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【リスキリング・コーチングお勧め書籍】リード・ホフマン&ベン・カスノーカ『スタートアップ的人生(キャリア)戦略』|ランスタッド法人ブログ

作成者: randstad|Jun 29, 2023 3:00:00 PM

日々、新たな切り口で魅力的なタイトルを冠した新刊が登場する「ビジネス書」。
有名経営者や著名人の思想・仕事術を学べる「ビジネス書」は、自己成長やスキルアップをめざしたい、仕事の進め方や人間関係を改善させたいビジネスマンとって、多くの学びを与えてくれることでしょう。

本連載では、リスキリング&コーチングの専門家であり、15年で400社を超える組織の構造改革・雇用調整におけるHRコンサルティングに携わる一方で、リーダーとして200名を超える組織のピープルマネジメントも経験する下瀬川氏が、リスキリングやコーチングにお悩みの方やご興味がある方へ、お勧めのビジネス書を書籍要約と共にご紹介いたします。

 

 

 

副業解禁企業の増加

副業を解禁する企業が増えてきました。 

企業が副業を解禁しはじめた背景には、政府の施策(いわゆる働き方改革)と、生き残りをかけた企業側のニーズの一致があります。 

日本政府は、働き方改革の具体策として、2018年に「モデル就業規則」の改定、ついで「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の策定を行ない、一気に副業解禁の流れが出てきました。 

そして、2022年には、政府は「ガイドライン」の改訂を行ないました。新しいガイドラインでは、「企業は、労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、職業選択に資するよう、副業・兼業を許容しているか否か、また条件付許容の場合はその条件について、自社のホームページ等において公表することが望ましい」(令和4年7月改定版ガイドライン)とされており、今後は、副業や兼業、個人の自由な選択によるキャリア形成が可能となる動きがさらに加速されていく可能性があります。 

いわゆる「人生100年時代」、テクノロジーが人々の職を奪いかねない大失業時代?…等さまざまなことが言われています。 

先の見えない不透明な時代において、企業も、いままでの年功序列と終身雇用、一社への忠誠を基本とするような働き方の強要が不可能になってきたことはとっくにわかっていました。そこで、政府も、(税収確保の観点からも)個人の多様で柔軟な働き方を推進せざるを得なくなり、「働き方改革」と称する上記の動きへとつながって行きました。

 さて、副業解禁に見られるような「多様な働き方」「多様なキャリア」は、働く人々にとって、良いことなのか、悪いことなのでしょうか。それは、一義的には決められませんが、これからは、「今までの働き方が通用しない」時代になることは確かなようです。

若者はエスカレーターになかなか乗れず、ミドル世代は容易に上へと進めず、60歳以上の人々は仕事を辞めるに辞められない。…働き手は世界中の大勢(たいてい賃金がより安いフリーランス)と仕事を奪い合うことになり、そうこうするうちにあなたの給料は下がっていく。人材市場は、後戻りの利かない変化にさらされている。
(本書「はじめに」より)

 

そんな不透明な時代での、人生の生き残り戦略を説くのが本書スタートアップ的人生(キャリア)戦略です。

 

 

本書の構成

本書は、ビジネス特化型ソーシャルメディアLinkedInの共同創業者、リード・ホフマンと、企業家で作家のベン・カスノーカによる、個人のキャリアアップ戦略の書です。 

著者の二人は、彼らの事業の経験的事実と、上記の時代背景から、個人の生き方(キャリア)=スタートアップ(新興企業・起業)が採用する戦略、という理解に至ります。個人であっても、これからは、あたかも自分という製品を売る「スタートアップ企業」のような戦略に従ってキャリアを作っていく必要があるというのです。

その戦略は、以下の6章で詳細に語られます。

リード・ホフマン&ベン・カスノーカスタートアップ的人生(キャリア)戦略』 全6章の見出し

第1章:強みを培う

第2章:「変化への適応」はプランニングできる

第3章:強いつながり、弱いつながり

第4章:偶然の幸運を戦略的に引き寄せる

第5章:リスクに気づいたら、リスクの方があなたを探し当てる

第6章:他人の頭脳を拝借する

 

以下、順番に見ていきましょう。

 

第1章:強みを培う

キャリア戦略における最初のポイントは、「目的」よりも「強み」に着目することです。 

著者たちは、有名な自己啓発書『あなたのパラシュートは何色?』や『七つの習慣』で強調されている(人生やキャリアの)「目的」に焦点に当てて、使命を見出すというやり方だけでは足りない、むしろ危険だと指摘します。 

だが、あなたが身を置くのは静かな湖ではない。あなたはいま、最も流れの激しい川で、急流下りをしているようなものだ。…従来のキャリア・プランニングの手法は、比較的安定した状況では有効でも、変化が目まぐるしく先の見えにくい状況では、仮に危険ではなかったとしても、効果はごく限られる。
(第1章より)

 

仕事での方向性を決めるときに、最も重要なものは何だろう?…あなたの強みだ。

(第1章より)

 

「強み」を見つけるのも大変ですが、人生(キャリア)の「目的」を内省によって見つけ出すよりは簡単で、合理的にできそうです。 

著者たちは、「3つの歯車」の噛み合わせによって、あなたの「強み」が決まると指摘しています。その3つとは、「資産」「大志」「市場環境」です。ただ、すぐにこの3つを明確化する必要がないとも言います。これらは、実践しながら見つければよいといいます。いや、むしろ、やりながら、経験をしながらでなければ明確にはならないというのが正しいでしょう。 

1章では、資産(自分が持っているバランスシート、お金だけでなく、技術や知識など)、大志(将来の望み、アイディア、ビジョンなど)、市場環境(需要と供給、具体的な人の集まり)について、その見出し方、明確化するポイントを解説しています。熟達に時間のかかるスキルを変える代わりにスキルの適用する環境を変えて、自分の隙間(ニッチ)分野をつくりだす戦略など、具体的なアドバイスが詳しく書かれています。

 

 

第2章:「変化への適応」はプランニングできる

人生(キャリア)の戦略=計画は、長期的で、一貫したものであるべきでしょうか? 

著者たちは、長期的で揺るぎのない計画は無意味だと喝破します。もちろん、厳密に言えば、バラク・オバマ(元アメリカ大統領)のように、若くして大統領の座を視野に入れ、実際にその目標(計画)を実現させるような人物もいるが、そういった人はむしろ「異端」で、大多数は、何度も方向転換しながら人生を送るのです。 

しかも、現代はますます先の見えない時代になっています。ルールも変わる、突飛なことが突然起こる、ライバルが急に現れる、テクノロジーが職場を混乱させる、仕事も、職場もアッという間になくなる、…というのが、今の世界です。したがって、私たちは、常に「適応(adapt)」しなければならない、というのです。

著者が「適応」のロールモデルとして挙げるのが、ビジネス向けオンライン・チャットサービスで有名な「スラック」と、シェリル・サンドバーグです。サンドバーグは、ファイスブックの元COO(最高執行責任者)で、『フォーチュン』誌によって産業界で最も影響力のある女性の一人に選ばれた人物です。 

サンドバーグは、20代初めにキャリア・プランをつくり、あとはわき目も振らずにレールの上を走り続けた人物と思われるかもしれませんが、全く正反対だといいます。 

彼女は、大卒後、世界銀行で働き、MBAを取得後マッキンゼーで経営コンサルタント、その後、ローレンス・サマーズ財務長官(ビル・クリントン大統領時)の首席補佐官になり、クリントン大統領退任後は、新興企業グーグルに入社、グローバル・オンラインセールス&オペレーション部長としてグーグルを巨大企業に成長させ、マーク・ザッカーバーグに請われてファイスブックのCOOになりました。 

「『私がプランを持たないのは、プランがあるといまの選択肢だけに縛られてしまうからです。』と彼女は言う。…傑出したプロフェッショナルのあいだでは、サンドバーグ流派は、異端ではなく常識である。」
(第 2章より)

ただ、著者たちは、ノープランの行き当たりばったりを推奨しているのではありません。あくまでも、「適応」が重要なのです。

「彼らは成り行き任せではなく秩序立てて判断を下しているのだ。たとえ固まったプランはなくても、本物のプランづくりは進行している。」
(第 2章より)

著者たちは、このような適応性が高い計画の手法を、「ABZプランニング」と名付け、詳しく解説しています。

 ABZAは「現状」のプラン、BAの目標・目的・ルートなどが変わったときの代替プラン、Zはいざという時(失業など)のためのプランを言います。状況が変わると、それまでのBプランはAプランになります。 

Zは、実家に転がり込んで職探しをするとか、ウーバーイーツの配達員をする、などのやり方が挙げられていますが、なんとか食つなぐための救命ボートのようなプランですね。これがあることで、八方ふさがりになったときにも、安心して先に進めます。 

常にこれら3通りのプランを要しておくべきだ、というのが本章の主要なポイントです。 

なお、目標を考えるときは、あまり先過ぎない「2手先」くらいのことまでを考えておくのが良いそうです。ABZプランニングでは、プランCDEは想定していません。

 

 

3章:強いつながり、弱いつながり

スキルと適応力だけでは、キャリアの成功は望めません。

「世界で一流の人材は、世界で一流の人々とのつながりを築いている。…スティーブ・ジョブズだって、スティーブ・ウォズニアックを必要とした。…もうおわかりだろう。私たちはキャリアを築くうえで一緒に取り組む誰かを必要としている。」
(第3章より)

 

「起業家が休みなく逸材探しに努めているのと同じく、あなたも、人生(キャリア)というスタートアップを助け合える人とのつながりづくりに力を入れるとよいだろう。…ともに成長していける多彩な仲間や助言者を集めるべきなのである。」
(第3章より)

「カンパニー」という言葉の語源は、「パンを分かち合う」という意味のラテン語だそうです。著者たちは、人脈は、所属する組織や地位に関わらず大きな意味を持つと述べます。どの仕事も、みな突き詰めれば人と人との関係に行きつくというのがその理由です。 

人脈といってもさまざまなものがあります。本書では、仕事上意味をもつ3種類の人間関係が挙げられ、その具体的な意味と構築の方法が指南されます。 

それら3種類とは、1つが、ビジネス上の盟友(強いつながり)、2つ目が、「弱いつながり」と呼ばれる、メールやソーシャルメディアでつながっている程度の仲間や知り合い、3つ目が「フォロワー」と呼ばれる、インターネット上でフォローされている人たちです。 

ポイントは、連絡を絶やさないことです。なかなか難しそうにも思えますが、そうではありません。  

連絡を絶やさずにいるために技術的に難しいことは何もない。…まめに連絡を取るには、そうしたいという思いと、ちょっとばかりの準備や先回りの気持ちがあれば十分だ。」
(第3章より)

連絡を絶やさないことには、さまざまなメリットもあります。例えば、転職の時など、以下のような事情を考えれば、よくわかりますね。

「人材の選抜は公平に行われるとは限らない。機会が巡ってくるのは、真っ先に頭に浮かぶ人だけである。CEOの頭に最初に浮かぶのは最近接した相手のはずだ。」
(第3章より)

 

 

4章:偶然の幸運を戦略的に引き寄せる

いわゆる「棚ボタ」(棚から牡丹餅)という言葉があります。ただ単に運が良かったということです。たしかに、キャリアにも運やチャンス(好機)は関係しますが、そういった「思いがけない幸運」(セレンディピティ)は、積極的に取りに行く必要があると言います。 

「セレンディピティは宝くじに当たるのとはわけが違う。宝くじが当たるかどうかは運だけで決まる。片やセレンディピティとは、チャンスが来ないか日頃から注意を払い、「ここぞ」というときにしっかりとチャンスをものにすることを指す。セレンディピティは、つくり育てなければならないのだ。」
(第4章より)

 

セレンディピティという言葉は、イギリスの作家ウォルポールによる造語で、もともとはペルシャに伝わる『セレンディップの三人の王子』という童話に発するものだそうです。国王に命じられ旅に出たセレンディップの三王子の幸運が、いかにして得られたかというと、旅です。著者は、セレンディップの王子たちについて、神経学者ジェームズ・オースティンの言葉を引いて説明しています。  

「王子たちは、スリランカの王宮内で快適なソファにすわり、贅沢をしながら人生を無駄に過ごしていたのではない。積極的に外に出て、探検し、色々なところを旅したからこそ、思いがけない幸運にめぐりあえたのだ」
(神経学者ジェームズ・オースティンの著書より)

 

 もちろん、ここでいう「旅」というのは、比喩です。様々な人に会ったり、いろいろな場所に出かけたり、仕事に無関係に見えることでも、積極的に情報を取りに行く。こういったことが重要なのですね。 

著者たちは、このような幸運を引き寄せる「旅」に関連して、「好奇心」の大切さを強調しています。たしかに、「好奇心は発明の母」とも言いますね。

 

 

5章:リスクに気づいたら、リスクの方があなたを探し当てる

キャリアを選んでいくことには、当然、リスクが伴います。とくに、大きなリターンを得るためには、リスクを積極的に取ることも、時には重要になってきます。第5章では、キャリア戦略におけるリスクの取り方について書かれています。

 まず、リスクがない領域はない、と心得る必要があります。そうすると、問題は、リスクに対処することをどう学ぶか、ということになります。

「リスクから逃げるのではなく、賢くリスクをとるスキルを磨くべきだ。これはあまり聞かないスキルだが、必要なものだ。偉大なる起業家は…リスクそのものへの許容度が高いのではなく、リスクの大きさをよく見極めたうえで対処する。これが並の起業家と一線を画する点である。」

(第5章より)

 

ただし、リスクを厳密に計算することはできないし、そうしようとすることも現実的ではありません。金融機関が使うようなリスク分析モデルは、人生(キャリア)という複雑なものには当てはめられないのです。しかし、リスクを見極めるコツやスキルは、やはりあるというのが著者たちの考えです。

 コツの1つ目は、「不都合はおそらく、自分が思うほど大きくない」という考えを持つことです。リスクを大きく見積もりすぎて、得られるはずのチャンスを見逃さないようにするということです。

 著者たちは、神経心理学上の知見も踏まえて、人間が、脅威を実際より大きく見て、チャンスは実際より小さく受け止める、と説明しています。「あそこに食べ物がありそうだ」というチャンスよりも、「あそこに捕食者がいそうだ」という危険性の方が、見逃した場合の打撃が大きいからです。

 コツの2つ目は、「最悪のシナリオに耐えられるかどうかで判断する」というやり方です。 

これは、実際に、およそ700人の経験豊富な企業幹部へのインタビュー調査でも実証されている考え方だそうです。その調査では、いくつかのシナリオを示し、リスクをどのように測るかを質問しましたが、たいていの人は、「最悪のシナリオが現実になった場合、それに耐えられるかどうか」でリスクを判定しました。

 

6章:他人の頭脳を拝借する

最後の章で説明されるのは、人生(キャリア)を遂行する上での「決断」と、決断をするときの根拠となる「情報」の入手の仕方です。 

情報は、人から得る。これが、本書の結論になります。他人の頭脳を拝借するというのは、こういう意味です。

「特定の隙間(ニッチ)市場に参入する際にどんなスキルが必要になるかは、本を読んでもわからない。仕事を求めて地球の裏側に移り住むリスクを推し量るには、雑誌では役に立たない。検索エンジンは、セレンディピティとの出会いがどこにひそんでいるかを紹介してはくれない。

(第6章より)

 

なぜ、人からの情報でなければないのでしょうか。

理由の1つ目は、知り合いがあなたに個人的に洩らす意見や感想は、公の媒体には決して載らないからです。 

2つ目の理由は、相手や状況に応じたアドバイスができるのは、人だけであるということ、3つ目は、知人や友人が、あなたがいろいろなところから集めた情報をふるいにかけてくれることです。

情報は、検索エンジンだけで探すものではありません。ここでも、人脈・人とのつながりが重要になってくるのですね。

 本章には、そういった人物に聞くのが良いのか、また、どのような質問をすればよい情報が得られるかについてのヒントも書かれています。

 

まとめ 意欲の重要性

 著者たちは「私たちは生まれながらの起業家である」とも述べ、個々人のキャリアを「スタートアップ(企業)」のようにRUNさせる(経営する)方法を詳しく説明してくれています。 

しかし、本書のあとがきで、「問題は意欲があるかどうかである」とも述べています。まずは、あなた自身が「スタートアップ的に生きてみよう」と決断する必要があるというのです。

 1つ言えるのは、意欲そのものですら、人とのつながりから得られることが多いということです。このことは本書には書かれていませんが、本書を最後まで読むと気づくことができます。

著者は、人生(キャリア)戦略はつねにベータ版だと言います。自然法則のような鉄壁のルールはなく、完成形もありません。しかし、本書は、変化する環境に適応するためのよき道しるべになってくれるはずです。

 

ランスタッドでは法人様向けに、社員の人生(キャリア)戦略を考えるセミナーや、リスキリングやコーチングを提供するソリューションとして、「ランスタッドライズスマート」というサービスをご用意しております。社内へのリスキリングやコーチングにご興味がございましたら、ぜひライズスマートのサービスページもご覧ください。

 

【筆者プロフィール】

下瀬川 和宏(しもせがわ かずひろ)
ランスタッド株式会社 ライズスマート事業部
ビジネスディベロップメントエグゼクティブ
 
技術翻訳会社の創立者・共同経営者、 グローバルIT企業のアカウントマネジメントを経て、 再就職支援サービス業界に転身。 経営者としての経験と組織の意思決定者へのプレゼンテーションの スキルを生かし、15年で400社を超える組織の構造改革・ 雇用調整におけるHRコンサルティングに携わる一方で、 リーダーとして200名を超える組織のピープルマネジメントも経 験。 近年では構造改革の専門領域に加え、 EDIB推進やリーダーシップ開発、 また組織のチェンジマネジメントやHRトランスフォーメーション のプロジェクトマネジメントを通じて、 組織の活性化とタレントモビリティのエバンジェリストとして人々 の多様な働き方を支援している。