社会保険の仕組みは年金制度と直結しており、企業と個人の双方に身近なテーマです。この社会保険の適用範囲が10月から拡大するため、企業は対応に追われています。長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るために必要な改正ですが、目前に迫った適用範囲の拡大はどのような見直しなのでしょうか。
本記事では、企業視点に立って改正の全体像を分かりやすく解説するとともに、厚生労働省と日本年金機構が公開している資料を基に、企業が対応すべき課題とポイントをまとめました。
社会保険をめぐる4つの改正は、今年の春から順次スタートしています。
(1)在職中の年金受給のあり方の見直し(4月~) (2)受給開始時期の選択肢拡大(4月~) (3)確定拠出年金の加入可能要件の見直し(4月から段階的に) (4)社会保険の適用範囲拡大(10月から段階的に) |
このポイントを順を追って説明すると、
(1)在職中の年金受給のあり方の見直し
① 高齢期の就労継続を早期に年金額に反映するため、在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額を毎年定時に改定
② 60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度について、支給停止とならない範囲を拡大
(2)受給開始時期の選択肢拡大
現在60歳から70歳の間となっている年金の受給開始時期の選択肢を、60歳から75歳の間に拡大
(3)確定拠出年金の加入可能要件の見直し
(4)社会保険の適用範囲拡大
① 短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件について、段階的に引き下げる(現行500人超→100人超→50人超)
② 5人以上の個人事業所に係る適用業種に、弁護士、税理士等の資格を有する者が行う法律又は会計に係る業務を行う事業を追加
③ 厚生年金・健康保険の適用対象である国・自治体等で勤務する短時間労働者に対して、公務員共済の短期給付を適用
上記の4つの改正のうち、最も企業対応が求められるのは(4)社会保険の適用範囲拡大です。ここで言う社会保険とは、厚生年金保険と健康保険を指しており、企業が納付額の半分を負担しています。
現行の社会保険は、適用事業所に務める通常の労働者のほかに、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、同じ事業所の通常の労働者の4分の3以上ある短時間労働者が該当します。いわゆるパート・アルバイトと呼ばれる働き手で、この条件を満たせば被保険者となります。
また、厚生年金の被保険者が500人超の特定適用事業所では、2016年10月から下記の4要件を満たせば被保険者となっています。
こうした仕組みだった被保険者の適用ルールでしたが、今年10月からの改正で、特定適用事業所の範囲が「500人超」から「100人超」へと広がります。加えて、4つの要件のうち、②の「1年以上」が「2カ月以上」となるのが最大のポイントです。
21年10月から今年8月までの各月のうち、厚生年金の被保険者の総数が6カ月以上100人を超えた適用事業所は、日本年金機構が自動的に「特定適用事業所」と判断し、該当企業に事前に通知します。
また、もう少し先の話ですが、2年後の2024年10月からは「50人超」となります。
【1】恒常的に週20時間以上か否かの確認
ケース:社会保険の加入は雇用契約の内容で判断されるが、恒常的に20時間以上となってしまっている。
対応:新たなルールでは、週20時間以上となった月の3カ月目の初日に被保険者の資格取得となる。社会保険の加入に消極的なパートとの労使トラブルにつながる可能性があるので、企業の労働時間の管理はもちろん、自ら管理者に申し出ることを促す。
【2】定期的な社会保険の区分変更
ケース:通常の被保険者と短時間の被保険者を分けて管理するのが一般的だが、これまで以上に動きが発生する。
対応:パートの労働条件を変更した場合は、社会保険の区分変更が必要かどうかを確認し、所定労働時間や実態が恒常的にかけ離れていないかを定期的にチェックする。
【3】切り替え時に以前の社会保険の変更手続き
ケース:適用拡大で被保険者に切り替える場合、それまで加入していた社会保険の異動や変更の手続きが必要となる。
対応:異動や変更の手続きは、パートが加入している社会保険の制度によって異なります。例えば、配偶者が加入する健康保険の被扶養者および国民年金の第3号被保険者となっている人の対応を整理し、被扶養者でなくなることの影響も説明しておく。
社会保険の仕組みは身近でありながら、企業にも個人にとっても複雑で難解です。行政では、大きな見直しのタイミングで周知徹底に力を入れており、現在は企業向けなどに下記のサイトを開設しています。