2024年度の最低賃金を決める中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の議論がスタートしました。国民の実質賃金が2年以上にわたってマイナスを続ける中、昨年度の「43円、4.5%」をさらに上回る引き上げが実現するかが最大の焦点となっています。
最低賃金(最賃)は同審議会傘下の「目安小委員会」(藤村博之委員長)で非公開審議され、7月下旬に改定の「目安額」を提示。目安額は賃金水準の高い順にA、B、Cの3ランクに分かれ、これを軸に各都道府県の最賃審議会が8月中に決定します。
23年度の場合、目安委が平均で「41円(4.3%)アップの1002円」を示したところ、結果は「43円(4.5%)アップの1004円」に上振れ。賃金水準が低く、労働力流出の加速化を懸念するCランクの県が軒並み、目安以上の大幅改定に踏み切ったためです。
しかし、この大幅アップも労働者全体の賃金底上げにはそれほど寄与しませんでした。厚労省の毎月勤労統計調査では、最賃が実施された昨年10月以降の現金給与総額の伸びは0.7~1.5%程度の低率が続き、消費者物価の伸びを差し引いた実質賃金もマイナス1.1~2.5%で推移。
実質賃金のマイナスは今年5月で実に2年以上の26カ月連続となり、これが個人消費の回復を阻む大きな壁となっているのが現実。最賃アップの効果はどこにも見られません。
こうした状況を意識して武見敬三厚労相は今回、中央審に対して「物価を上回る賃上げを実現しなければならない」と述べ、目安額の大幅アップに期待を寄せました。
今年の春闘では平均1万5236円、賃上げ率5.1%(連合調査、6月3日時点)と33年ぶりの大幅アップが実現し、最賃もこのアップ率に歩調を合わせると50円程度になることから、「50円アップが労使の攻防ライン」との見方が広がっています。
ただ、体力の弱い中小・零細企業には慎重な姿勢も根強く、日本商工会議所は4月、政府に最賃に関する要望を出しましたが、その中で「中小・小規模企業は労働分配率が7~8割と高いことに加え、エネルギーや人件費などコスト増加分の価格転嫁が十分進まず、賃上げ原資は乏しい」として、「生産性向上などの自己変革による付加価値の増大に加え、労務費を含む価格転嫁の推進により、賃上げ原資を確保していく必要がある」と述べ、政府にそれらの支援策を強く訴えています。目安小委員会がこうした背景や事情を総合してどのような結論をみいだすのか、議論は7月下旬にヤマ場を迎えます。