2013.05.30 日雇派遣禁止に対する評価 [ランスタッドニュース] 記事をシェアする 【労務・コンプライアンスノート】第15回: 日雇派遣禁止に対する評価 厚生労働省は、このほど改正労働者派遣法の施行状況をとりまとめました。これは、昨年から継続して開催されている「今後の労働者派遣事業の在り方研究会」で、研究会内での討議に必要な資料としてとりまとめられたものです。注目すべきは、日雇い派遣についてのとりまとめ結果です。以下、とりまとめた施行状況を紹介します。1.単発の需要への対応合法的な形で日雇労働者の派遣事業を継続したという事業者が、単発の有料職業紹介(以下「日々雇用」)や日雇労働者派遣事業からの撤退よりもやや多いという結果になっています。派遣元はもちろん、「日単位の臨時の労働力の需要」が市場にあることが推測されます。合法的な日雇労働者の派遣事業では、「31日以上の期間で労働契約を締結し複数の派遣先で就業を確保する」「適用除外に該当する労働者を活用する」という対処がなされています。「適用除外に該当する労働者」の「囲い込み」により、逆に「適用除外に該当しない登録者に仕事が減り、登録者からクレームがでている」という現象もおこっているようです。2.日々雇用への移行一方、日々紹介の形に事業が移行したケースでは、求職者は元派遣労働者で、賃金の計算を職業紹介事業者が代行しているなど労働者派遣事業と変わらない実態も明らかにされています。 また、日雇労働者の労働者派遣の禁止は、労働安全衛生体制の課題に対応するためであったにもかかわらず、日々紹介では求人事業主が単発で雇用した労働者に充分安全教育を実施していないなど、法改正の目的が達成されていない実態も浮き彫りになっているようです。 3.労働者からの意見非常に興味深いのは、"保護の対象"である派遣労働者からも苦言が相継いでいることです。派遣労働者からは次のような深刻な苦情が労働局に寄せられています。 ◎適用除外規定の「年収500万円」という要件が高水準すぎる。収入が低いため単発の労働者派遣を副業としていたが、逆に副業のチャンスがなくなり収入が低下した。◎年収によって日雇派遣の適用除外にあたるからと年収や世帯の構成などプライバシーにかかわる情報を派遣元事業主に申告しなければ仕事が得られないことが苦痛。◎育児や家族の介護などの都合で「あいた時間」を利用して働いていたが、31日以上の契約が締結できなくて仕事を失った。 "派遣労働者の保護"を目的とした法改正でしたが、その労働者が"恩恵を受けられなかった"という結果になっています。もちろん"恩恵があった"労働者もいることでしょう。そしてもうひとつ言及したいのは、法改正時に「ハローワークでも単発の職業紹介に対応したり端末でも求人検索ができるようにします」という厚労省の約束については、どこにも履行結果が公表されていないことです。もし、日雇労働者の派遣の是非を問うなら、「ハローワークで対応できない求人がどのように存在しているのか」「禁止ならハローワークはどこまで求職者に対応できるのか」「禁止した後の失業者が増えることに政府はどう対策を講ずるのか」を明らかにしなければ、結果として労働者が職を失い"恩恵がない"ことになります。どの労働組合も把握できていない労働者やどの事業主団体にも所属しない事業者が、国の施策から"締め出し"をくらって、「政党と仲がよい」労組や業界だけに焦点をあてた施策とならないように、憲法が保障する平等の思想に立ち、切に希望します。(2013.5.30 掲載)このコラムに関するお問い合わせ:ランスタッド株式会社 コミュニケーション室Tel: +81(0)3-5275-1883Email: communication@randstad.co.jp 本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。 特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ) 1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。