日雇い派遣の例外要件は何のため[ランスタッドニュース]

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【労務・コンプライアンスノート】第22回: 日雇い派遣の例外要件は何のため

厚生労働省は、「日雇派遣の原則禁止の例外要件確認に関する取扱い」を全国的に統一するため、事務手続について関係団体に通達を発行しました。

日雇派遣(派遣元事業主に日々又は30日以内の期間を定めて雇用される労働者を派遣すること)は原則禁止されていますが、Wワークをしている労働者が生業年収500万円以上または主たる生計維持者ではない労働者の所属する世帯年収が500万円以上であれば、当該労働者を例外的に日雇派遣の対象と認めています。

「労働者派遣事業関係業務取扱要領」によれば、派遣元事業主は原則として労働者に対し収入を証明する公的書類を提示するように求め、労働者がこれを用意できない場合は誓約書の提出を求めることとなっています。

今回の関係団体への通達は、公的書類を提示できない労働者に提出できない具体的な理由を聴取し、労働者の陳述内容が合理的でなければならないとされました。 

厚生労働省は「当初から誓約書に積極的に誘導し公的書類確認の代替としている不適切なケース」があるため、取扱を統一するのが目的であると説明しています。

運転免許証や健康保険証なら日常生活で身につけているものですが、収入を証明する書類はどうでしょうか。

過去1年間の給与明細を探してかき集めなければなりません。年末に源泉徴収時の支払明細が発行されている場合はその書類を探し出すことになりますが、自営業には給与がないので、納税の証明書類を用意しなければなりません。多くの求職者がわざわざ役所に書類の発行のため出向かなければならないでしょう。

「不適切な事例」に規制をかけるのは「合理的理由」なのでしょうが、求職者にとって「合理的な仕事へのエントリー手続」となったのでしょうか。皆さんがたまたま1日だけのアルバイトを行おうとするときに「役所へ行って昨年の収入を証明する書類を発行してもらってください」と言われた場合、役所への往復交通費と公的証明書類発行代金を併せると数百円を支出することが予想されます。

1日だけのアルバイトの収入は仕事の内容にもよりますが、最低賃金が750円前後の地域では6,000円程度であることが考えられます。その1割以上をあらかじめ「投資」しなければ働く権利が得られないというおかしな状態になります。

そもそもこの「年収500万円」が何を根拠に設定された数字であるのかが今もよく理解できません。国税庁が平成25年9月に発表した「民間給与実態統計調査」によれば、平成24年の民間企業へ勤務し収入を得る者(役員、非正規社員も含む)の平均年収は409万円です。ちなみに男女別で見ると男性502万円、女性は268万円程度です。日雇派遣で働く権利は「平均よりも経済的に恵まれている男性」の特権になっているようです。

これまで日雇派遣で働いていた労働者は、何のために働いていたのでしょうか。経済的に少しでもプラスになればという気持ちだったのではないでしょうか。

面倒な公的書類の発行手続が必要になったことにより、日雇派遣から「閉め出す」ことで、その労働者ははたして「長期に安定した仕事」にたどり着けるのでしょうか。

日雇派遣を規制するため労働者派遣法を改正した平成24年、政府は「公共職業安定所で、そのような労働者に単発の仕事を紹介する機能を強化することでフォローする」と約束していたのですが、 実現されていません。どうなったのでしょうか。

厚生労働省は日雇派遣を少しでも減らしたいようです。であれば、まずは公共職業安定所でその機能を担うとすぐに解決できます。

需要があるにもかかわらず、公的機関の制度が用意されていなければ、閉め出された事業者や労働者は「隠れて」事業を実施してしまうだけではないでしょうか。

(2014.5.29 掲載)



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特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

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