働く場所としての魅力度調査「エンプロイヤーブランドリサーチ」で高い評価を得ているヤフー株式会社。同社の採用責任者は採用ブランディングをどう考え、候補者体験をどのように設計しているのか。公開ディスカッションをレポートします。
ゲストスピーカー
大森 靖司 氏
ヤフー株式会社 コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部 コーポレートPD本部 採用部長
人材紹介会社を経て、インターネットサービス企業にて100〜2,000人規模の採用活動を推進。2014年にヤフー株式会社に入社し、リーダーとして全採用における母集団形成を主導。その後クリエイター向け人事施策の企画運用、部門人事を経て、ヤフー全体の採用責任者を務める。
ファシリテーター
西野 雄介
ランスタッド株式会社 人事本部 タレントアトラクション部 部長
人材会社を経てシンガポールへ移住し、エンワールドのシンガポール法人にて経営人材ヘッドハンティングや同事業の経営を経験。帰国後は事業会社の人事・採用責任者等を経験し現職。Forbes JAPANのオフィシャルコラムニストとして、キャリアや組織についても発信。
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ヤフーではエンプロイヤーブランディングという言葉は使っておらず、「採用ブランディング」か「採用広報」「採用マーケティング」、あるいは「候補者体験」「体験設計」と言っています。
候補者体験というのは、ユーザーエクスペリエンスのような文脈の中で、候補者ですから「candidate」、キャンディデイトエクスペリエンスという意味で「候補者体験」ですね。採用の過程では最終的に採否が分かれますが、ヤフーはユーザ向けのサービスも多数ありますので、中長期で考えると当然候補者の方にファンになっていただきたい。ですから「選考に臨んでよかった」と思われるような体験設計や仕組みを提供できているのか。そんな視点で考えています。
ヤフーの採用のミッションは「未来を創る仲間をつくる」です。採用ブランディングについては採用組織内の「採用ブランディング」担当者だけでできることは限られるので、社内外含めて色々な知見やアドバイスをもらいながら進めています。
例えば、部門人事担当者、CTO、VPoE。そして、「Developer Relations(デベロッパーリレーションズ)」と呼ばれる、エンジニアをはじめとするものづくり系の組織またはサービス開発者がより輝けるように情報発信していく組織、さらには、対外的にコミュニケーションやメッセージングをしていく時に、それは法的に適切かという部分で「法務」、PRとして正しいのかという部分で「広報」。最近では、外部の有識者を採用ブランディングアドバイザーとして、ギグパートナー(ヤフーを副業先とする人材)として迎えて、アドバイスをいただいています。本当に多くの人に協力をもらいながら取り組んでいるのが実態になりますね。
「オウンドメディア」「動画」「SNS」と、大きくこの3軸で発信を行っています。「オウンドメディア」は2016年度から開始し、これまでに5年強運用しています。
名前は「linotice(リノティス)」という――“リンク”と“ノーティス”をくっつけた造語――で、ヤフーの社内外問わず、多くの人に「ヤフーってこういう会社だったんだ!」という気付きを与えたい、もっとつながりたいという思いで情報発信をしています。コンテンツは全社のトピックスやプレスリリースはもちろん、採用関係者で「今どんな内容を発信したいか」を持ち寄りながら進めています。
オウンドメディアの良い点は、採用部門が管理・コントロールできるメディアが手元にあることです。これが無かった頃は、プレスリリースやコーポレートブログといった自分たちから離れたところでの広報に頼らざるを得なかった。オウンドメディアがあると、例えばイベントの詳細な情報も事前に開示するなどして、集客しやすくなるといったメリットがあります。
定期的に、サーベイを取っています。採用ホームページだけではなく、対外的に発信する内容が採用上どうインパクトしているのか。同じ問いに対する答えや評価を経年で見ながら、候補者や学生に実際に持たれている印象を踏まえて、自分たちが届けたい内容は届けたい層に届いているかを見ています。
また、「受けない理由」も確認しています。何が応募のバリアになっているのか。それに対して定性的な声を集めて、「じゃあ次はこういう発信をしていこう」に結び付け、PDCAを回しています。
もちろん、ベストではないですね。例えば、当社は事業領域も広くプレスリリースする件数も多い。ともすれば「発信したい情報」がたくさんあり「発信しなくてはいけない情報」もたくさんあるから、それに忙殺されてしまう。振り返った時、「このタイミングでこの内容を伝えたことは、候補者の皆さんに対して自分たちが本当に届けたいことだったのか。もっと体系化・構造化して伝えたほうが魅力を感じてもらいやすかったのではないか。」そう思うことももちろんゼロではありません。
そういった課題感から、採用ブランディング分野でギグパートナーを受け入れたという経緯です。「採用ブランディング」という領域は課題感があったとしても、社内に専門家がいないことが多い領域だと感じます。そういうときに、身近に面と向かってアドバイスをしてくれる存在がいることは心強いですね。
例えば、シンプルに「ヤフーが本当に打ち出したい核たる強みって何ですか?」と言った素朴な問いをいただいたことがきっかけで、自分たちの魅力やコアコンピタンスを見つめなおすなど、本当に良い刺激になっています。
最初に、会社に対して経営陣やCxOが発信しているメッセージに、改めてしっかりと目を通しました。その中で自分たちが「これを聞くと、あるいは見るとワクワクする」というものを抜き出していく。同様のことをIR資料や、社長や人事のトップが発信しているメルマガに対しても行いました。それから採用した社員が入社を決めた理由もアンケートを取っているので、そこから抜き出したり、カテゴリー分けしたりもしましたね。特にキャリア採用では外部の人材紹介会社の立ち位置から見た我々の魅力もヒアリングしました。
加えて、自分たちが「この企業は魅力の打ち出しに優れている」と思う企業のHPやオウンドメディアを見て、なぜそう感じたのかといったことも持ち寄りました。主要なメンバーで何度も議論しては、言語化してギグパートナーと壁打ちをする。そういうことを通じて、伝えたいメッセージを整理し、磨き込んできました。
届けたいメッセージが決まってしまえば、自ずとどのメディアでどう届けるか、どう効果測定するか、が見えてきます。実際、当社でもこれまでのアセスメントやサーベイの項目も見直して、「この内容が届いているか知りたいから、こういう設問に変更しよう」といった取り組みを行いました。採用ブランディングは中長期的な施策で、効果が出るのに時間がかかるため、同じ設問に対しての回答を取り続けることが肝要ですが、だからといって、設問の設計当時の考え方が引き継がれないと、「なぜそれを調査するのか、その調査を通じて何を見たいのか」が抜け落ちてしまう。そういった意味では、この採用ブランディングの効果測定においてもPDCAが大切だと痛感しています。
採用ブランディングに「これだ!」という答えはありませんが、少なくとも当社の採用ブランディングにはまだまだ伸びしろがある。そう考え、まさに今、外部の知見も得ながらもう一段リフトアップを図る最中です。今回こういった機会をいただきましたが、引き続きお互いに情報交換しながら切磋琢磨し取り組みたいテーマですね。