厚生労働省が発表した「裁量労働制実態調査」によると、同制度の適用下で働く労働者と適用されない労働者を比べた場合、労働時間は適用者の方が長いという結果が出ました。ただ、適用労働者の満足度は高く、「長時間労働を招く悪い制度」と断定するのは早計のようです。
裁量労働制は、事前に定めた「みなし労働時間」に対して給与が支払われ、仕事の時間配分や進め方などは労働者が決める制度です。労働者への調査によると、1日平均労働時間では、裁量労働制の適用労働者が9時間0分だったのに対して、非適用労働者は8時間39分で、適用者の方が21分長いことがわかりました。また、1週間の平均労働日数も各5.03日と4.97日で、裁量制労働者の方が労働時間も労働日数も多い結果となりました。健康状態については「良い」が32%、「まあ良い」が28%、「普通」が29%となり、9割近くの人が健康に自信を持っています。ただ、仕事のある日の睡眠時間は約6時間で、健康面に関しては「時間に追われている感覚がある」などの声もありました。
それでも、適用に対する満足度では「満足」が41.8%、「やや満足」が38.6%で合わせると8割を超え、「不満」「やや不満」の2割弱を大きく上回りました。その理由に「柔軟に働くことでワークライフバランスが確保できる」「メリハリのある仕事ができる」「労働時間を減らせる」などを挙げる人が多数でした。
裁量労働制については2018年当時、働き方改革の一環として労政審のテーマとなり、対象職種の拡大を主張する経営側と労働強化を警戒する労働者側が対立。政府は企画型職種を拡大する改正法案を国会に提出したものの、「裁量制の方が通常の働き方より労働時間が短い」という厚労省の調査データに重大な不備が見つかったため、改革法案から裁量労働制の部分が削除され、議論は仕切り直しとなった経緯があります。
裁量労働制で働く人たちが一般より長時間労働をしているにもかかわらず、なぜ満足度が高いのか、この人たちの労働生産性は高いのか低いのか、といった観点からの議論も必要になりそうです。そして、日本の企業では「週休3日制」の導入を検討する動きも始まっており、ここでも「労働時間」というキーワードが浮上しています。「週休3日制」導入にあたっては、現段階で(1)休日が増えて総労働時間が減る分、給与を減額(2)休日の分の労働時間を勤務日に上乗せし、総労働時間を維持(3)総労働時間は減るが給与は維持し、実質賃上げ――の3つのケースがあり、労働時間の観点はあらためて企業側と働く側の双方が注目する課題となりそうです。