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社労士のアドバイス/研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?|ランスタッド法人ブログ

作成者: randstad|Dec 7, 2023 3:00:00 PM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の土岐と申します。

社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。

さて、今回は「研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?」について採り上げます。

Index

ポイント

  • 労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいう。

  • 労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に決まるものである。

  • 使用者の指揮命令下に置かれたものといえるかが実務上問題となるところ、研修は受講が必須、自己学習は会社からの指示、接待、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は強制参加であれば、使用者の指揮命令下に置かれたものと考えられ、労働時間となる。

  • 一方、いずれも任意・自由参加であること、事実上の強制がないことが確保され、これに対する不利益取り扱いをしないということであれば、基本的には労働時間とはならない。

労働時間とは

厚生労働省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(以下、ガイドライン)」では、「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」とされているところ、これは最高裁判例(平成12年3月9日最高裁第一小法廷判決三菱重工長崎造船所事件)等により確立されたものになります。

なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て労働者の行為が使用者から義務付けられたものといえるか否かによって判断されることになります。この点、ガイドラインでは次の例が挙げられています。

使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

使用者から労働者に対する明示の指示のみならず、黙示の指示があったとされる場合に関しては、その個別具体的な状況から、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価される場合には、労働時間に該当すると判断されることになります。このように、使用者の指揮命令下に置かれた時間なのか否かが問題となります。

では、次の(1)から(3)が労働時間に該当するのか否かを検討してみたいと思います。

(1)研修、自己学習の時間

(2)接待の飲食、ゴルフ

(3)忘年会や歓送迎会

総論として、(1)~(3)のいずれも、必須・強制参加とされているならば、使用者の指揮命令下に置かれている時間であることから労働時間に該当します。一方、任意・自由参加であること、事実上の強制がないことが確保され、不参加であることに対する不利益取り扱いをしないということであれば、使用者の指揮命令下に置かれている時間とはいえないことから、基本的には労働時間とはならないものと考えられます。

なお、研修時間等の教育訓練参加の労働時間の該当性については、次の通り通達(行政解釈)が示されています。

・「労働者が使用者の実施する教育訓練に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」(昭26.1.20基収2875、昭63.3.14基発150・婦発47

・「当該研鑽が、上司の明示・黙示の指示により行われるものである場合には、これが所定労働時間外に行われるものであっても、又は診療等の本来業務との直接の関係性なく行われるものであっても、一般的に労働時間に該当するものである」(令元.7.1基発07019号 医師が行う学習、研究等の研鑽に要した時間の労働時間性に関するもの)

問題は「事実上の強制」がどのように判断されるのか、というところではないでしょうか。この点に関しては、労働者側が参加を断れない状況にあるかどうかの程度による、ということと筆者は考えます。この曖昧さが残る部分は争いになった場合にはどちらに転ぶかわかりません。労働時間の該当性を巡る疑義を払拭する点からは、労働時間として取り扱っておく方が無難かもしれません。ただし、労働時間として取り扱うことで、時間外労働が膨らむおそれがありますことから、36協定違反とならないことや長時間労働とならないように、時間外労働時間数には注視しておく必要があるといえます。

さて、それぞれのポイントをもう少し掘り下げてみます。

(1)研修、自己学習の時間

任意・自由参加としていながらも、特定の職種や業務を担当するなど、その業務を遂行するために必要となる資格試験の研修受講や自己学習については、その資格がなければ業務遂行が困難であるといった事情がある場合、業務上必須の資格であると考えられることから、実質的に使用者の指揮命令下におかれているものとして、その資格取得に要する時間は労働時間に該当する可能性が高いと考えます。

一方、その資格がなくとも業務遂行自体は可能ということであれば、任意・自由参加が確保されており、不利益取り扱いがなされない限りは労働時間にはあたらないと考えます。

その他にも実務上悩ましいのは、明確に受講を指示していないものの、勧奨はしているといったような場合でしょうか。このような場合では、その研修がどのような理由から実施されているのかが重要と筆者は考えます。例えば、「自己啓発支援制度があり、承認されれば補助が受けられる。ただし、自己啓発とは言いながらも、会社もその資格等の必要性を認めている」といった場合はどうでしょうか。

この点、総論として上記に述べた通り、研修等への参加が自由意思に基づくものであり、研修等への不参加について、会社が不利益な取り扱いをしないとするものであれば、労働時間とする必要はない、という整理になると考えます。ただし、受講を勧める程度であればよいのですが、実質的に強制されているなどといった事情があれば、繰り返しになりますが、労働時間に該当するといえるでしょう。

 

(2)接待の飲食、ゴルフ

接待やゴルフについて、招待される側で参加・不参加が労働者の自由であれば労働時間ではない、という整理になるのはわかりやすいと思います。悩ましいのは主催者側の場合と思われますところ、通常労働者に参加・不参加の自由はなく参加を要することが多いと考えられますので、労働時間であるという整理になるのが妥当と筆者は考えます。もちろん、主催者側であったとしても、その参加・不参加が労働者の自由であれば、労働時間には該当しない、と整理できるでしょう。

このように様々な状況が想定されますので、明確に線引きをするのは難しいところですが、やはりここでもポイントは、「参加が自由なのか(事実上)強制か」という点から、参加が自由ならば業務性はなく労働時間に該当しない、(事実上)強制であれば業務性があり労働時間に該当する、という整理になります。

(3)忘年会や歓送迎会

ここまで見てきたところでおわかりいただけたかと思いますが、参加が(事実上)強制とされるならば、使用者の指揮命令による会合への参加となり使用者の指揮命令下にあることから、忘年会や歓送迎会も労働時間に該当する、ということになります。
もしも労働時間として取り扱いたくないということであれば、実態も含めて、任意参加であることを担保しておく必要があるでしょう。任意参加であることを担保するというところでは、任意参加であることをあらかじめ周知しておくことはいうまでもありませんが、その他には、不参加の理由を聞かない、各部門等からの最低参加人数の設定をしない、歓送迎会の場合、主役も当然に任意参加として、主役が不参加であれば開催しない、といった対応が考えられます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。いずれの場合も、原則として全員参加していただきたいと考えるならば、疑義が生じるおそれがあるままに労働時間としないとするよりも、割り切って労働時間として取り扱うべきと筆者は考えます。労働時間として取り扱うことにより時間外労働手当等が発生するとは思いますが、バランスの問題はあるにせよ、その研修等によりもたらされる効果の方を重視するという観点も重要なのではないでしょうかと筆者は考える次第です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考>厚生労働省 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

 
〔執筆者プロフィール〕

社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
土岐 紀文

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2009年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。