ウェルビーイング経営の「ウェルビーイング(well-being)」とは、辞書によると「幸福、安寧」または「身体的・精神的・社会的に良好な状態。特に、社会福祉が充実し、満足できる生活状態にあることをいう」とされています。心身ともに良好であることに加え、社会的に良好である、つまり「満たされている」かどうかを問うところが特徴といえます。
ウェルビーイング経営とは、従業員をはじめ、企業に関わるすべての人のウェルビーイングを目指すことで企業を成長させていく経営戦略のことをいいます。心身が健康であり、仕事や職場を含めた社会においても良好であれば、やる気やエンゲージメントが高まり、よい結果につながるという考え方です。
具体的には、本人の健康だけでなく家族も健康である、周囲と良好な人間関係を築けている、仕事・プライベートの双方が充実している、といった要素にまで着目するのがウェルビーイング経営ならではのポイントです。
ウェルビーイングに配慮した職場環境が提供されることは、仕事をする上で高いモチベーションにつながります。人間関係や労働環境の改善も進み、生産性向上や人材確保が期待できます。また、好調者を増やしていくだけでなく、5月病のような漠然とした不安やストレスによる休職者・離職者を軽減できるなど、不調者のフォローにもつながります。
ウェルビーイング経営は、日本でも企業による取り組みが広がってきた「健康経営」の、さらに先を行く経営手法とされています。この2つの経営手法の関係について見てみましょう。
健康経営とは、辞書によると「従業員の健康の維持・増進が企業の生産性や収益性の向上につながるという考え方に立って、経営的な視点から、従業員の健康管理を戦略的に実践すること」とされています。
つまり従業員の心身が健康であれば、やる気やエンゲージメントが高まり、よい結果につながるという考え方です。しかし、ウェルビーイング経営に見られた「社会的に良好であること」や、「従業員以外の企業に関わっている人」のことは含まれていません。
この通り、健康経営はまず「従業員の心身の健康を重視する」経営手法といえます。一方、ウェルビーイング経営は従業員を含めた「企業に関わるすべての人」を対象にし、「心身の健康に加えて社会的な幸福も重視」する、より範囲の広い取り組みになっています。いわば、健康経営はウェルビーイング経営の一部分というわけです。
ウェルビーイング経営に取り組むにあたっては、まずどういった要素が身体的・精神的・社会的に良好な状態につながるかを整理しておく必要があります。特に、判断の難しい「社会的な幸福」を整理するために、次の2つの考え方を押さえておくとよいでしょう。
PERMAモデルは、1998年にペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士によって創設された「ポジティブ心理学」で提唱されている、ウェルビーイング向上のためのフレームワークです。次の5つの領域から構成されています。
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アメリカのコンサルティング会社、ギャラップ社は、ウェルビーイングの構成要素を次のように定義しています。
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医療業界のA社は、運動機会の提供や社内健康通貨の導入、健康に関するセミナーなど、健康経営への取り組みで先行している企業です。しかし、決してそこに留まることなく「健康は土台づくりに過ぎない」との考えを示しています。実際に、心身の健康から範囲を広げて、社内の環境や意識、関係性づくりに注力。社員が健康になることが家族や取引先にも派生すると考え、健康を土台として、活力をもって仕事ができ、社会にも貢献していくことを目指しています。
IT業界のB社は創業以来、社員を大切にするウェルビーイング経営を実践。開発手法として業務量の偏りが起きにくい「アジャイル開発」を実践するなど、人を重んじた「働きやすさ」を追求しています。以前からフルフレックスやリモートワークを導入しているほか、2022年には給料を下げずに隔週水曜日を一斉に休みとする隔週週休3日制をトライアル導入。アンケートでは95%の社員がウェルビーイングの向上につながったと回答する結果に至りました。
「ランスタッド・エンプロイヤーブランドリサーチ」によると、日本の求職者が勤務先を選ぶ際に求めるもののトップ3は「給与・福利厚生」、「快適な職場環境」、「ワークライフバランス」。我慢して働くことをよしとせず、ウェルビーイングを満たすための要素が重視されていることがわかります。今でこそ先進的な取り組みですが、後れを取ればいずれ人材不足にあえぐことになりかねません。自社が「手遅れ」になる前に、ウェルビーイング経営に乗り出してみませんか。