障害者雇用をめぐる法整備が拡充し、包摂(ほうせつ)的社会の意識が広がるなか、民間企業の取り組みと対応が注目されています。厚生労働省は2023~27年度の5年間を対象とする「障害者雇用対策基本方針」を策定。障害者雇用の質の向上や就労ニーズを踏まえた働き方の推進を新たに盛り込み、「企業の責務」を明確化しました。
来年4月には法定雇用率の段階的引き上げや短時間労働者の適用拡大などがスタート。就労拡大が一段と進む見通しですが、就労希望者の選択肢拡大や定着率向上など課題が山積しています。こうした変化を目前に控えるいま、企業が押さえておきたい障害者雇用を取り巻く法律の動きとポイントをお伝えします。
目次
<メモ>企業の障害者雇用の現状
(1)雇用の質の向上のための企業の責務の明確化
(2)有限責任事業組合(LLP)算定特例の全国展開
(3)在宅就業支援団体の登録要件の緩和
(4)精神障害者の算定特例
(1)短時間労働者の算定特例
(2)障害者雇用調整金・報奨金の支給方法の見直し
(3)納付金・助成金の新設・拡充
<メモ>障害者雇用納付金制度の概要
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身体障害、知的障害、精神障害があって職業生活に相当の制限を受けたり、職業生活を営むことが著しく困難だったりする人。また、障害の種類を問わず、職業生活上の困難を抱えているすべての種類の障害者が対象です。
このうち、法律で雇用を義務化しているのは、身体障害者と知的障害者、そして2018年4月から追加された精神障害者(発達障害やその他心身の機能障害)です。雇用にあたっては「症状が安定し、就労が可能な状態にある者」という留意点も付されています。
すべての企業において、障害者雇用に関する差別が禁止され、合理的配慮が義務づけられています。募集や採用に際して守るべき3大要素があります。
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1、差別の禁止
募集・採用をはじめ、賃金、配置、昇進など、あらゆる場面で障害者であることを理由とした差別の禁止
2、合理的配慮の提供義務
企業は、合理的配慮として例えば「視覚障害がある人に対して点字や音声などで採用試験を行う」「聴覚・言語障がいがある人に対して筆談などで面接を行う」「精神障害がある人などに対して出退勤時刻・休暇・休憩に関する配慮をする」ことなどがあります。
3、相談体制の整備、苦情処理・紛争解決の援助
企業は、障害者からの相談に適切に対応するため、相談窓口の設置など必要な体制をとることが求められています。また、企業は障害者からの苦情を自主的に解決することが「努力義務」となっています。
全従業員数に対して一定割合以上の障害者の雇用が義務付けられており、法律に基づいて「5年に1度の見直し(雇用率アップ)」があります。
最新(2023年)の民間企業の法定雇用率は「2.3%」ですが、来年(2024年)4月から0.2%ずつ段階的にアップし「2.7%」になります。
出典:厚生労働省「令和5年度からの障害者雇用率の設定等について」
【精神障害者が増加傾向】
企業が雇用している障害種別の内訳は、身体障害者が35.8万人、知的障害者が14.6万人、精神障害者が11.0万人です。身体障害者が過半数を占めていますが、高齢化などで近年は伸び悩んでおり、22年には初めて減少に転じています。それに代わって、精神障害者が増えています。
【過半数企業が法的雇用率を未達】
雇用数は年々増えているものの、障害者雇用が意識の高い一定の企業に偏っており、企業全体に広がっていません。法定雇用率の達成企業の比率をみていくと、1970~99年代は50%超。しかし、2000年代になると50%を割り込み、一時は40%ギリギリの時期も。2014年ごろから再び比率は上昇を続けるようになりましたが、最近は過半数を割る48%前後で推移し、上昇の兆しがみられません。
2022年12月の臨時国会で、新たなルールを盛り込んだ改正障害者雇用促進法が成立しました。ポイントは「企業の責務」「質の向上」を重視したうえで下記をを推し進める方針です。
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(1)雇用の質の向上のための企業の責務の明確化
すべての企業は、障害者である労働者が職業人として自立しようとする努力に協力する責務があります。その能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与え、適正な雇用管理と職業能力の開発を進め、雇用の安定に努めなければなりません。
(2)有限責任事業組合(LLP)算定特例の全国展開
有限責任事業組合(LLP)については、これまで国家戦略特区内においてのみ「事業協同組合等算定特例」の対象としていましたが、2022年4月以降は全国で活用が可能となりました。
事業協同組合を活用することで、個々の中小企業では障害者雇用を進めるのに十分な仕事量の確保が困難な場合でも、複数の中小企業が共同して障害者の雇用機会を確保することができます。
※有限責任事業組合(LLP)=経済産業省で定義した「有限責任事業組合」という事業体を指します。「Limited Liability Partnership」を略してLLPと呼んでいます。
(3)在宅就業支援団体の登録要件の緩和
通勤等に困難を抱える障害者の就労機会を確保する上で重要な役割を果たしている「在宅就業支援団体」の参入促進を目的に、在宅就業支援団体の登録要件を緩和し、登録申請の手続きを簡素化しました。
具体的には、団体登録のために必要な「在宅就業障害者の人数」及び「職員の人数」などを見直すとともに、登録申請に必要な提出書類を一部削減することで登録申請に当たっての負担軽減を図っています。
出典:厚生労働省「在宅就業障害者に対する支援」
※在宅就業障害者=障害者雇用率制度、障害者雇用納付金制度の対象者と同様、身体障害者、知的障害者、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者)が対象となります。
(4)精神障害者の算定特例
精神障害者の雇用率算定について、雇い入れや精神障害者保健福祉手帳交付からの期間にかかわらず、1人をもって1人とカウントします。これまでは、その1人をもって0.5人の職員に相当するものと算定していた人も含め、当分の間、その1人をもって1人に相当するとみなします。表の「赤枠※部分」です。
出典:厚生労働省「障害者雇用率制度について」
(1)短時間労働者の算定特例
障害特性によって長時間の勤務が困難な障害者の雇用機会の拡大を図る観点から、特に短い時間(週所定労働時間が10時間以上20時間未満)で働く重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者を雇用した場合、特例的な取り扱いとして、雇用率上1人をもって0.5人と算定します。
(2)障害者雇用調整金・報奨金の支給方法の見直し
(3)納付金・助成金の新設・拡充
障害者の雇い入れ及び雇用継続に対する相談支援に対応するための助成措置を新設し、今回の制度改正を契機として既存の助成金を拡充します。
ⅰ中高年齢等障害者の雇用継続への支援
加齢により職場への適応が困難となった中高年齢等障害者(35歳以上)の雇用継続が図られるよう、企業が実施する「業務の遂行に必要な施設の設置への助成」「職務の遂行のための能力開発」「業務の遂行に必要な者の配置または委嘱への助成」を新設します。
ⅱ 既存の各助成金のメニューの整理・拡充
・職場介助者の整理・拡充事項(助成上限額)
・手話通訳・要約筆記等担当者の整理・拡充事項(助成上限額)
出典:厚生労働省「法改正に伴う令和6年度施行分の政令・省令・告示の改正について(案)」
ⅲ 障害者雇用に関する相談援助のための助成金の創設
都道府県労働局長の認定を受け、対象障害者の雇い入れと雇用の継続を図るために必要な対象障害者の一連の雇用管理に関する援助の事業(障害者雇用相談援助事業)を助成します(詳細は検討中)。
ⅳ 不正受給対策
助成金の不正受給対策を強化します。
✓不支給=障害者雇用納付金の納付の状況が著しく不適切、または過去5年以内に偽りその他不正の行為によって、障害者雇用納付金助成金の支給を受けたり、受けようとしたりする企業には支給しません。
✓返還命令=支給した障害者雇用納付金助成金の全部または一部を返還することを命じます。
✓事業主名の公表=偽りその他不正の行為を行った企業の氏名並びに企業名、所在地、不正行為の内容を公表します。
障害者を雇用するには、作業施設や設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理などの経済的負担が伴います。障害者雇用納付金制度は、障害者を雇用することは企業が共同して果たしていくべき責任であるとの社会連帯責任の理念に立ち、企業間の経済的負担の調整を図るとともに、障害者を雇用する企業に対して助成、援助を実施しています。
仕組みとしては、法定雇用率の未達企業に納付金を収めてもらい、その納付金を財源として障害者雇用調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金、特例給付金など各種助成金を支給しています。
障害者雇用促進法は時代とともに進化し、企業の社会的責務や役割も広がっています。企業としては法令遵守と変化する法定雇用率の充足が求められ、不断の努力で障害者の迎え入れや能力を存分に発揮してもらうための環境づくりが必要です。
新たなフェーズに入る障害者雇用の法改正を契機に、企業グループ内や職場内を総点検してみることをお勧めします。