勤務先としての企業の魅力度調査、ランスタッド エンプロイヤーブランド リサーチ。今年の調査結果では、飲食(食品・飲料・飲食)業界が認知度・魅力度ともに圧倒的なハイスコアという結果を示しました。それに対して、認知度が圧倒的に低かったのが人材サービス業界。金融・保険業界は、認知度は第2位にもかかわらず魅力度は最低スコアという結果でした。
認知度が高い業界は、生活に密接に関わる商品・サービスを扱う企業が属する業界が多く見られます。一方で、消費財として目に見えない人材サービスや天然資源・素材業界は、認知度が低い傾向に。では魅力度は業界の特性とどのように関係しているのでしょうか。それぞれの業界の特徴を解説します。
リサーチ結果全般にわたり、生活していく上で欠かせない食品や住居等にまつわる商品・サービスを提供している業界は、認知度が高い傾向にあります。その中でも飲食業界は認知度・魅力度の両方で抜きん出た結果となりました。
魅力度の調査で注目すべきは、「環境や社会に配慮している(CSR)」「社会的評価が高い」という項目が、他業界を引き離した1位となっている点です。働き手本人のキャリアや働きやすさに関することではなく、社会にどれだけ貢献できているか・世の中に評価され認められているかがポイントになっているのです。
営利企業として利益を追求するだけではなく、企業の責任として社会貢献や環境配慮に対する姿勢が問われていることがリサーチ結果から読み取れます。
他にも「職場環境が快適である」「興味深い業務内容を提供している」「財務体質が健全である」の項目が1位。「長期にわたる安定した雇用機会がある」が2位となっています。安定的に長く働きやすい環境が高評価につながっており、大企業が多いこの業界がトップにランクインしたのも納得の結果と言えるでしょう。人が生きていく上で欠かせない「食」を扱っていることから、景気の影響を受けづらいという特性も大きそうです。
意外なのは、「給与水準が高く、福利厚生が充実している」という項目は全体の中頃の順位という点。給料の高さや待遇の良さが必ずしも働く場所としての魅力度に直結している訳ではないようです。
魅力度で2位にランクインいしてる電気・精密機器業界のスコアからも、同じ傾向が見て取れます。魅力度調査の10項目のうち「環境や社会に配慮している(CSR)」「興味深い業務内容を提供している」が3位。「社会的評価が高い」「財務体質が健全である」「長期にわたる安定した雇用機会がある」の評価が4位に入っています。社会に対する企業の姿勢や貢献と、安定した基盤・雇用環境が魅力度を押し上げている点は、飲食(食品・飲料・飲食)業界と同様の傾向です。
加えて電気・精密機器業界は、「ワークライフバランスが実現しやすい」と「給与水準が高く、福利厚生が充実している」「職場環境が快適である」という項目も4位と、全体的に上位に入っています。満足度の高い働き方が実現できそうな印象を受ける結果となりました。
高い認知度に対して、魅力度のどの調査項目もスコアが低い結果となっている金融・保険業界。「環境や社会に配慮している(CSR)」「職場環境が快適である」「興味深い業務内容を提供している」の項目が最下位、「キャリアアップの機会がある」「ワークライフバランスが実現しやすい」「社会的評価が高い」「財務体質が健全である」「長期にわたる安定した雇用機会がある」等も低評価です。
調査結果からは、ハードワークと厳しい競争の環境下でキャリアを築き、生き残っていくのが容易ではない旧来からのイメージや、長く働き続けるのが難しい印象を持たれている可能性が考えられます。ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)が求められる今の時代を考慮したエンプロイヤーブランディングが必要になるでしょう。
「ワークライフバランスが実現しやすい」「利便性の良さ(リモートワークを含む)」の項目で全業界中トップとなるスコアを獲得している人材業界。一方で、「財務体質が健全である」「長期にわたる安定した雇用機会がある」「社会的評価が高い」の3項目は全業界の中で最下位。特に「社会的評価が高い」に関しては、他業界に比べ一段低いスコアとなっています。
人材が商品となるサービスの特性から、リーマンショックやコロナ禍のような不況の影響を受けやすいのが人材業界のビジネスモデル。そのイメージからか、安定性が低い印象を持たれていることが浮かび上がる結果となっています。
また前述の通り、「社会的評価が高い」という項目は食品や住居にまつわる商品・サービスを扱う業界の方が、全体的に評価が高い傾向が見受けられます。金融・保険業界や人材業界の商品は、消費者が個人や家庭で使用する「消費財」ではないことも、社会的評価を押し下げている要因の一つにあるのかもしれません。
魅力度が高い企業が高得点を得ている「社会的評価」とは一体どのような評価なのでしょうか。企業が評価される指標はさまざまです。どれだけ利益を生み出すか・株主に還元するかという経済的な価値もあれば、CSR活動におけるボランティアの活動時間や寄付金額等を指標とすることもできるでしょう。
しかしこれからの時代に企業が“社会”から評価されるポイントの一つとして重要になるのは、企業の存在意義という観点です。近年、多くの企業が「パーパス」を掲げ、自分たちが何のために存在しているのかを問い直しています。さらに社会からは、サプライチェーン等における人権尊重や従業員のダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、事業を通じた持続可能な社会への貢献といった取り組みに対する要求が高まっています。
そのような社会的責任に対する姿勢や考え方、自社の取り組みを発信していくことも、企業イメージの醸成やエンプロイヤーブランディングに有益に働くことでしょう。特に「サステナビリティ・ネイティブ」と呼ばれるZ世代に向けて採用活動やエンゲージメントを強化していく場合は欠かせない視点です。
人材が流動化している現在、採用広報や従業員のエンゲージメントにつながるエンプイヤーブランディングはますます重要度を増しています。何から手をつければ良いのかと悩むことも多いと思いますが、「環境・社会に配慮し社会から評価される安定企業」という目指す姿を思い描きながら、できることから始めていくことが大切です。
同じ業界内の上位にランクインしている企業はどこなのか、自社と同規模の企業はどのような取り組みを行なっているのか。働き手は今、企業に何を求めているのか。長年にわたる世界規模の調査だからこそ、見えてくるものがあります。
ぜひ、ランスタッドのエンプロイヤーブランド リサーチレポートを、ブランディング活動にご活用ください。