2015.06.22 いよいよ目前!労働契約申込みなし制度とは 記事をシェアする 【労務・コンプライアンスノート】第27回:いよいよ目前!労働契約申込みなし制度とは 違法な派遣が行われていた場合に、派遣先が派遣労働者に対し直接労働契約を締結することを申し込んだとみなす制度(以下「みなし制度」と省略)が、いよいよ今年の10月1日からスタートします。みなし制度は、平成24年に行われた労働者派遣法改正によって創設され、3年間その施行が猶予されてきたものです。したがって、国会で現在審議中の改正派遣法案とは関係がありませんから、国会の行方にかかわらずこの制度は施行されることになります。3年も前に創設された制度なので、どのような制度だったかよく思い出せない方もいらっしゃるでしょうから、改めて紹介したいと思います。1 何を「みなす」のか派遣先が、派遣労働者に対して実際に労働契約の締結を申し込む行為をしなくても、法律上はそのような申込行為があったという効果が生じます。求職者に採用内定を通知したと想像していただければ結構です。したがって、派遣労働者から労働契約締結の意思表明があれば、労働契約を締結する義務が生じます。派遣労働者が契約を締結しない旨の意思表明を行った場合は、派遣先は労働契約を締結する必要はありません。なお、この派遣労働者の意思表明期間は、違反のあった日から1年間とされています。2 制度の対象となる違反とはみなし制度の対象になる違法な派遣の種類ですが、次の4つが定められています。【1】派遣先が、派遣労働者を派遣禁止業務(港湾運送の業務、建設の業務、警備の業務、病院等における医療の業務)に従事させた場合【2】派遣先が、無許可・無届出の事業者から派遣労働者を受け入れた場合【3】派遣先が、派遣労働者受入期間の制限を超えて派遣労働者を受け入れた場合(抵触日オーバー)【4】派遣先が、派遣法に基づく諸規制の適用を免れる目的で偽装請負の状態で労働者を使用した場合上記のうち、【3】については、国会で審議中の改正派遣法案が可決・施行された場合、新しい抵触日の制度が適用される予定です。3 制度の適用になる時点原則として、違法な行為が行われた日ごとに労働契約が申し込まれたとみなします。したがって、この制度が施行される10月1日以降のいずれかの日に上記の違反行為があれば、派遣先は派遣労働者に労働契約の申込をしたものとみなされます。ただし、違法行為への該当について善意無過失であるとの派遣先の抗弁が認められた場合はみなし制度は適用されない見込みです。4 労働契約内容原則として、違反行為があった時点で、派遣労働者が派遣元事業主と締結していた労働条件がそのまま継承されます。有期労働契約の始期と終期も継承されます。派遣先で直接労働契約を締結した後の有期労働契約の雇止は、労働契約法第19条に照らし、個別に「客観的に合理的で社会通念上相当な事由」による雇止めか否かを判断することになります。5 「5年で無期転換ルール」はどうなるか労働契約法第18条は、「同一の事業主と有期労働契約を反復更新する」ことを条件としていますので、従前の派遣元事業主との労働契約期間と、新たな派遣先との労働契約期間とは通算されません。みなし制度は、今後、詳しい行政通達によって細かな解釈や実務が明らかになる見込みです。平素よりコンプライアンス重視の派遣労働者の活用はもちろんのことですが、今一度、施行日以降に違反が発生することがないように現場を点検されてはいかがでしょうか。(2015.6.22 掲載)このコラムに関するお問い合わせ:ランスタッド株式会社 コミュニケーション室Tel: +81(0)3-5275-1883Email: communication@randstad.co.jp 本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。 特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ) 1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。