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社労士のアドバイス/労働条件明示ルールの改正(2024年4月施行)|ランスタッド法人ブログ

作成者: randstad|Nov 1, 2023 3:00:00 PM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の高田と申します。

弊事務所では、人事・労務分野における様々なサービスをご提供しております。筆者自身も主に労務相談顧問という形で日頃から顧問先企業様のご相談等に対応していますが、本コラムでは、企業で人事・労務の実務に携わる皆様の視点に立って、分かりやすい解説を心がけていきたいと思います。

さて、前回は「労働条件明示における留意点」について解説しましたが、今回は、来年(2024年)4月に予定されている「労働条件明示ルールの改正」について採り上げます。

Index

ポイント
法改正の概要
①就業場所・業務の変更の範囲
②更新上限の有無と内容
③無期転換申込機会・無期転換後の労働条件
まとめ

ポイント

  • 2024年4月1日の法改正により、労働条件の明示事項が3つ追加される。
  • 同日以降に労働契約の締結・更新手続きを行う場合は、改正対応が必要となる。
  • いずれも重要な事項であるが、特に「就業場所・業務の変更の範囲」については、書き方を誤らないように細心の注意が必要である。

法改正の概要

2024年4月1日の労働基準法施行規則(第5条)改正により、労働条件の明示事項に次の3つが追加されます。

①就業場所・業務の変更の範囲
②更新上限の有無と内容
③無期転換申込機会・無期転換後の労働条件

対象となるのは、①はすべての労働者、②と③は有期契約の労働者です。
また、明示のタイミングとしては、①は労働契約の締結時と有期契約の更新時、②は有期契約の締結時・更新時、③は有期契約において無期転換申込権が発生する契約の更新時、となっています。もう少し分かりやすく言い換えると、①はすべての契約で明示が必要、②はすべての有期契約で明示が必要(ただし、更新上限を設けていない場合は不要)、③は有期契約のうち無期転換申込権が発生する契約でのみ明示が必要、ということです。

なお、本改正に関する各種資料(リーフレット・パンフレット、Q&Aや通達等)については既に厚生労働省ホームページ内に掲載されていますので、必要に応じて是非そちらもご覧ください。
厚生労働省 令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます

それでは、①~③の具体的内容について順に見ていきましょう。

①就業場所・業務の変更の範囲

「就業場所」と「従事すべき業務」の2つは、現行法においても労働条件明示事項に含まれています。つまり、現行法においては、この2つは雇入れ直後のものを明示すれば足りるわけですが、改正後は、将来的に変更する可能性のある範囲を指し示さなければならなくなったということです。

転勤や配置転換をめぐっては、労使のトラブルが多く発生します。その原因の1つとして、転勤や配置転換の可能性がある旨が労働者に知らされていなかったということが挙げられますが、このようなトラブルを少しでも無くそうというのが本改正の狙いです。裏を返せば、将来的に転勤や配置転換を命じる際において、明示した「変更の範囲」に含まれていない転勤や配置転換は命じづらくなることが予想されますので、適切に明示しておくことが非常に重要だといえます。

具体的な明示方法ですが、「就業場所」「従事すべき業務」ともに、「雇入れ直後」と「変更の範囲」とに分けて記載します。上記でご紹介したパンフレットにも様々な具体例が記載されていますので、是非参考にしてください。

(例)

▼就業場所
(雇入れ直後)
東京本社
(変更の範囲)
東京本社、大阪支社
▼従事すべき業務
(雇入れ直後)
人事業務
(変更の範囲)
人事、総務、経理の業務

就業場所、従事すべき業務ともに変更の範囲に制限がある場合は、その範囲を具体的に記載すればよいわけですので、ある意味それほど難しく考える必要はありません。(上記の例も、制限がある場合の記載例です。)

逆に、就業場所、従事すべき業務ともに変更の範囲に制限がない場合の方が、すべてを指し示しておかなければならないという意味において、一層注意が必要です。制限がない場合の一般的な記載例は、次のとおりになります。

(例)

▼就業場所
(雇入れ直後)
東京本社
(変更の範囲)
会社の全ての事業所
▼従事すべき業務
(雇入れ直後)
人事業務
(変更の範囲)
会社の全ての業務

一見これですべてを網羅できているように思われますが、次の3点が明確に指し示されていません。

・海外拠点がある場合の海外拠点における勤務場所
・在宅勤務などのリモートワークを認めている場合の勤務場所
・出向を命じる可能性がある場合の出向先における勤務場所や業務

したがって、もしこれらの可能性がある場合は、きちんと明示しておく必要があります。何しろ、特に無期契約を締結する際に明示する労働条件は、その後何十年にもわたって効力を持ち続ける可能性がありますので、将来的に海外赴任や出向を命じる可能性がある場合には、やはりきちんと明示しておかなければならないということです。

(例)

▼就業場所
(雇入れ直後)
東京本社
(変更の範囲)
会社の日本国内外の全ての事業所および会社の定める場所(リモートワーク実施場所を含む)、出向先の全ての事業所および出向先の定める場所
▼従事すべき業務
(雇入れ直後)
人事業務
(変更の範囲)
会社および出向先の全ての業務

ただし、本社にしか事業所がない会社や出向を実施したことのない会社が上記のように明示すると、それはそれで「日本国内外の全ての事業所とはどこを指しているのか?」「出向先とはどこを指しているのか?」と問われる可能性が当然あります。このようなケースにおける明示方法を考えてみましたので、ご参考にしていただければ幸いです。

(例)

▼就業場所
(雇入れ直後)
東京本社
(変更の範囲)
東京本社、将来的に会社が国内外の拠点を開設した場合は当該国内外の全ての事業所および会社の定める場所(リモートワーク実施場所を含む)、将来的に出向を実施した場合は出向先の全ての事業所および出向先の定める場所
▼従事すべき業務
(雇入れ直後)
人事業務
(変更の範囲)
会社の全ての業務、将来的に出向を実施した場合は出向先の全ての業務

②更新上限の有無と内容

これは、有期契約において、更新上限を設けている場合にのみ明示が必要な事項です。したがって、無期契約である場合や、有期契約であっても更新上限を設けていない場合の明示は不要です。明示方法の具体例は、次のとおりです。

(例)

▼更新上限の有無
有(契約期間は通算 5年を上限とする)
有(契約の更新回数は 4回までとする)

なお、上記でご紹介したQ&Aによると、労使間の混乱を避ける観点からは、今回の契約が何年目、あるいは何回目であるかを併せて明示することも考えられる、とあります。個人的には、当該Q&Aの趣旨は理解するところですが、このカウントを誤って記載してしまった場合のトラブルの方が怖いですので、記載するのであれば細心の注意が必要だと思います。

無期転換申込機会・無期転換後の労働条件

これらは、有期契約のうち、契約期間内に無期転換申込権が発生する契約においてのみ明示が必要な事項です。無期転換申込権が初めて発生した契約のみならず、労働者が無期転換申込権を行使せずに次の有期契約の更新に至った場合は、次の契約においても明示が必要です。勿論、無期転換申込権がまだ発生しない契約において明示することは差し支えありません。

※「無期転換申込権が発生する契約」とは、労働契約法第18条の定めに基づき、有期労働契約が通算して5年を超えて更新されている場合の契約を指します。

具体的な明示方法ですが、「無期転換申込機会」については、労働契約法第18条の定めに基づく措置になりますので、基本的には定型句をそのまま記載する形になります。また、「無期転換後の労働条件」については、変更がない場合は「無」で足りますが、変更がある場合において、その具体的な労働条件までは書き切れないと思いますので、変更後の労働条件について定めた就業規則や別紙等に委任する形を採るのが一般的になるのではないかと考えられます。

(例)

▼無期転換申込機会
本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日( XXX日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。
▼無期転換後の労働条件
この場合の本契約からの労働条件の変更の有無:有(無期転換社員就業規則および別紙のとおり)

まとめ

いかがでしたでしょうか。本改正における追加事項の3つは、いずれとも入社後において労使トラブルが多く発生する部分であり、あらかじめこれらの労働条件を明らかにしておくことによって、トラブルを回避しようとの狙いがあります。ですので、企業において採用や労働契約の実務に携わっている皆様におきましては、前回のコラムでお伝えした内容と合わせて押さえておいていただきたいと思います。

なお、本改正の施行日は202441日ですので、同日以降に労働契約の締結・更新の手続きを行う場合において本改正が適用されます。したがって、契約開始日が202441日以降であっても、当該契約の締結・更新手続きを同年331日以前に行う場合には、本改正は適用されません。もっとも、本改正に先行する形で、2024331日以前から改正対応を開始するのは問題ありませんし、実際、多くの会社において先行対応が開始されるのではないかと見込んでいます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

〔執筆者プロフィール〕

社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
高田 弘人

社会保険労務士法人大野事務所に2008年入所。入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。