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同一労働同一賃金「5年後見直し」の全貌と企業対応(全3部作)第3部:「現場の一言」が会社を揺らす──説明要求時代の人事・現場対応と人材戦略

作成者: randstad|Jul 17, 2026 6:09:49 AM

2020年の施行から「5年後見直し」を経て、2026年10月1日に施行される同一労働同一賃金の改正省令・指針。その本質は、不合理な待遇格差への「抜け道」の遮断と、企業への「説明対応の実効性の強化」にあります。

この2026年10月の制度運用の見直しにより、労働条件通知書等には、待遇差について説明を求めることができる旨と、その申出先を明示することが求められます。

第1部第2部に続き、全3部作の最終回となる本コラムでは、パートタイム・有期雇用労働者(以下、パート有期労働者)からの説明要求に対し、現場の管理者が引き起こしかねないリスクを解説し、一貫した説明を支える「説明対応の面談記録」と実務フローを提示します。さらに、人事部門の負担を最適化し、コンプライアンスと持続的成長を両立させるための人材ポートフォリオの考え方を解説します。

 

1. 現場の不用意な一言が引き起こす企業リスク

2026年10月以降、雇入れ時の労働条件通知書等に、待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨が明示されることになります。これにより、企業は、パート有期労働者からの処遇に関する問い合わせ増加に直面することになります。近年は、生成AIを含む外部情報を通じて、労働者自身が待遇差の根拠や会社に確認すべき事項を整理しやすい環境になっています。ここで最も警戒すべきなのは、現場の管理者(工場長や店長、マネージャー等)がその場しのぎで感情的・主観的な回答をしてしまうことです。

現場でありがちな不適切な説明として、「パートに賞与はない」「予算の都合で決まっている」「就業規則で昔から正社員限定だ」といった発言が挙げられます。しかし、パートタイム・有期雇用労働法(以下、パート有期法)第8条が求めるのは、雇用形態の違いや予算、就業規則の文言だけを理由に一律の待遇差を設けることではありません。待遇ごとに、その性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮し、職務の内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情を踏まえ、正社員との待遇差が不合理ではないことを客観的に説明できるようにしておく必要があります。

法の趣旨を踏まえない、あるいは客観的な根拠を欠く説明は、労働者の不信を招き、労働局への相談や紛争解決手続につながるおそれがあります。労働審判や訴訟に至った場合には、その発言自体が、会社が待遇差について十分な検討や説明を行っていなかった事情として評価される可能性もあります。制度そのものに問題がなくても、現場の説明を誤れば紛争を拡大させかねません。人事部門が現場を支援し、会社として一貫した説明ができるルールを整えておくことが重要です。

 

2. 実務の防衛線として提案する『説明対応の面談記録』

待遇差に関する説明は口頭でも可能であり、法令上、面談記録の作成が一律に求められているわけではありません。しかし、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、万が一、労使間で見解の相違が生じた際にも、説明の経緯や判断の根拠を適切に示すためには、一定の記録を残しておくことが有効です。

そこで本コラムでは、実務上の工夫として「説明対応の面談記録」を提案します。これは、「説明対応記録シート」などを活用し、①説明概要、②あらかじめ整備した説明方針を個別案件に適用した内容、③説明後の状況、という三つの段階で記録を残す運用モデルです。

 

説明対応の面談記録

管理のレイヤー 記録すべき主要項目 備考
① 説明概要 説明に至った経緯、実施日時、対象者、説明者、手段(対面、オンライン等) 面談後、説明概要を記載したフォローメールの送付や、システム上で対応履歴を残すなど、説明を行った経緯が確認できる形で記録を残す。
② 説明方針の適用内容 比較対象となる通常の労働者の区分等、個別の事情により補足した場合の確認事項と補足理由 あらかじめ整備した待遇ごとの説明方針・標準資料(就業規則、賃金テーブル及び等級表等の支給基準など)に基づいて回答し、説明内容を統一する。個別の事情により補足が必要な場合のみ、その理由を記録する。
③ 説明後の状況 本人から出された質問・意見、追加説明の要否、今後の対応 追加説明が必要な場合や質問・意見が残る場合は、現場だけで抱え込まず、人事または指定窓口へ速やかに共有し、必要に応じて制度・運用の改善につなげる。

この仕組みの目的は、現場を細かく管理することではありません。現場が対応に迷った際に、人事部門と速やかに情報を共有し、会社として一貫した説明を行うための「共通言語」をつくることにあります。説明の経緯と判断の根拠を整理しておけば、現場ごとの説明のばらつきを抑え、対応品質を一定水準に保つことにもつながります。

 

3. 説明要求を受けたときの実務フロー

待遇差についての説明要求は、労働条件通知書に記載した窓口に対して行われることが想定されています。一方で、実際には工場長、店長、部門長など、日常的に接している指揮命令者に「なぜ自分には賞与がないのか」と質問される場面も少なくありません。

そのため企業は、説明指定窓口が直接受け付けるルートと、現場管理者が質問を受けて人事・指定窓口につなぐルートの両方を整えておく必要があります。

現場管理者は、待遇差の根拠や制度上の取扱いについて独自の判断で回答せず、質問内容を人事部門または指定窓口へ共有します。

このとき、単に「人事に聞いてください」と突き放すのではなく、本人の疑問を丁寧に受け止めたうえで引き継ぐことが重要です。例えば、「大切なことですので、私の一存ではなく、人事部門ときちんと確認した上で、会社として正確にお答えさせてください」といったクッション言葉を共有しておくと効果的です。

【説明要求を受けた場合の実務フロー】

  1. 現場が質問を受け止める
    質問内容と事実関係を記録し、人事・指定窓口へ共有する。

  2. 人事・指定窓口が受付内容を確認する(質問を受け止める)
    質問の対象となる待遇や確認事項を整理し、必要に応じて回答担当者と回答時期を定める。

  3. 人事・指定窓口が制度と実態を確認する
    比較対象となる通常の労働者の区分、規程・運用実態、待遇の性質・目的などを確認する。

  4. 人事・指定窓口が会社として説明する
    説明方法として、1)資料(例えば就業規則、賃金テーブル及び等級表等の支給基準など)を活用し、口頭により説明する方法。2)説明すべき事項を全て記載した労働者が容易に理解できる内容の資料を交付する等の方法がある。いずれの方法による場合でも、質問の有無や追加対応の要否を記録しておくことが望ましい。

  5. 人事・指定窓口がフォローする
    必要に応じてフォローメールを送付し、現場へ対応結果を共有する。

 

4. 実務負担を最適化する人材戦略と「人材派遣」という選択肢

ここまで解説してきた通り、2026年10月以降の運用ルールの明確化に伴い、パート有期労働者を直接雇用する企業においては、待遇差に関する説明対応の重要性がより高まります。一方で、多様な雇用形態を抱える企業にとって、それぞれの待遇について十分な説明体制を構築することは、実務負担の増加につながるという側面も否めません。

それぞれの待遇差について客観的な理由を整理し、就業規則や契約内容を見直し、現場の管理者へ周知徹底を図ることは、労使間の健全な関係構築に不可欠です。しかし、それに伴う制度設計や日々の運用にかかる時間的・人的コストは、人事部門にとって決して小さくない課題となることが予想されます。

こうした実務負担を適切に管理し、必要な人材を確保するための選択肢の一つとして、『人材派遣の活用』を改めて検討する意義があります。これは単なる外部リソースの活用にとどまらず、人事部門が実務負担を最適化し、よりコアな業務に注力するための戦略的な見直しでもあります。

なぜなら、派遣労働者を活用する場合、待遇に関する法定の説明対応を担うのは、雇用主である派遣元(ランスタッド等)だからです。派遣労働者から待遇について説明を求められた場合、その対応は原則として派遣元が担います。これにより、派遣先企業は、個別の待遇説明への対応負担を抑え、受入れや業務運営により注力しやすくなります。人材派遣は、人事部門の説明対応にかかる負担を抑えつつ、必要な専門性を持つ人材を柔軟に確保するための有効な選択肢と言えるでしょう。

さらに、派遣労働者の同一労働同一賃金において、ランスタッドが採用している「労使協定方式」は、派遣先企業の正社員との比較によって賃金を決定する方式ではなく、派遣元が労使協定に基づき、職種や地域に応じて厚生労働省が示す一般賃金水準と同等以上となるよう、あらかじめ賃金テーブルを整備し、適正に賃金を決定・支給する仕組みとなっています。

もっとも、人材派遣の活用は、直接雇用における制度整備から目を背けるための手段ではありません。派遣先企業にも、業務に必要な教育訓練や福利厚生施設の利用機会の確保など、果たすべき役割があります。業務の恒常性、求める専門性、育成方針、組織に蓄積したいノウハウなどを多角的に検討し、直接雇用と外部人材を適切に組み合わせる「人材ポートフォリオ」の視点を持つことが重要です。こうした視点を踏まえてはじめて、コンプライアンスと事業運営を両立させた、持続可能な組織運営につながります。

 

5. 変化を、強い組織づくりの機会に

2026年10月の同一労働同一賃金の制度運用の見直しは、単なる事務負担の増加ではありません。自社の待遇制度を点検し、現場と人事の連携を見直し、直接雇用と外部人材の活用を含めた人材ポートフォリオを再設計する機会です。

待遇差を客観的に説明できる制度は、働く人の納得感を高め、人材から選ばれる組織づくりにつながります。ランスタッドは、適正な待遇運用と柔軟な人材活用の両面から、企業が本来注力すべき事業成長に人事の力を振り向けられるよう支援します。

 

 

執筆者紹介

青木 秀登(あおき ひでと)
ランスタッド株式会社 執行役員・パブリックアフェアーズ本部長
一般社団法人 日本BPO協会理事長
一般社団法人 人材サービス産業協議会 理事

今回の同一労働同一賃金に関する制度運用の見直しにおいては、日本BPO協会理事長として、厚生労働省の労働政策審議会でのヒアリングに対応するなど制度見直しの議論に参画。

過去には厚生労働省の労働政策審議会(職業安定分科会労働力需給制度部会)に派遣業界代表として参加し、長年にわたり労働者派遣法等に関する制度の検討・整備に従事。

著書に『〔日本版〕同一労働同一賃金の理論と企業対応のすべて』(労働開発研究会、共著、編著代表 倉重公太朗)などがある

 

ランスタッドでは、労働法制の最新トレンド発信をはじめ、変化する労務環境に応じた最適な組織づくりや人材戦略をバックアップしています。今後の社内体制の整備や情報収集に、ぜひ以下の窓口・サービスをご活用ください。

 

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