パート・アルバイトなどで働く人が加入する社会保険(厚生年金保険、健康保険)の適用範囲が、10月から大きく拡大。従来の適用範囲から外れていた短期の派遣社員にも対象が広がりました。共働きが普通になっている現代の労働市場の実態に沿った政策の一環ですが、それでも女性労働者に対する「補助的労働」の感覚は抜けておらず、生産性の向上にとってもどこまで寄与するかは未知数です。
パート労働者の社会保険への加入は、かつてはフルタイム労働者の労働時間の4分の3以上働く人に適用され、事実上週30時間以上の人が対象でした。2016年から対象範囲が拡大し、加入要件を(1)週20時間以上~30時間未満に拡大(2)月収8万8000円(年収106万円)以上(3)1年以上の雇用が見込まれる人で、学生は除く(4)対象事業所は従業員501人から――などに広げました。
2020年5月に成立した年金制度改革関連法で、(4)の対象事業所をこの10月から従業員101人以上に拡大し、24年10月からは51人以上の中小企業まで拡大することも決まっています。また、(3)の「1年以上」が「2カ月以上」と広がりました。厚生労働省によると、今回の拡大より新たに約65万人の人が加入対象になると見込まれています。社会保険の保険料は事業所と従業員の折半となることから、規模が小さくなるほど企業側の負担感が強まります。さらに、パート・アルバイトを大量に雇用している飲食・サービス業界などは新型コロナ感染拡大によって経営が厳しくなっているほか、最低賃金が2年連続で3%台に引き上げられた二重苦の状態ですが、政府は「周知期間は十分あった」として予定通り実施しました。
今回の最大の焦点は「負担と給付」の問題です。現在は年収130万円まで保険料の本人負担はなく、配偶者(主に夫)が勤める企業などが負担。10月からはこれが年収106万円に下がり、これ以上の収入のある人は自分の勤務先と保険料を折半する形で加入しますが、政府の試算では保険料負担は月平均1万2500円ほどになり、収入が8万8000円の場合は14%ほどの負担率になります。もちろん、将来受け取れる年金がこれまでの基礎年金のみから厚生年金が上乗せされます。
また、健康保険はこれまでの本人負担から会社負担が加わって折半となることから本人負担が減る一方、けがや病気などの際には「傷病手当金」や「出産手当金」が新たに給付されるメリットが生まれます。こうした制度改定で、常に問題になるのが本人負担の有無。今回の改正では本人負担のない「130万円の壁」が「106万円の壁」へと低くなったことから、それぞれの家庭の事情によって対応も分かれそうです。現在、週20時間以上働いている人の場合、負担したくなければ週20時間未満に勤務時間を短縮する方法が考えられますが、手取り収入が減るうえ、年金世代になっても基礎年金だけで厚生年金分の上乗せはありません。
逆に、社会保険料を負担したうえで、手取り収入を減らさないためには、106万円から123万円程度に増やす必要があります。これまで「130万円の壁」を意識して勤務時間を抑制してきた人たちにとっては、収入増を目指すきっかけになりそうです。