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言いにくいことも言える組織へ。「5つのアプローチ」で進める小林製薬のインターナルコミュニケーション【後編】

作成者: randstad|Nov 6, 2026, 3:00:00 AM

さまざまなヒット商品を生み出し、従業員にとって風通しのよい職場をつくってきた小林製薬。しかしながら2024年に、機能性表示食品による健康被害を公表し、現在も被害に遭われた方への補償を続けています。従業員にも情報が行き届かず社内のエンゲージメントが揺らぐなか、有志が社内向けの情報発信をスタートさせ、現在のインターナルコミュニケーショングループの設立につながったと紹介しました。

引き続き、インターナルコミュニケーショングループ(ICG)長の奥山 保雄さんに、より具体的な改革の手法、そして感謝を伝え合う取り組みにどう向き合っているのかを伺います。

(前編はこちら)

 

眉間にしわを寄せてコミュニケーションを考えることの限界

全従業員から寄せられた質問に対して、経営陣がすべてに答える取り組みを行ったことで手応えをつかんだ奥山さんは、書籍や他社への訪問を通じて、インターナルコミュニケーションを学び続けていました。


ーその学びからどのような社内コミュニケーションの姿を目指されたのでしょうか。

奥山氏 インターナルコミュニケーションが果たせる役割は、会社で起きていることを「伝える」だけではないと感じていました。従業員の経営陣への信頼を高めること、部門をまたいで互いを理解し合うこと、世の中との接点になること、会社への愛着や一体感を高めること。そんな未来に近づくためにも、一つずつ具体的なコミュニケーション施策を打ち出し、実行したいと考えました。


ー経営陣の方々は、従業員アンケートに関しては奥山さんたちの要望に応え、すべての質問に答えてくれました。新たな施策提案への反応はいかがでしたか。

奥山氏 正直なかなか前進せず、もどかしさがありました。強いて原因をあげると、良くも悪くもPDCAの考え方が強いという私たちの特徴にあったように思います。何か提案があっても「課題は何か」「真因はどこか」「芯を食った打ち手なのか」といった議論に陥りやすく、一歩踏み出しにくかったのです。そんなとき、とある部長が「コミュニケーションの話をしているはずなのに、全然楽しくない」とつぶやいたんです。このとき、コミュニケーションは眉間にしわを寄せて考えるものではないのではないかと、はっとしました。


ーそこから、どのような工夫をしたのでしょうか。

奥山氏 経営陣を巻き込んだワークショップを開催することにしました。毎年行われる大規模なエンゲージメントサーベイの結果をもとにして、コミュニケーションに関して他社で実施されていていいなと思った施策や、自社でやってみたら面白いんじゃないかと思う施策をカードにしたんです。これをボードゲームに仕立てて、各役員が山札からめくってやりたいと思ったカードを場に出し、他の役員も賛成ならそこにチップを置くという仕掛けです。ゲームの雰囲気で楽しみながら選んでいるうちに「じゃあ、それ一度やってみるか」という空気が生まれ、その場で一気に7つほどの打ち手が決まりました。

 

「ゲーミフィケーション」は成果を出すための有効な手法ですが、役員たち経営陣が集まる大切な会議にゲームを持ち込んだのは当社ではもちろん初めて。普段、経営会議の準備をする経営企画部からは、大いに驚かれました。しかし、経営陣が前向きになってくれた、大きな一歩だったと思っています。


ーそこから具体的にどのような施策が動き出しましたか。

奥山氏 たとえば「クロスワークショップ」ですね。営業の本部長と営業現場のメンバー、そこに工場の従業員が加わって、お互いに知りたいことや、不満に感じていることなどもざっくばらんに対話をするというものです。営業と工場の組み合わせは一例ですが、縦と横、つまり経営と現場や、異なる部門間同士が交わる場をつくるもので、参加者からもとても好評です。当社の製品を従業員が社外の方に配布できるサンプリングの仕組みも整えました。社外の方に自社製品を差し上げて喜んでもらえるという経験は、従業員のやりがいにもつながると考えています。

また、以前から福利厚生サービスの中にあったサンクスカード(感謝メッセージ)を贈る仕組みについても、WEB社内報でキャンペーンを周知しました。その結果、送信件数は昨年の1,163件から1,586件へ、送信者数も261名から430名へと大幅に増加し、仕組みを運営していた担当部署からも「活用が増えて本当に嬉しかった」という声が届きました。

前編で紹介した「青い鳥カード」の表彰も進化を加えました。青い鳥カードやアイデア・改善提案で優秀と認められた従業員が経営陣と美味しい料理を楽しむ食事会の場で、金賞を受賞した2名の取り組みをかっこいいショートムービーにして上映し、アワード的にみんなで称えました。受賞されたお二人が喜んでくれたのは勿論ですが、会社がどんな仕事への取り組み方や行動を是としているのかがわかりやすく伝わり、参加者にも好評でした。そのショートムービーは、食事会に参加していない従業員にも、社内報で広く共有しています。

 

 

「致命的な策など、まずない」偏りを防ぐ5つのアプローチ

奥山さんがリーダーを務めるICGは、インターナルコミュニケーションに対する5つのアプローチを掲げています。奥山さんは、かつて自身がブランドマネージャーを務めた肩こりや筋肉痛をやわらげるヒット商品「アンメルツ」になぞらえ、組織全体の血行を良くして「コリ」をほぐしたいと言います。


ーこの5つのアプローチは、どのような考えから生まれたのでしょうか。

奥山氏 私たちが行う施策がどのような目的に基づいているのか、分かりやすく整理したいという考えからです。マーケティングでは、ブランドにそぐわない施策のようにやってはいけない、致命的にまずい打ち手というものが存在します。しかもそこに巨額の予算が投じられることもありますので、慎重に見極められるべきです。一方、社内コミュニケーションは、やって致命的にまずい打ち手はほとんどないと思っています。やろうと思えば自分たちの手弁当でできる施策も多い。だからこそ、「まずはやってみる」ことを大切にどんどん施策を打ち出していくつもりでいます。しかしだからといって、ただ闇雲に企画・実行してもいけない。自分たちが確かな方針をもってインターナルコミュニケーションを推進するために、この5つのアプローチをフレームワークのツールとして作成しました。

この5つのアプローチは、社内報で従業員の皆さんにも共有されています。

  • コミュニケーションヨコヨコ…従業員同士の相互理解を促す
    縦割りや「ほかの部署には相談しづらい」といった症状を和らげる。部門をまたいだお仕事見学や交流ランチ、感謝を贈り合う福利厚生サービスなど

  • コミュニケーションタテタテ…従業員と経営層の距離を近づける
    「経営層の考えや想いが分からない」を和らげる。社長からのメール、社内報の経営陣特集、経営陣とのワークショップなど

  • ウチクリア…自社で起こっていることの透明度を高める
    「何が起こっているのか分からない」「声が経営層に届いているのか不安」を和らげる。紅麹事案の進捗の発信、決算や株主総会の説明動画、従業員サーベイなど

  • ソトマナブ…世の中に謙虚に学び、進化し続ける
    「井の中の蛙」を防ぐ。外部講師による講演、他社の好事例や風化防止の取り組みの共有など

  • スキナール…この会社で働くことが好きになる
    「うちの会社ってね」と笑顔で話せるように。家族を招くイベント、お客様の声の社内共有、自社製品のサンプリングなど


ーネーミングがとても小林製薬さんらしくて、秀逸ですね。

奥山氏 マーケティング部にいた頃から、ネーミングを考えるのが好きなもので…。当社のネーミングは、コンセプトをぎゅっと凝縮したもの。この5つのアプローチに関しても、内容がぱっと伝わるわかりやすさと、従業員が愛着を感じてくれることにこだわりました。


ーこれまでの取り組みは、どこに位置づけられるのでしょうか。

奥山氏 事案のあと最初に取り組んだ、情報を社内に伝える試みは、ウチクリアにあたります。クロスワークショップは、タテタテであり、ヨコヨコでもあります。青い鳥カードのショートムービーはヨコヨコ、サンプリングはスキナールですね。一つの施策が複数のアプローチにまたがることもありますし、あえて掛け合わせることもあります。このようなフレームに整理をしてから、偏っていないかチェックしやすくなりました。

インターナルコミュニケーションには、劇的に効く薬も、即効性の高い魔法の薬もありません。当社はニッチマーケティングでターゲットを絞るのが得意ですが、インターナルコミュニケーションは全従業員がターゲットです。さまざまな施策を地道に一つ一つ重ねていくことで、異なる性格の従業員の皆さんそれぞれに届けていきたいと思っています。「職場が明るくなった」「隣の部署の人と話しやすくなったかも」。そんな小さな変化が、3年後には当たり前の景色になっていることを目指します。

 

 

「ありがとう」は、品質と安全を守る土台になる

小林製薬では、紅麹の事案を公表した3月22日を「品質・安全の日」と定め、全従業員が事案を振り返り、話し合う場を設けています。また、当時お客様相談室で対応にあたった従業員や、現在も補償の最前線で被害に遭われた方と向き合う従業員へのインタビューなどを定期的に社内報に掲載し、紅麹事案と継続して向き合う機会を設けています。


ー品質・安全の日には、どのような意義がありますか。

奥山氏 健康被害を起こした重い事実と、そこから学んだことを、絶対に風化させてはいけません。その後、新たに入ってきた従業員も増えていきますから、何を起こしてしまったのかを全員が知り、日々の仕事の判断に生かしていく必要があります。被害に遭われた方への思いも含めて、年に一度、全従業員で内省し学び合うことに意味があると考えています。


ー品質と安全を守るうえで、職場にはどのような関係が必要だと考えていますか。

奥山氏 どんなにささいなミスや違和感でも、すぐに報告し、相談できる関係が欠かせないと考えています。耳の痛いことや厳しい指摘を伝えても、この先の関係に悪影響がないと安心して思える空気感こそ、私の考える心理的安全性のある職場です。

そうした関係を醸成するために、日頃から従業員同士で感謝を伝え合うことが、大きな役割を果たすと考えています。日常から職場で「ありがとう」という言葉が飛び交い、前向きな信頼関係が築かれていれば、言いにくいことも、必要な場面でためらわずに言い出せるはずです。それは、結果的に品質と安全を守る基盤にもなると信じています。

 

 

勤労感謝ウィークへコミットして本気度を保つ

勤労感謝ウィークは、ランスタッドが職場で感謝を伝え合うことを呼びかけて、2023年から始まった取り組みです。参画した企業は、勤労感謝の日のある11月に感謝を伝える施策を行います。奥山さんが最初に声をかけられたのは、昨年のことでした。


ー参画の誘いを受けたとき、どう受け止めましたか。

奥山氏 趣旨はとてもいいので、私自身はすぐにやりたいと思いました。ただ当時は、まだ社内の「コリ」がほぼほぐれていませんでした。従業員が会社の状況に不安を抱えているときに「感謝を送り合おう!」などと呼びかけても、かえって反発を招きかねません。当社には時期尚早だと判断しました。


ー今年、参画を決めたのはなぜですか。

奥山氏 社長自らが先頭に立つ組織風土改革のプロジェクトも動き出して、各部門で自発的にコミュニケーションを取り合う雰囲気も見られるようになりました。それに、参画することで、自分たちのお尻を叩く効果も見込んでいます。インターナルコミュニケーションは「重要だが緊急ではない」とされ、優先度が下がりがちですが、社外に対して取り組みを表明することで、我々自身が本気度を保てます。それになにより、他社の取り組みを学べることも好機だと捉えました。我々自身のソトマナブですね。


ー今年はどのような取り組みを計画していますか。

奥山氏 社長から全従業員へ感謝を伝えるメールに、社長自身の声で一言添えてもらう予定です。社長の人柄が伝わるような発信の提案も、コミュニケーションタテタテの一環として、我々ICGの大切な役割だと考えています。研究開発部門と製造部門を統合した新拠点「彩都ものづくりラボ」には従業員のご家族をお招きし、経営陣から、日頃支えてくださっているご家族へ直接感謝を伝える試みも行います。

日頃から、部門を超えて交流する「シャッフルカフェ」を自主的に開いている部署もあります。ここに持ち寄るおやつとして、私たちICGから「ありがとう」と書かれたクッキーを届け、渡し合うきっかけにしてもらえたらと考えています。このクッキーのアイデアは、まさに勤労感謝ウィークに参画している他社様の事例から思いついたものです。どの施策も参考になりますが、その時々の当社内の状況を見ながら、現場と温度差が生じないように進めるつもりです。


ーご自身が感謝を伝えたいのはどなたですか。

奥山氏 チームメンバーですね。マーケティングの頃から、私はメンバーには本当に常に恵まれてきました。今のメンバーは、会社が困難な中でも、心を奮い立たせて一緒に仕事に取り組んでくれる同志で、本当に感謝しています。

そして家族ですね。しっかり者の妻が、自身も仕事で忙しい中、家のことを支え、どんと構えてくれているから、私は仕事に集中できています。長男・二男にも、いつも楽しみをありがとうと伝えたいですね。

 

 

感謝が続きにくい組織へのアドバイス

感謝を伝え合う仕組みを採用しても、形だけに終わってしまうという企業は少なくありません。最後に、奥山さんの経験から見えてきたことを伺いました。


ー感謝を伝え合う施策が続かなかった企業は、まず何を見直すとよいでしょうか。

奥山氏 施策に関わるハードルを下げること、そして管理職が率先して始め、下火になっても続けることだと思います。また、感謝の施策が続かない理由は、きっとそもそもの土壌にあります。まずは組織の「コリ」をいろいろな方法でほぐすことが先決だと思います。


ー組織が困難に直面したとき、関係を紡ぎ直すうえで何が大切だと感じていますか。

奥山氏 組織に何が起きているのかを、可能な限り従業員に伝えることです。有事の際は5つの中では「ウチクリア」が最も大切です。なかなか伝えることが難しくても、伝えようとしている努力は伝わります。言えないなりに、その心情を伝える姿勢も大切だと思います。ワークショップで多くの厳しい声を浴びた当時の社長は翌日から、全従業員に向けたメール配信を始めました。毎週2通のメールを続け、足しげく各地の工場や営業所に通うことを続け、結果、従業員の多くはこの新しい社長を徐々に受け入れていきました。さらにあとを継いだ現在の社長も、毎週の従業員へのメールを欠かすことなく継続してくれています。なお、経営陣と従業員の状況や心情をつかみ、双方に通訳して届ける役割は会社によってどの部署が担ってもいいと思います。


ーこれから、どのような職場にしていきたいですか。

奥山氏 起こしてしまったことに真摯に向き合い続けると同時に、滞っている経営と従業員のタテ、従業員同士のヨコ、そして世の中とのウチソトのコミュニケーションを、ほぐし続けていきたいと考えています。私自身は今もこの会社のことが大好きですが、約3,700人の仲間の多くが、この会社と仕事に再び、今以上に誇りを持てる状態にしたいと思っています。そうなれば、私もこの会社と仕事をもっと好きになれます。そうした循環に、微力ながら少しでも貢献することが願いです。

 

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【「勤労感謝ウィーク」について】

「勤労感謝ウィーク」は、職場で感謝や称賛を伝え合う文化を広げるため、ランスタッドが呼びかけている取り組みです。

 

■ 勤労感謝ウィーク特別イベント 東京ミッドタウン日比谷で開催!
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【日時】 2026年11月17日(火)11:00~20:00
【会場】 東京ミッドタウン日比谷 1階 アトリウム
【参加費】 無料(どなたでもご自由にご参加いただけます)

 

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