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2023年を読み解く(第3部)~経済・社会・労働法制

作成者: randstad|Jan 12, 2023 3:00:00 PM

同一労働同一賃金を含む「働き方改革関連法」をはじめ、この数年、雇用・労働法制の見直しが相次いでいます。今年も、企業幹部や人事担当者が見逃すことのできない新たな法改正が施行される予定です。 

新年特集「2023年を読み解く」の最終回では、企業にとって準備や対応が必要な「3つの労働法制」についてお伝えします。労働法制はいずれも4月1日に施行されるもので、「割増賃金率の統一」「賃金デジタル払い」「育児休業の取得状況公表」をキーワードにした改正です。施行日前までに企業内で周知・確認をお勧めします。

 

【労働法制】「3つの労働法制」と「押さえておきたい改正法」

 

【1】月60時間超の時間外、割増賃金率を一律「50%」(4月1日施行)

まず、時間外労働とは「法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働」を指します。 

この月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は、既に大企業が2010年4月から50%となっていましたが、中小企業は適用が猶予され、月60時間を超える時間外労働についても25%の割増賃金を支払えばよいとされてきました。 

しかし、4月1日以降は中小企業も月60時間超の時間外労働について、割増賃金率が50%に統一されます。10年以上にわたって猶予されてきただけに、中小企業では「25%が当たり前」といった感覚が浸透していますが、賃金関係の法律違反となるので注意と準備が必要です。 

大企業と中小企業の区分は、業種や資本金、従業員数で定められ、中小企業に該当するかは下記の①または②を満たすかどうかで決まっています。

業種 ①資本金の額または出資の総額 ②常時使用する労働者数
小売り業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売り業  1億円以下 100人以下
上記以外のその他の業種 3億円以下 300人以下

出典:厚生労働省 パンフレット「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」

 


【2】賃金のデジタル払いスタート(4月1日施行)

労働基準法の第24条を省令改正して、今年4月1日から「給与デジタル払い」が解禁されます。これは、企業が労働者の希望に応じて、銀行口座を介さずに給与の全部または一部を決済アプリなどに振り込むことを可能にする仕組みです。法律で給与は「通貨で直接、労働者に全額支払う」と定められていますが、例外として認めている「銀行」とは別に「資金移動業者」をプラスします。

「資金移動業者」とは、「PayPay(ペイペイ)」や「d払い」などのキャッシュレス決済アプリを運営する事業者。厚労相が安全性などの基準を設けて指定しますが、参画を希望する事業者の申請と安全性などの審査が施行後となるため、実際の運用は夏以降となる見通しです。



上限は100万円、破綻時は全額保証
資金移動業者に課せられた主な運用ルールとして、下記などがあります。

(1)賃金支払に係る口座残高の上限額を100万円以下に設定。100万円を超えた場合は速やかに100万円以下にするための措置を講じる

(2)破綻などにより口座残高の受け取りが困難となったとき、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済する

(3)最後に口座残高が変動した日から、少なくとも10年間は労働者が当該口座を利用できる措置を講じる

(4)賃金支払に係る口座への資金移動が1円単位でできる措置を講じる

(5)ATMを利用すること等により、通貨で1円単位の受け取りができ、かつ、少なくとも毎月1回はATMの利用手数料の負担なく賃金の受け取りができるようにする

 


フィンテックや雇用などさまざまな市場を刺激

こうしたルールでの運用開始を前に、企業側は「中小企業の送金の手数料や活用の際の負担を軽減してほしい」と指摘。労働者側は「支払われた賃金の安全性が担保されるよう厚労省や金融庁の体制づくりが急務」と注文を付けています。

「給与デジタル払い」は働く現場に広がっていくのでしょうか。労働経済に詳しい識者からは「パート・アルバイト、短期派遣などスポットで働くゾーンにとっては、常時多彩なキャンペーンを展開している決済アプリに全額払いこんでもらうといったニーズが浸透しやすい。その後に月給固定が染みついている層に広がる」と分析。資金移動業者もそうした行動様式を念頭に、パート・アルバイトを多く抱える企業や派遣元事業者への接近または連携打診に乗り出す模様です。

また、金融サービスと情報技術を結びつけた革新的な動きを指す「フィンテック」の動きが、国際社会の中で立ち遅れている日本において、相応の刺激になってさまざまな市場を揺り動かすものと期待されています。



導入後のメリットとデメリット

導入後のメリットとして挙げられているのは、下記のような、ウィズ・コロナ時代も見据えた有効性です。

(1)働き手の給与の受け取り方を多様化し、選択肢・自由度が増える

(2)外国人や非正規労働者なども金融サービスの恩恵を受けられる

(3)デジタル社会におけるサービスの更なる普及、新たな価値の創造に資する

(4)キャッシュレス化で感染機会の減少に寄与する

(5)金融機関の支店・ATMの配置見直しが進む中、利用者の利便を補完する

(6)給付金や自治体施策とも親和性が高い

 

一方で、デメリット(懸念材料)としては、下記などがあげられ、安全網の整備に懸念も残されています。

(1)資金移動業者が破綻した場合、供託による資金保全義務が課されているとはいえ、払い戻しまでに時間がかかる

(2)銀行における預金者保護法のような共通の保護規定がない

(3)労働者の同意にあたっては、銀行口座との違いも理解の上で同意できるようにすることが必要

(4)資金移動業者の業務範囲は無制限に可能であるが、監督官庁である金融庁が監督指導できるのは資金移動業に限られる

(5)決済利用に伴う個人情報データの保護・取り扱いについての検討が十分行われていない

(6)資金移動業は口座への滞留を前提としておらず、滞留資金または滞留防止に関する検討が十分なされていない


出典:厚生労働省「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案の概要」



【3】育児休業の取得状況の公表を義務付け(4月1日施行)

改正育児・介護休業法により、育児休業の取得状況の公表について義務付けられる企業の範囲が拡大されます。これまでは、厚生労働大臣によって「プラチナくるみん認定」を受けている企業だけが対象でしたが、従業員1000人超の企業すべてに拡大されます。

この一連の改正は昨年4月から始まっており、公表義務化は「仕上げの改正」で(5)に当たる改正となります。

振り返りを含めて整理すると下記のような流れになります。

 
(1)企業による環境整備・個別の周知義務付け(2022年4月~)
「企業による環境整備・個別の周知義務付け」は、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備。現行の育児休業制度と改正で新たに加わる制度の活用を促進するため、雇用環境の整備を義務付ける
 
(2)有期雇用の取得要件緩和(2022年4月~)
「有期雇用の取得要件緩和」は、有期雇用の育児休業・介護休業の取得要件のうち「企業に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件を廃止
 
(3)男性版産休の制度導入(2022年10月~)
「男性版産休の制度導入」は、男性の育児休業取得促進のため、子の出生直後の時期に柔軟な育児休業の枠組みを創設。子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能(現行は、原則子が1歳(最長2歳)になるまで)
 
(4)育児休業の分割取得(2022年10月~)
「育児休業の分割取得」は、男性版産休を除く育児休業について、分割して2回までの取得を可能とする
 
(5)育児休業の取得状況の公表義務付け(2023年4月~)
「育児休業の取得状況の公表義務付け」は、従業員1000人超の企業を対象に、取得状況の公表を義務付ける
 


参考:厚生労働省のリーフレット「育児休業の取得の状況の公表について」