選挙に必要な短期労働力はどうするのか?

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【労務・コンプライアンスノート】 第11回: 選挙に必要な短期労働力はどうするのか?

12月16日は第46回衆議院議員選挙です。

選挙は解散から公示、投票まで1か月程度の非常に短いイベントです。この短い期間に、投票用紙をはじめとした印刷物の製造、事務所の設営、看板の設置、投票場の管理、と様々な労働力が必要になります。短いイベントゆえ、アルバイト情報誌に求人広告を掲載し応募者と面接している時間的余裕もあるとは言えません。

前月のコラムでも指摘したように、スポットの求人ゆえに、ミスマッチを極力避けることができる派遣労働者が活躍しているのが、この選挙です。しかしながら、10月1日に日雇い派遣が原則禁止になりました。必要な労働力は、はたして直接雇用で充足するものなのでしょうか。

最も危惧されているのが、各メディアの出口調査です。出口調査とは、投票場の出口で調査員が待機し、投票して退場してきた方の協力を得て、支持する政党や候補者の名前を聞く調査です。この調査の内容は刻々と各メディアに伝えられ、独自に「当選確実情報」としてテレビ、ラジオ、インターネット等で報道されることになります。

これまでこの出口調査の調査員は、膨大な派遣労働者によって確保されてきました。
派遣会社主催で調査の事前研修会が開催され、調査員となる派遣労働者は、調査を依頼した報道機関からのレクチュアを受け、必要な機材(通信機器や調査シートなど)を受け取ります。投票当日は、小学校や公民館など投票場に指定された施設の出口に行き調査に従事します。交通が不便な地方では、派遣会社が調査員となる派遣労働者を送迎することもあります。

調査開始後は、一定時間ごとに調査内容を派遣会社に連絡することになります。派遣会社では連絡内容をまとめ、報道機関に調査の進捗状況を報告します。すると、「高齢者のサンプルが少ない」「子育て世代のサンプルをとるように」などと細かな指示が出され、サンプルの偏りを防ぐ仕組みになっています。

派遣会社ごとに、所属する派遣労働者に細かな指示を出し、限られた時間内にできる限り有効な調査がなされるように気を配っています。調査終了後は、派遣会社が派遣労働者の調査従事状況を依頼者である報道機関に報告し、報道機関からの対価を得て、各派遣労働者に賃金を支払います。

この出口調査を、もし報道機関が全て直接雇用する労働者で行うと仮定すると、どのようなトラブルが予想されるでしょうか。

まず、交通が不便な地方に調査員の応募がなく配置できなかったり、配置のためにわざわざ別の場所から報道機関自らが送迎することも必要になります。一日だけとはいえ、数百人、場合によっては千人単位の労働者を報道機関が自ら管理しなければなりません。普段、そのような大人数を管理する体制ではありませんから、当然ながら人事に慣れない別の部署の職員を動員して行うことになります。

報告の集約や分析も派遣会社ごとではなく自分たちで行うわけですから、手間がかかります。これまで派遣会社にまかせていた、手間のかかる「調査に付随する管理事項」すべてを報道機関が自ら実施することになります。さらに、調査終了後、労働者の正確な労働時間や交通費を算定し、賃金を支払うという作業があります。一気に千人単位の賃金の計算をすると、残念ながら間違った計算や、労働時間が正しく把握されていない等のトラブルが発生しやすくなります。

出口調査だけではなく、各陣営の様々な準備も含め、派遣労働者がスポットで活躍できなくなった中、どのように労働力を確保するのでしょうか。もちろん改正派遣法を成立に賛成した政党や候補者は、すべて「直接雇用」なさるのでしょうね。

(2012.12.3 掲載)



このコラムに関するお問い合わせ:
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Email: communication
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特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

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