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組織の混乱から立ち上がる。小林製薬が挑む「伝わる」インターナルコミュニケーション 【前編】

作成者: randstad|Nov 4, 2026, 1:58:36 AM

「あったらいいなをカタチにする」をコーポレートスローガンに掲げ、独自性のあるヒット商品を送り出してきた小林製薬。2024年3月、同社は自社製品による健康被害を公表し、被害に遭った方への補償を続けています。事案への対応に必死に向き合うなか、従業員にも報道を通じてしか情報が届かない状況に危機感を覚え、社内向けの発信を始めた人たちがいました。この動きが2025年のインターナルコミュニケーショングループ(ICG)発足につながったと語る、ICGのグループ長である奥山 保雄さんに、今回はお話を伺いました。前編では事案前の社内の姿から、ICGが活動の足がかりをつかむまでをたどります。

「さん付け」やアイデア提案に見る、昔から根付く風通しのよさ

小林製薬では、役職ではなく「さん」を付けて呼び合う習慣が定着しています。さらに、新入社員から社長まで、従業員全員がアイデアを出す提案制度もあります。2003年に入社後、長く商品のマーケティングに携わってきた奥山さんにとってはこうした環境はごく当たり前だったといいます。


ー入社したとき、こうした仕組みをどう受け止めましたか。

奥山 保雄氏 すでに定着していた文化でしたが、なんてよい仕組みなんだろうと思っていました。入社1年目から開発会議で社長にプレゼンをする緊張の機会があるのですが、社長は気さくに「奥山さん」と呼んでくださるし、先輩たちも普通に社長をさん付けで呼んでいるので、萎縮せずにすみました。それに呼称だけでなく、新入社員の意見にもちゃんと本気で耳を傾けて、良いものは採用する風土に感動したことを今でも覚えています。


ー褒める、褒められる文化も先進的なように思われます。

奥山氏 「ホメホメメール」は、直属の上司よりもさらに上の役職者が従業員を褒める仕組みです。私も受け取ったことがありますが「よく見てくれているんだな」という嬉しさが大きかったです。

また従業員が自ら仕事の成果を報告し、特に素晴らしいものは表彰されるという「青い鳥カード」といった取り組みもあります。ともすれば成功も失敗も仕事はやりっぱなしになりがちです。時に成功は印象に残り続けず、そのまま忘れられてしまいがちなので、どんな行動をし、何が良かったかを言語化するのは重要だと感じています。

さらに、日常のちょっとした感謝や称賛を部署内で気軽に送り合えるよう、チャットスペースを設けて管理職から率先して書き込むなど、感謝を伝えるハードルを下げようと工夫している部門もあります。たとえば、私が所属している広報・総務本部では、「いいね!ありがとうチャット」と称して、部内のみんなで、些細なことでも書き込みあっています。

 


ー全社で年間3万件以上が集まる、毎月のアイデア提案がもたらしてきたことは、どのようにお考えですか。

奥山氏 「アイデアは出して当然のもの」という感覚が社内にはあります。月末が近づくとチーム内でアイデアの提出が呼び掛けられるのですが、商品開発とは直接関係のない間接部門などからも必ずアイデアが出ます。これらの提案の中に「このお困りごとは切実だな」「この解決策はユニークだな」とか、キラリと光るものが潜んでおり、私が新商品開発部門にいたときは、チームでおおいに参考にさせてもらいました。膨大な量なので、目を通すのは大変でしたが…。なお、当社のホームページでは、製品紹介ページのところに、「私もアイデア提案者」として、類似したアイデアを提出した従業員を表記しています。


ーこうした仕組みが長く続いてきたのは、なぜだと思いますか。

奥山氏 トップダウンでルールとして仕組み化したこと。そしてこれらの仕組みがオープンにされてきたことも大きかったのではないかと思います。たとえば、ホメホメメールの宛先には他部門の本部長や関係者が含まれますし、青い鳥カードの内容が社内報で取り上げられることもありました。今回の取材を前に振り返ってみると、青い鳥カードは約25年、さん付けは30年以上、提案制度に至っては40年以上も続いており、その歴史の長さに私自身が驚いたほどです。それくらい日常の当たり前になっていますが、だからこそ今回のようなことがあるまで、その意味を深く考えることはありませんでした。

 

 

報道でしか状況を知りえない従業員たち。社内に広がった不安と危機感

当たり前だったその風景が揺らいだのは、2024年3月のことです。小林製薬は紅麹を含む機能性表示食品による健康被害を公表しました。被害に遭われた方や取引先への対応を最優先事項とする中、多くの従業員は自社で何が起きているのか、報道を通じて知ることとなりました。


ー当時の状況を振り返っていただけますか。

奥山氏 改めて被害に遭われたお客様、そしてご迷惑をおかけした皆様に、従業員の一人として深くお詫び申し上げます。お客様や取引先の皆様だけでなく、行政、メディアの皆様への対応で社内は手一杯となり、当時、DX推進を担っていた私も諸々の対応支援に回っていました。その一方、従業員には報道やインターネットのニュースからしか情報が得られない状態が夏ごろまで続いていました。


ー社内に向けた動きはどのように始まったのでしょうか。

奥山氏 従業員のケアについても考える必要があると考えた従業員10人ほどが有志となり、部署をまたいで集まりました。この時点では、まだ正式な組織ではなく、あくまで危機感を持った人たちの集まりで、「社内対応班」と呼んでいました。

その後社長の交代を受け、全従業員およそ3,700人を対象にしたワークショップが会場とオンラインの両方で開かれ、私は司会を務めることとなったのです。


ーそのワークショップで、具体的にどのようなやり取りがあったのでしょうか。

奥山氏 従業員から率直な意見を寄せてもらえたらと、オンライン上で匿名で自由に書き込めるツールを用意して臨みました。対面する会場の空気は悪くなかったのですが、そのツール上の書き込みを覗くと、まったく異なる反応でした。不安な気持ちだけでなく、会社への不信や新社長への厳しい批判の言葉が並び、ワークショップを企画した事務局や司会の私に向けた辛辣な言葉も、少なくありませんでした。

率直に言って愕然としました。私はこの会社と、ここで働く人たちが大好きです。自社が起こした事態の重さと、それによって長年培ってきた社内の信頼関係や一体感がここまで崩れてしまったのか、従業員の心がここまで傷んでしまったのかと大きなショックを受けました。この事案で最も重い苦しみを負ったのは、間違いなく被害に遭われたお客様や取引先の皆様です。ただその陰で、従業員もまた異なる苦しみを味わっていたことがこの日、一気に表面化したと感じています。


ーこの機会が一つの転機になったとお考えですか。

奥山氏 それまで従業員には、気持ちを出せる場がどこにもありませんでした。胸の内にたまっていた澱(おり)のようなものを、初めて吐き出す機会になったのではないかと思います。運営に携わったメンバーも同じく従業員ですから、突如責められる側になったのはとてもつらい経験でした。それでも有事の組織において、まずは思いや考えを率直に出し尽くす機会の必要性を強く実感しました。これが、私がインターナルコミュニケーションに本気で向き合わねばならないと感じた、原体験です。

 

 

形式的に「伝えた」で終わらせない。受け手の心に届く「伝わる」発信への変革

この経験を機に奥山さんは組織化を働きかけました。翌年、社内対応班は、インターナルコミュニケーショングループ(ICG)として正式な組織となります。


ー正式な組織となったICGが目指したことはなんでしょうか。

奥山氏 社内で何が起こっているのかをすばやく適切に、従業員へ伝達することです。社外に向けて出されたニュースリリースを社内連絡で知らせれば、形式上は「伝えた」ことになります。しかし受け手である従業員には、より詳しく知りたいとか、経営陣の声を直接聞きたいなどといった思いがあります。当初は、良かれと思って発信した情報が、意図と異なる悪い方向に受け取られることも少なくありませんでした。伝えたという事実で満足するのではなく、意図どおり「伝わる」ように取り組まなければ意味がないと痛感しました。


ー「伝え方」で注意した点はありますか。

奥山氏 やらないことはやらないと決めました。たとえば「温度差」のある施策です。社内であっても経営陣が話せない情報が多い時期があります。そんな状況下で、対話型のワークショップを企画しても、双方にとって消化不良な違和感が残ります。そうしたときは、事案の進捗や株主総会の内容や決算の説明などといった、会社として出せる情報を可能な限り早く、わかりやすく届けることに徹しました。従業員と経営陣、双方の状況や心情をつかみ、通訳することも意識しています。


ー従業員がどのように受け止めているかは、どのように把握されましたか。

奥山氏 私はマーケティング畑で育ってきた人間なので、顧客の声を聴くことがマーケティングの基本だと捉えています。チームで手分けして従業員へヒアリングに行き、次にアンケートで数字的な裏付けを確認しました。「聞かなくても大体想像はつく」との意見もありましたが、私の考えは違いました。やはり定性と定量で確認しないと、ことの本質を見誤って、打ち手がずれてしまうリスクがあります。いわゆるPDCAを繰り返したことで、「会社からの情報発信が少ない」と答えた人の割合は2024年8月の30%から2025年の同時期には10%に下がり、「何が起こっているかわからずモヤモヤする」といった回答も、少しずつ減少していきました。

ただ、会社そのものに対しては、そう速やかには戻りませんでした。「経営への信頼」は2025年の段階では依然として否定的な回答が肯定的な回答を上回っており(2026年に回復)、「当社で働いていることに誇りを感じる」スコアは今年のサーベイの結果でも未だ紅麹事案前の水準には至っていません。情報が届くようになることと、会社を再び信頼することの間には、距離があるということだと思います。


ー開いた溝をどのように縮めようとしたのかを教えてください。

奥山氏 アンケートには自由回答欄があります。何度アンケートを実施しても、ここに先ほどお話しした「澱」が沈んだままのコメントが多く書かれていました。最初の数回はここに寄せられたコメントをAIを活用して要約や抜粋して経営陣に回答をお願いしていましたが、ある時思い立って、社長をはじめとする経営陣に、すべてのコメントに回答していただきたいとお願いしました。類似した内容をまとめても、コメント数は300件以上ありました。この全部に役員で分担して回答してもらったのです。


ーその回答は、どのように従業員に伝えたのですか。

奥山氏 コメントひとつひとつに回答と回答者を添えて、全件を従業員に公開しました。すると、良かったことがふたつありました。まずひとつめは、自身の声がきちんと受け止められたと従業員たちが感じてくれたこと。そしてふたつめは、自分とは違うさまざまな見方、意見があると従業員が知れたことです。人は皆、自分の考えが正しいと思って書き込みますが、真逆の立場や視点から憤ったり、賛同したりしている人もいます。すべてが公開されたことで、そうした多様性に気づけたのだと思います。


ーやり始めたインターナルコミュニケーションに対して、成果や手ごたえはどのように感じていますか。

奥山氏 現在も被害に遭われたお客様や取引先の皆様への謝罪と補償は続いており、軽々に当社が「リスタートできた」などとは言えません。ただ、インターナルコミュニケーションについては、これまであまり社内で考慮されていなかったところから、土台ができつつあるかと感じています。

 

 

まとめ

「伝える」だけではなく「伝わる」状態とするためのインターナルコミュニケーション。さらなる可能性を信じた奥山さんたちが、どのような取り組みをおこなったのでしょうか。後編では、経営陣を巻き込んだ工夫と「5つのアプローチ」、そして勤労感謝ウィークへの参画について伺います。

 

【関連記事】

  • [後編] 言いにくいことも言える組織へ。「5つのアプローチ」で進める小林製薬のインターナルコミュニケーション(近日公開予定)

 

 

【「勤労感謝ウィーク」について】

「勤労感謝ウィーク」は、職場で感謝や称賛を伝え合う文化を広げるため、ランスタッドが呼びかけている取り組みです。

 

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