障がいのある方向けの保険を手がけるぜんち共済は、障がい者雇用にも積極的に取り組んできました。同社で社員同士が感謝を伝え合う文化を育んできた榎本さん、亀田さん、田平さんへのインタビューを、前編・後編の2回でお届けしています。前編では、誕生日の花や仕事の話をしない会など、小さな機会の積み重ねで感謝が行き交う職場になるまでをうかがいました。
(前編はこちら)
2026年7月、民間企業の障がい者の法定雇用率は2.5%から2.7%に引き上げられ、雇用義務の対象も拡大しています。雇用人数に目が行きがちですが、障がい者雇用に取り組む企業が増えるなかで、ぜんち共済では障がいのある方もやりがいをもって働いています。「できて当たり前」を外した仕事の任せ方と、トップに問われる覚悟を中心にうかがいました。
ぜんち共済は、知的障がいや発達障がいなどがあり、生命保険の加入に必要な告知をご本人が行うことが難しい方や、服薬や持病があって一般的な保険に加入しにくい方にも、保険を提供してきました。前身は、2000年に障がいのある子どもを持つご家族とともに設立された「全国知的障害者共済会」です。
損害保険では、怪我や賠償事故は補償できても、入院したときの医療費や万一のときの備えは生命保険の領域ですが、一般的な生命保険会社では引き受けが難しいのが現状です。そこでその代理店の方から、生命保険に代わる制度をなんとかつくれないかと相談されたことがきっかけです。
榎本氏 無認可の共済事業なら可能だったので、2000年に全国知的障害者共済会を立ち上げました。各県にあるご家族でつくられる会のもとへ、団体としての承認をいただくために回りました。加入者は約2万人にまで増えました。ところが保険業法が改正され、共済事業を続けるには、保険会社になるしかありませんでした。子どもたちの保障を守るために、少額短期保険業者になる道を選び、2006年に法人化しました。
しかし会社をつくっても、登録が取れないと保険事業は始められません。準備期間も含めた2年間は収入がなく、資本金を集めるのにも苦労しました。思うように集まらず「もう無理かもしれません」とこぼしたとき、創業を支えてくれた会社の社長に「ふざけるな」と一喝されたんです。「お前がやるべきことは、1日も早く障がいのある方のために保険会社をつくることだろう」と。その言葉で目が覚めました。私たちが保険を提供することで救われる人たちがいるという一心で、事業を続けることができました。
事業が動き出し、契約が増えていくと、書類の処理や発送といったバックオフィス業務も増えていきます。手いっぱいになる社員が出てくるなか、ぜんち共済の障がい者雇用は、福祉施設の方に会社で作業をしてもらう「施設外就労」から始まりました。
榎本氏 最初は、福祉施設の方に週に1回来てもらって、会議室でパンフレットの封入作業を一緒にしていました。いろいろな障がいのある方が来てくれて、「同じ名前だね」「誕生日はいつですか」などと話すんです。そうするうちに、この方たちも私たちと変わらないんだと気づけるようになりました。
榎本氏 障がいのある方との何気ない会話を、私だけでなく多くの社員が経験するうち、社員のほうから「雇用しましょう」と言いだしたんですね。「書類の処理など手に負えないから、とにかく雇ってほしい」という切実な声もありました。すでにどんな仕事ならできそうかというコミュニケーションも取れていたので、受け入れもスムーズでした。
前編では「当たり前」がないところに感謝が生まれるという話がありました。この姿勢は、障がいのある社員と働く場面でも変わりません。経験の浅い社員に接するときと同じように、まず「何ができるか」を探すところから始まります。
榎本氏 マッチングが大切です。障がいがあってもなくても、本来は同じことですよね。それに面接だけでは相性を判断するのは難しいので、なんらかの実習や職場体験をすべきだと思っています。実習を通じて、その人がどんな特性を持っていて、どんな仕事に興味があり、どの程度コミュニケーションがとれるのかを理解するわけです。そして、一緒に働きたい、働いてほしいと思う人を採用すればいいのです。障がいのある方も同じで、自分が働きたいと思う会社を選べばいい。新卒採用でも、面接だけで会社の良し悪しは分かりにくいですよね、それと同じです。
田平氏 「できて当たり前」という前提を持たないようにしています。最初から当たり前を求めるのではなく、「何ができるのか」をこちらが見つけていく姿勢を大切にしています。
亀田氏 たとえば新卒社員に接するときにも、通じる話だと思います。最初からできて当たり前とは考えず、できることを見つけて任せていきます。障がいのある社員と働くときも、その点は変わりません。
田平氏 現場として苦労したのは、仕事の切り出し方です。何をどう任せればよいのか分からず、最初は試行錯誤の連続でした。
榎本氏 急がないけれど、やらなければいけない仕事は、どの会社にもあると思います。やってもらえれば助かる、そういう仕事をどんどん切り出せる環境をつくっておけば、自分が手をつけられなかった仕事を片付けてくれる障がいのある社員に、感謝の気持ちが生まれます。「助かったよ」と言い合える関係になるんです。そこに必要な能力を持った方も、たくさんいらっしゃいます。
つまり仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせるべきです。その人が興味のある仕事、やれる仕事に合わせてお願いすればいいと思います。「この仕事をやってください」と仕事ありきで決めると、無理が出ます。
障がい者が安心して働き、なおかつ能力を発揮できるような環境づくりのため、榎本さんが強調したのは、経営トップの関わり方でした。
榎本氏 人事や現場に任せきりにせず、トップ自らが「自分ごと」として障がいのある社員と向き合うことです。当社の役員も、障がいのある社員と真剣に向き合っています。障がい者雇用を人に任せてしまうのでは、ダメだと思います。自分から積極的に、障がいのある社員が働く現場に行って、声をかけるくらいのことをしないと本当に向き合っているとは言えないと思います。
榎本氏 社長が変わった途端に方針が変わってしまい、辞めてしまう障がいのある方もたくさんいます。それは、やはりトップの責任だと思います。
亀田氏 当社の経営理念は、出会った方すべてに心を尽くして対応しようというものです。「健常者だから」「障がいのある方だから」と分けたものではありません。お客様であっても社員であっても、障がいがあってもなくても、社員みんながそう接している状態が、当社にとって最高の姿だと思っています。
取材の終わりに、榎本さんが、社内の投稿の場「ぜん太の部屋」に寄せられた一通を読み上げてくれました。障がい者雇用で最初に入社した社員の投稿です。
これまでの人生では様々なことがありました。特に就職先がなかなか決まらず、どうすればいいのか本当に辛かったです。(中略)この会社に入社でき、正社員として働けるようになって本当に良かったと感じています。(中略)心を込めて感謝申し上げます。本当にありがとうございます。
仕事を任せ、感謝を伝え合うという積み重ねの先に、こうした言葉が生まれていました。
ぜんち共済様の実践にもあったように、障がい者雇用や定着の鍵は「面接だけで判断しないマッチング」と「一人ひとりの特性に合わせた環境づくり」にあります。
ランスタッドでは、多様な人材が個性を活かして活躍できるよう、採用から定着までをトータルでサポートする「障がい者(チャレンジド)人材サービス」を提供しています。
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