働く場所としての企業の魅力度を示す指標、「エンプロイヤーブランド」。人材の流動性が高まっている今、優秀な人材を獲得するためにその重要性が増しています。これから企業の担当者は「エンプロイヤーブランディング」にどう取り組んでいくべきなのでしょうか。
ランスタッドは長年にわたり、世界各国の企業を対象にエンプロイヤーブランドの調査を続けてきました。そしてこのたび、さまざまな企業のご担当者様をゲストスピーカーにお招きし、ブレインストーミングを公開して視聴者の皆様と議論するイベントをスタート。
第一回目となる今回は、アマゾンジャパン合同会社 人事部プログラムマネージャーの森本氏とディスカッションを行いました。
ゲストスピーカー
森本 麗 氏
アマゾンジャパン合同会社 人事統括本部 人事部 リクルーティングマーケティング プログラムマネージャー
人材サービス企業を経て、2014年に中途採用担当としてアマゾンジャパン合同会社に入社。その後プログラムマネージャーに職種変更し、現在は採用マーケティングおよびエンプロイヤーブランディングを担当。
ファシリテーター
西野 雄介
ランスタッド株式会社 人事本部 タレントアトラクション部 部長
人材会社を経てシンガポールへ移住し、エンワールドのシンガポール法人にて経営人材ヘッドハンティングや同事業の経営を経験。帰国後は事業会社の人事・採用責任者等を経験し現職。Forbes JAPANのオフィシャルコラムニストとして、キャリアや組織についても発信。
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“働く場所”としての魅力度「エンプロイヤーブランド」
西野:ランスタッドは38カ国で約4700のオフィスを展開している世界最大の総合人材サービス会社。約21年間にわたり、毎年世界中でエンプロイヤーブランドのリサーチを行っています。その会社の“働く場所”としての魅力をお伝えするエンプロイヤーブランドを、各社がどんな指標で測っているのかを調べているのです。日本でも200社以上の企業をリサーチし、その企業は世の中にどれだけ魅力を伝えられているかを調べています。
注目すべきポイントは、「自社が取り組んでいること」と「実際に認知されていること」にギャップがある場合があるということ。「こんなにいいことをやっているのに伝わっていない」という点を発見し、そのギャップを埋めていくことにより、働く場所としてより良い場所を目指していきます。
今日はアマゾンジャパンの人事部の森本さんにご参加いただいています。アマゾンジャパンはランスタッドのエンプロイヤーリサーチの中でも、認知度と魅力度で非常に高い数字が出ています。実際にどんな取り組みを行っているのかを伺いたいと思っています。
森本さんとはかねてからエンプロイヤーブランディングの大切さや、これからどう取り組んでいこうかということをディスカッションしていました。まだまだ手法が確立されていない、答えのない世界ですよね、と。
そこで、オープンにディスカッションをすることで、世の中の声を集めてみたいという話からこのような場を設けることになりました。前半はアマゾンジャパンの現状を伺い、後半は「これからどんなことをやっていくか」をお話ししていきたいと思います。
森本さんはアマゾンジャパンでどんなお仕事をされていますか?
森本:アマゾンジャパンは私にとって社会人になってから2社目の会社で、今8年目に入ったところです。もともとはリクルーターとして入社し、その後プログラムマネージャーというポジションにロールチェンジをしました。
社内には色々なスコープのプログラムマネージャーがいますが、今の私のロールは「リクルーティングマーケティングプログラムマネージャー」というポジションです。
リクルーティングマーケティングをメインのスコープとしていますが、もう一つのスコープとしてエンプロイヤーブランディングも持っているという、両睨みのポジションです。
「リクルーティングマーケティング」「エンプロイヤーブランディング」というのは会社によって定義が違っていたり、まだ明確なもの・共通の認識がないかなと思うのですが、我々の場合、リクルーティングマーケティングは候補者獲得施策、つまりタレントプールを増やす施策、エンプロイヤーブランディングはエンプロイヤー、つまり雇用主として魅力的に感じてもらうための「イメージアップ戦略」「イメージ作り」という定義づけをしています。
私の場合は比重としては前者、候補者獲得のための施策、タレントプールを増やすところをメインに今取り組んでいます。
西野:リクルーティングマーケティングは、各社さん違う言葉……「採用広報」や「採用マーケティング」であったり、「PR」「コミュニケーション」などのさまざまな文脈で使われていると思います。
森本さんはリクルーティングマーケティングを主軸に置きながらエンプロイヤーブランディングにも取り組んでいるということですか? 2つのお仕事が1つの役割の中にあるハイブリッドということですよね。
森本:そうですね、両方をスコープとして持っていますね。
アマゾンジャパンで取り組む“ハイブリッドロール”
西野:リクルーティングマーケティングを中心にエンプロイヤーブランディングも付随しているというその比重、こういう役割になったのはなぜでしょう? どういう背景があったのでしょうか。
森本:それは私の前任の話まで遡るのですが、私の前任は実は私とは真逆の比重で仕事をしていたんですね。つまり、リクルーティングマーケティングもスコープとしては持つものの、エンプロイヤーブランディングの方をメインに動いていました。
当時はもちろん組織の戦略としてそれが良いと考えてそうしていたのですが、活動をしていく中で、エンプロイヤーブランディングというものはタレントアクイジションチーム(以下、採用チーム)の力だけではコントロールしきれない要素がかなり多いということが分かってきたのです。それで今の私のロールは、その比重が逆になったという背景です。
西野:なるほど。採用チームという採用の部門にいる中で、どういう役割を持って比重をどう分けていくか、という課題があったということですね。難しいのは、リクルーティングマーケティングはわかりやすく採用チームがやることですけれど、エンプロイヤーブランディングはマーケティングやPRのコミュニケーションなど、そういった部署がやることかもしれないということ。そこはどのように役割分担されていますか?
森本:リクルーティングマーケティングは明らかに採用チームが持つべきところです。しかしリクルーティングマーケティングの効果を最大限に発揮させるためには、その根底にしっかりとしたエンプロイヤーブランディングが確立されていないといけないと思います。
そのため、リクルーティングマーケティングの方をきちんとやっていこうとすると、セットでエンプロイヤーブランディングの方もやっていかなければいけない。ここはとても密接な関係があって、相互に作用すると思っています。
採用チームがやるリクルーティングマーケティングというのは、「今」オープンしているポジションにマッチしそうなスキルを持っている方、にターゲットを絞り、その方々に対して「こんなポジションがありますよ」「こんな魅力がありますよ」とアピールしていきます。
しかしその情報を受け取った方々が、そもそも「Amazonに対して全然良いイメージを持っていない」とか「働く場所としてまったく検討していない」ということだと、いくらリクルーティングマーケティングの取り組みで頑張って情報を発信していっても、まるで響かないし結局意味のない活動になってしまいます。
エンプロイヤーブランディングという土台が欠けてしまうと、もう一方のリクルーティングマーケティングの方の効果が薄れてしまう。そういう意味で、両方の役割を採用チームの中で持っている方が相乗効果を狙えるのではないかと思っています。
西野:なるほど、人事や採用でよくある課題ですね。優秀な候補者がいて、その方ご本人も気に入ってくださり「入社したい」と思っていただいても、ご家族から反対されてしまうということはありますよね。
森本:ありますね。それがまさにエンプロイヤーブランディングが採用チームの中でコントロールしきれないと感じる一つの要素だったりします。
リクルーティングマーケティングの時のオーディエンスと、エンプロイヤーブランディングを考えた時のオーディエンスというのは裾野が全然違います。対象の広さが全く違うので、そこが大きなポイントだと思うんです。
たとえば学生さんなど、今現時点では中途採用対象となるスキルをお持ちでない、ターゲットにならない方でも、将来的にターゲットになる可能性のある方はたくさんいらっしゃいます。
その方々がいつターゲットになるかは分からないので、エンプロイヤーブランディングはそういう方々にもオーディエンスを広げて取り組む必要があります。
一方、採用チームではどうしても数か月以内の採用を見込んで、「今」オープンしているポジションに合致する方にターゲットを絞ってアプローチするので、大きな違いがあるなと思います。
西野:追いかけるものがまったく違いますよね。時間軸としても、短期的な成果を追いかけるのと、中長期的なものを追いかけるのと。
日常生活の中でAmazonのサービスや製品を使っていらっしゃる方も多いと思いますが、それと「働く場所」としてイメージしてもらうのとでは全然違いますよね。
たとえば大学生とかもそうですよね。アマゾンジャパンでは新卒も採用されてますよね? そろそろ就職を考えるとなったら、今までお世話になっていたAmazonが「『働く場所』としてのイメージに変わっていく」という状態を作り出さなければいけない訳ですよね。それがエンプロイヤーブランディングと言われるところ。コーポレートのブランディングやプロダクトをブランディングしていくのとは違うところだと思います。
エンプロイヤーブランド向上のための実績
西野:ここからは、エンプロイヤーブランディングのためにAmazonが今まで実際にどんな取り組みを行ってきたのかを教えてください。
森本:私自身がこのロールについたのは最近なので前任時代のお話がメインとなりますが、私の前任担当はエンプロイヤーブランディングに比重を置いたロールでした。ですので、取り組みとしては、特定のポジションや特定の部署に紐づいた採用直結のものよりは、もう少しブランドイメージを上げるための“ブランディング観点”の施策が多かったです。
たとえば国際女性デーのようなイベントに絡めて、Amazonの女性社員にパネリストとして参加してもらい、女性のキャリアについてディスカッションするようなイベント。採用直結ではなくて、完全にナレッジシェアリングの場として、そのようなイベントを実施していました。
コロナ禍に伴い在宅勤務に切り替わった時には、日本だけでなく他の国も巻き込んで「ホームデスクキャンペーン」というものをSNSで行いました。出勤が必要な職種や部署以外は基本的に皆在宅で仕事をする体制になっていたので、自宅での仕事風景をそれぞれの社員に写真で撮ってもらい、それをSNSに掲載するという取り組みでした。
それぞれの社員が自分の居心地の良いワークスペースを作って、在宅でも快適に仕事ができている、また、会社としても在宅でも支障なく仕事ができるような制度やツールをきちんと備えているというアピールを兼ねた、ブランディングフォーカスのキャンペーンです。
西野:おもしろいですね。2つ目のお話は、全社を巻き込んだ取り組みですよね。反響はどうでしたか?
森本:参加条件がないので社員であれば誰でも参加できるキャンペーンでした。
高性能なカメラやモニターなど最新の機器や設備を揃えているエンジニアの方がいたり、逆に何もない落ち着ける空間を大切にしてる方もいたり、社員それぞれのやりやすい環境の違いが垣間見えてとてもおもしろかったです。(当時の担当ではなかったので具体的な反響は把握していませんが)おそらく外部の方々にも同じような印象を持ってもらえたのではないかなと思います。
西野:まさに本来の目的ですよね。Amazonで働くというのはどういうことなのか、を感じてもらえる。
しかし、「それをやった結果どうなったのか」というのが見えづらいのがエンプロイヤーブランディングの難しいところでもありますよね。
次は、エンプロイヤーブランディングの成果をどう測るのか、そしてこれからエンプロイヤーブランドの向上にどう取り組んでいくのかをディスカッションしていきたいと思います。