特集の最終回は、企業にとって準備・対応が必要な3つの改正法についてお伝えします。いずれも4月1日に施行されるもので、「パワハラ防止」「女性活躍」「男性版産休」をキーワードにした改正です。新型コロナが席巻した2020年―21年にかけて厚生労働省で検討してきたテーマで、ポストコロナ時代も意識した内容となっています。コロナ禍の制約された状況で、企業への周知が十分でない場合もあるので、施行前までに企業内での確認をお勧めします。
2020年6月に大企業に義務付けた「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)について、今年4月から中小企業にも拡大・適用します。
パワハラの定義は難しいとされていましたが、改正法では
「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」と定義しました。なお、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」とされています。
指針では、パワハラの6類型を以下のように整理しています。
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
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これらのうち、(1)は論外として、(3)人間関係からの切り離し、(4)過大な要求、(5)過少な要求あたりは、社会的な常識に基づいて部下と接していればパワハラに問われることは考えにくく、組織としてのルールに基づいて労務管理を行っていれば対応できます。現場で問題になりやすいのは、(2)精神的な攻撃と(6)個の侵害かも知れません。
厳しい口調で責めたり、不適切な言動があったのみでパワハラが認定されるわけではなく、あくまで労働者の非違行為や秩序違反、問題行動などの有無や程度と、それに対する会社側の対応との関係や妥当性などが個々の事例に即して問われることになります。
個の侵害については、使用者側が労働者の私的な交際の適否について介入したり、事実上それをやめるように働きかけようとしたことの違法性が問われてパワハラと認定されたような例もあります。
パワハラ防止のための実務対応は、企業規模や業種業態を問わず不可欠のテーマです。指針の類型への適切な理解などを通じて、社内で共有認識を深める必要があります。
2015年に成立した女性活躍推進法の改正です。企業の取り組みを示す行動計画の策定・公表について、現在は従業員301人以上の企業に義務化されていますが、これを101人〜300人以下の中小企業に拡大します。
対象の企業は、施行日までに行動計画の策定・届け出、情報公表の準備を進める必要があります。
企業の行動計画の策定・届け出とは
・自社の女性活躍に関する状況の把握・課題分析
・企業による行動計画の策定、社内周知、外部公表
・企業の行動計画を策定した旨を都道府県労働局に届け出
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を指し、取り組みの実施と効果の測定が求められます。
ポイントとしては、(1)採用者に占める女性比率(男性が優位になっていないか)(2)勤続年数の男女差(勤続年数に女性比率が反比例していないか)(3)労働時間の状況(必要以上に長時間労働が行われていないか)(4)管理職に占める女性比率(女性管理職が圧倒的に少なくなっていないか)――を分析することが求められます。
このほかの留意点としては、正社員だけでなく、1年以上の雇用が見込まれるパートや契約社員、アルバイトなども含まれます。外部への公表とは、厚生労働省「女性の活躍・両立支援総合サイト」内の「女性の活躍推進企業データベース」などで、派遣社員にも公表が必要です。
育児・介護休業法を改正して、男性の育休取得を促進します。今年4月から5つの改正が順次施行されます。
男性の育児休業取得率は、2020年で12.65%(雇用均等基本調査)まで上昇したものの、政府目標の13%には届かず、欧米を中心とする諸外国よりも低い水準となっています。このような背景から、男性の育児休業取得促進のために、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設などが制度化されました。
5つの改正の概要と施行期日を整理すると、
(1)企業による環境整備・個別の周知義務付け(今年4月~)
(2)有期雇用の取得要件緩和(今年4月~)
(3)男性版産休の制度導入(今年10月~)
(4)育児休業の分割取得(今年10月~)
(5)取得状況の公表義務付け(23年4月~)
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