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「知っているつもり」が壁になる? LGBTQ+インクルージョンを阻む無意識の偏見と、今日から始める「アライ」への一歩

作成者: randstad|Nov 12, 2025 10:00:48 AM

2025年10月21日、オランダ王国大使館、在日オランダ商工会議所、エヌエヌ生命保険株式会社、そしてランスタッド株式会社の共催による「オランダ企業と考える、明日から始めるLGBTQ+インクルージョン研修」が開催されました。

講師に認定NPO法人虹色ダイバーシティ理事の有田伸也氏をお迎えし、LGBTQ+に関する基礎知識から、職場で明日から実践できる具体的なアクションまで、幅広く解説いただきました。

本ブログでは、当日の講演内容と、参加者アンケートから見えたリアルな声や学びをご紹介します。

 

高まる関心と裏腹に、現場が抱える「インクルージョンのリアルな壁」

オランダは、世界で初めて同性婚を法制化した国であり、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)先進国として知られています。今回のウェビナーは、そうした背景を持つオランダ系企業が共同で主催し、インクルーシブな職場環境づくりへの強い意志を示すものとなりました。

参加者アンケートからも、「インクルーシブな組織文化の醸成」「多様な人材の活躍支援」といったテーマへの関心が非常に高いことが伺え、多くの企業担当者がこの課題に真摯に向き合おうとしていることがわかります。

その一方で、参加者が職場で感じている課題として(複数回答)は、「何が差別やハラスメントにあたるのか、判断に迷うことがある」(30件)「不適切な言動を見聞きした際に、どう指摘・対応すれば良いか迷う」(26件)「適切な言葉遣いや基礎知識に自信がなく、当事者との接し方に戸惑ってしまう」(22件) といった声が上位を占め、現場のリアルな課題感も浮き彫りになりました。

こうした企業の皆様の高い関心と、具体的な課題意識に応えるべく、今回のウェビナーは開催されました。

 

 

基礎知識のアップデート:「LGBTQ」と「SOGIE」

講演では、まず基礎知識の確認から始まりました。特に重要なのが「LGBTQ」と「SOGIE」という2つの概念です。

  • LGBTQ:レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング(またはクィア)の頭文字をとった言葉。主に性的マイノリティを指す総称の一つです。
  • SOGIE(ソジー):
    • SO(Sexual Orientation):性的指向(好きになる相手の性別)
    • GI(Gender Identity):性自認(自分の性別をどう認識しているか)
    • GE (Gender Expression):性表現(服装、言葉遣い、振る舞いなど、自分の性別をどう表現するか)

「LGBTQ」は当事者に当てはまる言葉ですが、「SOGIE」はセクシュアリティに関わらず「すべての人」が持っている属性です。

講師の有田氏は、「SO(性的指向)やGI(性自認)は、見た目では判断できず、また判断してはいけない要素です」と強調しました。私たちは誰もがSOGIEを持っており、LGBTQ+インクルージョンとは、特定の人たちだけではなく、私たち全員に関わる課題なのです。

 

 

無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)に気づく

職場でインクルージョンを進める上で壁となるのが、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」です。悪意がなくても、無意識の思い込みが当事者を傷つけ、働きづらさを生むことがあります。

講演では、以下のような日常的な会話が例として挙げられました。

  • 「彼氏/彼女いるの?」「結婚はまだ?」
    • → 異性を好きになること、結婚することを前提にしている。
  • 「(女性に対して)お子さんの予定は?」
    • → 女性が結婚・出産・育児をすることを前提にしている。
  • 「男らしい」「女らしい」といった決めつけ。

こうした発言は、相手のSOGIEを決めつける「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」となり得ます。

参加者アンケートでも、この点に関する「気づき」が多く寄せられました。

「コンシャスバイアスからマイクロアグレッションに移行していくことについて、改めて自己認識を常に行っていくことを心掛けたいという気付きになった。」

「無意識のバイアスについて、自分も偏見を持っている可能性があると常に意識することが重要だと感じた。」

自分の中にあるかもしれない偏見に気づき、言動を振り返ること。これがインクルーシブな職場づくりの第一歩です。

 

 

当事者の声に耳を傾け、学び続けることの重要性

講演では、有田氏自身の経験談も共有されました。有田氏はゲイの当事者として、職場でカミングアウトせずに働くことの困難さを語りました。

「プライベートの話になると、話を合わせるために架空の『彼女』の話をしていた。しかし、会話のつじつまが合わなくなり、ちょっとした発言から自身のセクシュアリティが勘ぐられるのではないかと不安になることがあった」

カミングアウトするか否かにかかわらず、すべての従業員が安心して自分らしく働ける環境が求められています。そのためには、周囲の理解とサポートが不可欠です。

さらに有田氏は、LGBTQ+に限らず、育児、介護、障がい、国籍など、様々なマイノリティの課題について「学び続けること」の重要性を強調しました。

「知らないから笑えるが、知っているから笑えない」という言葉にもあるように、知識をアップデートし続けることが、無意識の偏見を減らすことにつながります。有田氏は、「今は様々な当事者の声を聞く機会が増えている。ぜひそうした機会を利用してほしい」と呼びかけ、他者の立場を想像し、固定観念を振り返る努力の大切さを伝えました。

 

 

私たちが「明日から始める」アクション

ウェビナーのゴールは「小さなことで良いので『1つ』アクションを起こす」ことでした。

私たちにできることは何でしょうか。その一つが「ALLY(アライ)」になることです。アライとは、LGBTQ+当事者を理解し、支援する人を指します。

講演では、アライになるための3つのステップが紹介されました。

  1. 知る(学ぶ): まずは正しい知識を身につける。当事者の声に耳を傾ける。
  2. 言葉遣いや行動に気をつける: 無意識の偏見に気づき、決めつけをしない。(例:「パートナーはいらっしゃいますか?」と言い換える)
  3. 発信する(できる範囲で): 支援の意思を示す。(例:レインボーのステッカーをPCに貼る)

 

 

まとめ

今回のウェビナーは、LGBTQ+インクルージョンが「特別なこと」ではなく、「すべての人が働きやすい環境をつくる」という企業の持続的成長に不可欠なテーマであることを再確認する機会となりました。

参加者アンケートにあった「インクルージョンは『やる』という気持ちを持って『選択する』ことだ」という言葉の通り、私たち一人ひとりの意識と行動の選択が、インクルーシブな職場環境を実現します。

 

職場の「リアルな声」を知る:LGBTQI+労働者サーベイのご紹介

ランスタッドは、すべての人がその人らしさを発揮できる、公平でインクルーシブな社会の実現に向け、ED&Iの推進にグローバルで取り組んでいます。今回のウェビナーで浮き彫りになった「現場のリアルな壁」について、さらに深く知るためのレポートとして「ランスタッド・ワークモニター2024年 LGBTQI+労働者のパルスサーベイ」をご用意しています。

本レポートでは、日本、オランダを含む7つの主要市場で2,000人以上のLGBTQI+労働者の声に耳を傾け、職場における当事者たちのリアルな体験を調査しました。「日本のLGBTQI+労働者の34%が職場での差別に直面」しているといった実態や、半数以上が「企業が問題に取り組み、前向きな変化を起こすことを期待」している現状など、インクルージョン推進のための具体的なインサイトをご紹介しています。

 

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