して、入社するタイミングでは100%持ち得ていなくても、入社後のオンボーディングプログラムなどスキル開発できる体制が整っているのか。入社後の30日、60日、90日のタイミングで、どれくらいキャッチアップして活躍していただきたいと思っているか、というすり合わせだと思っています。
これらを整理して、提供していくのが人事の採用担当であり、オンボーディングや受け入れ教育担当の方々の仕事なのではないかと思っています。今申し上げたところはすべてがエンプロイーエクスペリエンスとしてつながってくる。シンプルですが、それが一番大事なのかなと。これを実現できている状態が、“エンゲージメントの高い状態”の鍵なのかなと思っています。
西野:全部つながっていて、すべてが一貫性を持って行われていることが重要ということですね。実際にJAPAN CLOUDもしくはその関連会社においては、どのように具体的な取り組みをされていますか。
千葉:JD、すなわち、どんな人材を求めていくかを考えることに、ものすごく汗をかいています。今我々の関連会社には、スタートアップカンパニーが8社ありますが、その中でも各ポジション――営業やマーケティングあるいは導入コンサルティングなど――それぞれの1人目を採用するステージと2〜3人目を採用するステージで、求める要件は違います。
組織が10人の時、30人位の時、100人位になる時と、求める人材像が大きく変わってくる。同様に、入社して得られるもの、その魅力も変わってくる。ですから、まずどのステージでどんな人材に来ていただくとお互いに幸せになれるかを突き詰めて考えることが重要だと思います。
求める人物像と入社後のオンボーディングを一貫させる
千葉:例えば第1号の営業社員を募集・採用する時、IT業界での経験は何年なのか、さまざまな製品を扱ってきたのか・単一ソリューションだったのか。あるいは大手企業担当なのか中小マーケット担当だったのか、新規開拓だったのか既存顧客深耕担当だったのか等々。洗い出していくとすごい数の判断軸が出てきます。これをどう組み合わせるかでJDができてくる。各職種において日々こんな議論に向き合っています。
西野:JD作りに汗をかくところに投資し切れてない企業も意外とあるのではないでしょうか。ここのすり合わせをどれだけするか、あるいはマーケットの中にどんな人がいるのかも含めてすり合わせていくことが一番の肝ということでしょうか。
千葉:そう思います。正直、JDがきれいであることには、あまり意味が無いと思っています。それよりも、各部門長、関連部門、人事など、あらゆる関係者と「こういう理由でこういう方に来てもらいたい」「色々な方に会ったけれど、こういう判断でこの方に入社してもらう」と議論を重ねて、「よし、それでいこう」とみなで言えるかどうかではないかと。この作業は簡単ではありません。
西野:先程、オンボーディングの大切さについてもお話しがありましたが、JAPAN CLOUDではどのようにされていますか。
千葉:入社後30日で何をどこまでラーニングして身に付けていただくのか。そして60日あるいは90日で、どんなパフォーマンスを発揮していただくかをしっかり考えていく。これは我々に限らず、外資系企業では比較的一般的なよくある考え方かと思います。
例えば営業職であれば、入社1年以内に10年いる方と同じパフォーマンスは求めないですよね。ある程度科学的に「これくらいを求めていこう」というのをまずセットした上で、1カ月目、2カ月目、3カ月目はここまでのアウトプットを求めたい、だからこそこんなインプット・プロセスをやっていきましょうと。
西野:なるほど、オンボーディングでスムーズに導入し、期待値の調整やギャップが無くなることも含め、候補者としてすべて一貫してパッケージで受け取っていただく。そして上手くパフォーマンスを出せる状態になっていくということですね。
千葉:まさにそうです。本日ご参加の皆様は役職のある方々や人事の方が多いと思いますので踏み込んだ議論をさせていただくと、入社後の試用期間3カ月目を経て本採用するかどうか、どういう基準でいつどう判断するのか、どの会社様も悩んでらっしゃると思います。
この判断にあたり、前提となる求める人材像についての「採用時点でのスキル・経験値」と、その後の「オンボーディングのプログラムを通じて」、そして「試用期間明け」さらには「半年・1年後」というタイミングでの判断があるべきです。その「納得感(現場の実態との整合性、関係各者との合意)」が働く個々人のエンゲージメントにつながる。翻ってブランディングやカルチャーにつながるし、組織の大事な根幹になってくると思っています。
「良い組織を作る」エンプロイヤーブランディング
西野:この一連のフローのはじめに来る、もしくはこのフロー全体を見渡しているのが、今回のテーマである「エンプロイヤーブランディング」ではないかと思うのですが。千葉さんにとってのエンプロイヤーブランディングとはどういうものでしょうか。
千葉:エンプロイヤーエクスペリエンスやエンプロイヤーエンゲージメントなど色々な言葉があると思いますが、あまり小難しく考えなくても「良い組織を作ること」に他ならないと思っています。
もちろん良い組織を作るのは何のためと言われたら、企業の成長のため、財務的な成長のためというのは外せません。ただ私は、人間は皆それぞれがより良い環境に身を置きたいというすごく生理的な願いがあると心から信じています。
良い組織に属することができて良い成果が出ることは、社員もクライアント企業も、そのサービスを受け取るお客様も、あるいは株主もパートナー企業も、みんな求めていることではないかと思うのです。
ですからエンプロイヤーブランディングとは何かと問われれば、良い組織づくりをすることですし、その組織にかかわる方々が、ちょっとでも気持ち良い状態になる――「良い」の中にはお互いWin-Winになる、財務的な目標を達成するというのは当然ありますけれど――そういうことではないでしょうか。
西野:良い組織を作る、みんながハッピーになる。それが言語化された、もしくは何かの形にしていくものがエンプロイヤーブランディングなのかもしれません。じわじわとにじみ出ていくものを含めて、企業のブランディングになってきますよね。
千葉さんのお話を伺っていると、千葉さんを通じてJAPAN CLOUDがどういう会社なのか、感じるものがあります。人事の方が社員の幸せを考えている、良い組織を作ろうと考えているという熱が伝わってくる。おそらくこれは選考の際の候補者の方にとってもそうではないでしょうか。人事の方が、真面目なことを恥ずかしげもなく、堂々と誇らしく言えることが、一番カルチャーを示しているのではないかと、今聞いていて感じました。
千葉:ありがとうございます。今いただいたフィードバックはすごくありがたいです。人事の担当として今のようにいられるためにも、たくさん条件があると思います。例えば自分の上司や経営陣が、社員に対して自分とまったく違う考え方であるとか、表で言っていることと実際が違うとか、その差が大きすぎたら私はこうはいられないと思うのです。
私がこんな風に申し上げられるのは、日々接している関連会社各社の社長たちが、組織作りやカルチャー作り、ブランディングに向き合う姿勢にリスペクトができ、一緒に仕事ができて気持ち良いと思えるからかと。ちょっと美談が過ぎたら突っ込んでください(笑)。
西野:まさに等身大のエンプロイヤーブランディングですね。
次に、今回のタイトルでもある、その「等身大のエンプロイヤーブランディング」について伺っていきます。