昨秋に政府が閣議決定した総合経済対策の中に「同一労働同一賃金の徹底」が盛り込まれたことを受けて、厚生労働省は特別体制で派遣先と派遣元の指導監督に乗り出しています。昨年12月から強化中で、今夏まで取り組みを徹底する方針です。
昨秋の政府の有識者会議「新しい資本主義実現会議」では、施策の中心となる「人への投資と分配」の中で、「47都道府県321カ所に設置された労働基準監督署においても、新たに同一労働同一賃金の順守を徹底」と明記。同時に閣議決定された総合経済対策においても同様の方針が盛り込まれました。
こうした動きを踏まえて厚労省は、労働基準監督署が対象となる派遣先と派遣元を選びだし、都道府県労働局と厚労省需給調整事業課、雇用環境・均等部が労働者派遣法に基づいて報告徴収を実施。法違反がない場合でも、雇用管理改善を助言するほか、法違反があった場合は都道府県労働局長名で是正に向けて厳しく指導する方針です。
今回の指導監督では、2021年1月と4月に施行された計6つの省令改正についても目を光らせる方針です。同年1月施行は(1)雇い入れ時の説明の義務付け、(2)派遣契約に係る事項の電磁的記録による作成、(3)派遣先における派遣労働者からの苦情処理(4)日雇い派遣の直前キャンセル後の派遣元の対応――の4項目。同年4月施行は(5)雇用安定措置に係る派遣労働者の希望の聴取、(6)マージン率のインターネットでの情報提供――の2項目となります。
派遣法には、「労働基準法等の適用に関する特例等」という規定が置かれています。派遣元責任者講習などでも時間を割いて触れられる重要なテーマですが、一番最後の方に出てくる項目なので、なかなか意識しにくい部分です。労働法関係の規定は、当然のことながら原則として雇用主である派遣元に適用されますが、就業場所における労働時間管理や安全管理、作業管理などは現実的に派遣元の事業主に責任を問うことは困難であるため、派遣労働者の保護をはかる観点から、派遣先を事業主と「みなす」ことになっています。これが「労働基準法等の適用に関する特例等」です。
派遣法では派遣先は原則として「労働組合法上の使用者ではない」と解釈されていますが、裁判例などでは、派遣先が雇用主と同視できる程度に現実的・具体的な支配力を有し、近い将来、労働者と雇用契約が成立する現実的・具体的可能性がある場合などは、労働組合法上の使用者に該当しうるとされます。
裁判例などの考え方では、①派遣契約上の就業条件に反する場合、②派遣法に規定する労基法などのみなし規定について派遣先に法違反があった場合、③偽装請負の場合には、派遣先に団交義務が生じるとされます。②は、派遣先にも周知徹底する必要が高いことから、派遣先指針に盛り込まれました。派遣先の労基法などの違反についての苦情や団交申入れについては誠実かつ主体的に対応することが求められます。