2023年の新年度が始まる4月を節目に、企業に対応が求められるさまざまな法律改正や新制度がスタートします。
人事、労務、法務などに密接な見直しが目白押しで、事前の準備が必要です。この春以降に変わる新たなルールについて、その要所と留意点を前編・後編に分けてお届けします。
【前編】(2月22日掲載) 【後編】(3月1日掲載) <個人情報保護法>個人情報保護委員会が一元的に制度を所管
<道路交通法>自動運転「レベル4」の解禁
<消費者契約法>契約取消事由の追加など
<電気通信事業法>届け出制の対象拡大・Cookie規制など
<消費税法>インボイス制度の導入
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今回は前編として5つの新制度についてポイントを解説します。
時間外労働は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働です。
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は、既に大企業が2010年4月から50%となっていました。中小企業は10年以上も適用が猶予され、月60時間を超える時間外労働について25%の割増賃金が認められていました。
しかし、4月1日以降は中小企業も月60時間超の時間外労働について、割増賃金率が50%に統一されます。中小企業の中には「25%が当たり前」といった感覚が浸透していますが、賃金関係の法律違反となるので注意が必要です。
参考:厚生労働省/中小企業庁「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
労働基準法の第24条を省令改正して、4月1日から「給与デジタル払い」が解禁されます。これは、企業が労働者の希望に応じて、銀行口座を介さずに給与の全部または一部を決済アプリなどに振り込むことを可能にする仕組みです。法律で給与は「通貨で直接、労働者に全額支払う」と定められていますが、例外として認めている「銀行」とは別に「資金移動業者」をプラスします。
「資金移動業者」とは、「PayPay(ペイペイ)」や「d払い」などのキャッシュレス決済アプリを運営する事業者で、厚労相が安全性などの基準を設けて指定します。参画を希望する事業者の申請と安全性などの審査が施行後となるため、実際の運用は夏以降となる見通しです。
資金移動業者に課せられた主な運用ルールとして、下記などがあります。
(1)賃金支払に係る口座残高の上限額を100万円以下に設定。100万円を超えた場合は速やかに100万円以下にするための措置を講じる (2)破綻などにより口座残高の受け取りが困難となったとき、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済する (3)最後に口座残高が変動した日から、少なくとも10年間は労働者が当該口座を利用できる措置を講じる |
導入後のメリットとしては、下記などが挙げられています。
(1)働き手の給与の受け取り方が多様化し、選択肢・自由度が増す (2)外国人や非正規労働者なども金融サービスの恩恵を享受 (3)金融機関の支店・ATMの配置見直しが進む中、利用者の利便を補完 |
参考:厚生労働省 労働条件分科会(第181回)「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案の概要No.1」
改正育児・介護休業法により、育児休業の取得状況の公表について義務付けられる企業の範囲が拡大されます。これまでは、厚生労働大臣によって「プラチナくるみん認定」を受けている企業だけが対象でしたが、従業員1000人超の企業すべてに拡大されます。
改正育児・介護休業法は昨年4月から段階的に施行されており、このうち公表義務化は「仕上げの作業」となります。振り返りを含めて整理すると、
(1)企業による環境整備・個別の周知義務付け(2022年4月~)
(2)有期雇用の取得要件緩和(2022年4月~)
(3)男性版産休の制度導入(2022年10月~)
(4)育児休業の分割取得(2022年10月~)
(5)育児休業の取得状況の公表義務付け(2023年4月~)
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(1)は、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備。現行の育児休業制度と改正で新たに加わる制度の活用を促進するため、雇用環境の整備を義務付ける
(2)は、有期雇用の育児休業・介護休業の取得要件のうち「企業に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件を廃止
(3)は、男性の育児休業取得促進のため、子の出生直後の時期に柔軟な育児休業の枠組みを創設
(4)は、男性版産休を除く育児休業について、分割して2回までの取得が可能
今年4月施行の(5)は、従業員1000人超の企業を対象に、取得状況の公表義務付け
参考:厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(2022年10月1日)」
社会課題として浮上してきた所有者不明の土地問題。4月からはこの課題解消を目的に4つのルールを見直し・創設します。
参考:法務省「民法等の一部を改正する法律」
改正食品表示基準に伴い、4月から遺伝子組み換え食品に関する表示ルールが変更されます。
基本的に遺伝子組み換え表示には、下記がありますが、今回の改正では(2)の「任意表示」に見直しがあります。
(1)義務表示➡遺伝子組み換え農作物を使用している場合は「遺伝子組み換え」などの表示をする義務 (2)任意表示➡遺伝子組み換え農作物を使用していない場合に「遺伝子組み換えでない」などの表示が可能 |
具体的には、「大豆」「とうもろこし」をはじめ、これらを原材料とする加工食品について表示レベルを2段階に分け、消費者に対して正しい情報を提供することが求められます。
分別生産流通管理をして、意図しない混入を5%以下に抑えているもの➡「適切に分別生産流通管理された」旨の表示が可能
分別生産流通管理をして、遺伝子組み換えの混入がないと認められるもの➡「遺伝子組み換えでない」「非遺伝子組み換え」などの表示が可能
この対応によって、「確実に遺伝子組み換えの混入がないもの」と「5%以下に抑えているもの」で、違う表示をしなければなりません。消費者は普段の買い物の中で、こうした変化と違いがあることを知っておくべきでしょう。
参考:消費者庁「知っていますか?遺伝子組み換え表示制度」