キャッシュレス化の促進や多様な賃金支払いのニーズに対応する「賃金のデジタル払い」について、厚生労働省は1月28日、労働政策審議会の労働条件分科会(荒木尚志分科会長)に運用する場合の課題などを提示しました。制度化の検討に入る前に労働者側は、一部報道で今春解禁と報じられたことを指して「労働者保護の観点から導入ありき、スケジュールありきは認められない」と強く抗議。厚労省は「検討はスタートしたばかり。プロセスを踏んで丁寧に進める」と答えました。公益委員からも運用に関する複数の確認事項が挙がり、短期決着は困難な情勢です。
企業が従業員の希望に応じて、銀行口座を介さずに給与の全部または一部を決済アプリなどに振り込むことを可能にするか否かを検討するもの。厚労省はこの日、銀行などの「金融機関」と、金融庁に登録しているキャッシュレス決済サービスを行う「資金移動業者」を比較し、「資金保全」「不正引き出しへの対応」「換金性」などの観点から導入する場合の課題を挙げました。一方で、これらの打開策として、約80社ある業者の中から安全性の高い業者を選定する方策なども示しました。
これを受けて、現場の運用・実務の視点での議論が展開されたものの、使用者側からも「当初は銀行口座を開きにくい外国人労働者の利便性に寄与する制度と聞いていたが、随分と範ちゅうが広がっている感じを抱く」との指摘も出るなど、制度化に向けた検討は一定の期間を要する模様です。
「デジタル払い」を認める場合は、「通貨で直接、労働者に全額支払う」と定める労働基準法第24条の省令改正が必要。現在の例外で認めている銀行に「資金移動業者」も加える必要があります。
連合は同分科会の終了直後に記者会見を開き、「企業が労働者に支払う賃金は最も安全なルートでなければならない」とし、資金移動業者が銀行に比べて安全レベルが低く、法整備も不十分であるとの認識を示しました。
そのうえで、懸念点として(1)資金移動業者が破綻した場合、払い戻しまで時間がかかる(2)銀行の預金者保護法のような共通の保護規定がない(3)口座への滞留(預金)を前提にしておらず、検討が不十分――など7項目を挙げました。
厚生労働省の有識者会議「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会」(鎌田耕一座長)は1月27日、第3回会合を開き、厚労省の委託事業として「求人情報提供サービスの実態調査」を実施した全国求人情報協会(全求協)を招き、求人メディアの現状と実態把握を進めて課題を探りました。求人情報を集約化するアグリゲーターなど「新形態サービス」に対する関心が高く、紹介事業との“交通整理”を含め、新たなルールづくりの有無も検討テーマになりそうです。
同研究会は、これからの雇用仲介制度のあり方を検討。具体的には( 1 ) IT化等による新しい事業モデル・サービスに対応した制度のあり方(2)有料職業紹介事業及び求人メディアをより適正かつ効果的に運営するための制度のあり方(3)働き方や職業キャリアの在り方が多様化する中で、需要サイドと供給サイド双方にとって機能的な労働市場を実現するための制度や官民連携のあり方――について議論します。
この日は、全求協が「求人メディアの現状」と「新しいサービス形態と利用状況」に分けて調査結果の要所を説明しました。委員からは「職業紹介と求人メディアの間のグレーゾーンがどんどん膨らんできている。新たなルールが必要なのか否かも検討すべき」などの意見が挙がりました。 次回以降は、紹介事業や求人メディアに携わる個別企業を招いて実態把握を深める方針で、それらを踏まえて5月以降は見直し議論を展開する運びです。
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