こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の榎本と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。
本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理について、日頃の業務に携わる中で悩ましい点や疑問に感じる点などについて、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。
今回は健康診断についてご紹介します。
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労働安全衛生法では、労働者の健康確保のため、定期的な健康診断の実施を事業者に義務付けています。健康診断の実施時期や診断項目は、全ての労働者で完全に同じではなく、業務内容や有害業務の有無等により異なります。また、契約形態や週の所定労働時間によって、健康診断の対象となるかどうかも変わりますので、事業者は、法令に基づき適切に判断し、正確に対応することが必要です。
特に①②の健康診断については、全業種の企業が対象となりますので、必ず押さえておく必要があります。
①雇入時の健康診断
雇入時の健康診断は、雇い入れの直前または直後に実施することとされていますが、入社前3ヶ月以内に実施された健康診断の結果を提出した場合は、これをもって代替することができます。ただし定期健康診断と異なり、雇入時の健康診断については医師の判断による項目の省略は認められていませんので、提出された健康診断結果に不足がある場合には、該当項目について、あらためて受診する必要があります。なお、雇い入れ後に行う場合の期限は、法律で定められていませんが、1ヶ月以内を目途に実施することが望ましいでしょう。
②定期健康診断
定期健康診断は、1年以内ごとに1回実施することが義務付けられていますが、雇入時の健康診断や、特定業務従事者の健康診断を受診している場合は、その日から1年間は実施を省略できます。例えば、10月に定期健診を実施している会社で、4月に雇入時健康診断を受けた労働者については、その年の定期健診は省略し、翌年10月の定期健診を受ければよいとされています。この場合、結果的に間隔が1年を超えることになりますが、実務上は合理的な運用として取り扱われています。
③特定業務従事者の健康診断
特定業務従事者については、配置換え時および6ヶ月以内ごとに1回、定期健康診断と同一の項目による健康診断の実施が義務付けられています。(胸部エックス線検査および喀痰検査に限り1年以内ごとに1回で可)対象業務には、多量の高熱物体や低温物体を取り扱う業務、深夜業を含む業務など、身体への負荷が大きい業務が定められています。このうち深夜業とは、「常態として深夜業を1週1回以上又は1月に4回以上行う業務」を指すとされており(S23.10.1 基発1456号)、原則として所定労働時間を基準に判断されます。ただし、深夜残業が恒常的に行われている場合には、実態として該当する可能性があるため、留意が必要です。
④海外派遣労働者の健康診断
海外に6ヶ月以上派遣する労働者については、派遣前および帰国後国内業務に就かせる際に、定期健康診断と同一の項目および医師が必要と認める項目による健康診断の実施が義務付けられています。ただし、雇入時の健康診断や定期健康診断、特定業務従事者の健康診断等の健康診断を受けた労働者については、その実施の日から6ヶ月は該当項目を省略することができるとされています。
⑤給食従業員の検便
事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者については、雇入れの際または当該業務への配置替えの際に、検便による健康診断の実施が義務付けられています。
⑥歯科医師による健康診断
塩酸、硝酸、硫酸等、歯やその支持組織に有害なガス等を発散する場所における業務に従事する労働者については、雇入れの際または配置替えの際、および当該業務についた後6ヶ月以内ごとに1回定期に、歯科医師による健康診断の実施が義務付けられています。
⑦特殊健康診断
高気圧業務、放射線業務、除染等業務などの有害業務を行う労働者については、特別の項目について健康診断を行う義務があります。さらにこれらの定められた業務のうち、石綿業務等の限られた業務については、その業務に従事しなくなった場合でも実施しなければならないとされています。
健康診断の項目は、次のとおりです。このうち、令和9年4月からは、以下の項目について変更となることが予定されています。なお⑦特殊健康診断の項目は、業務内容により異なるため、ここでは取り扱わないこととします。
パートアルバイトでも、契約期間が1年以上(特定業務従事者は6ヶ月以上)になる場合で、かつ正社員の3/4以上勤務する場合は、健康診断を実施する義務があります。正社員だけではないという点に留意が必要です。なお、特殊健康診断については、契約形態や週所定労働時間によらず、あくまで有害業務に従事する労働者に対して実施する必要があるとされています。
健康診断は事業者に実施義務があると同時に、労働者にも受診義務があります。(労働安全衛生法第66条5項)
したがって、会社が受診機会を提供しているにもかかわらず本人の都合で受診しない場合は、業務命令違反として指導の対象となることがあります。なお、会社が指定した健康診断を受けない場合でも、本人がかかりつけ医等によって同等の健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出することで、代替できるとされています。
健康診断実施後、会社は、以下の取り組みを行う必要があります。
健康診断個人票の保存期間は5年です。特殊健康診断に限っては、最大で40年保存義務があり、業務の種類によって異なります。
異常の所見とは、「異常なし」と判断された方以外の方をいいます。また、医師(または歯科医師)からの意見聴取とは、就業の可否や、労働時間短縮などの就業上の措置について意見を聴くことを指し、その内容は健康診断の個人票に記載して保存しておく必要があります。なお、この意見聴取は、産業医の選任義務がない50人未満の会社でも義務です。そのため、産業医がいない場合は、地域産業保健センター、あるいは健診を実施した健診機関、お近くの医療機関等に相談の上、意見聴取を行うとよいでしょう。なお、医師(または歯科医師)からの意見聴取は、健康診断受診後3ヶ月以内に行う必要がある点にも、留意が必要です。
上記(2)による意見を勘案し、必要があると認めるときは、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮等、事後措置を講じなければなりません。
健康診断を受診した労働者へ遅滞なく健康診断結果の通知が必要です。
健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません。
定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、歯科医師による健康診断、特殊健康診断を実施した会社は、遅滞なく、健康診断結果報告書を所轄の労働基準監督署へ提出する必要があります。
健康診断は、労働安全衛生法に基づき事業者に実施義務が課されていることから、会社が費用負担すべきものとされています。なお、受診に要した時間の賃金については労使協議により定めるものではありますが、業務の一環として取り扱い、賃金を支払うことが望ましいとされています。一方で、特殊健康診断においては、その特殊性から、健康診断の受診は所定労働時間内に行われることを原則としており、かつ実施に要する時間は労働時間と解され、賃金の支払いは必須となります。
健康診断は、いずれも「実施すること」が目的ではなく、労働者の健康保持増進と職場環境改善につなげることが本来の目的です。そのため実務においては、対象者の正確な把握、受診管理の徹底、医師等からの意見聴取、指導・環境改善まで、一連の運用が必要となります。「健診はやっているが、その後の措置が未対応」という状態では、監督指導や労災トラブル時にリスクにつながる可能性がありますので、一連の運用についての体制の整備が望まれます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~
https://www.mhlw.go.jp/content/001436958.pdf
■厚生労働省 パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう!!
https://jsite.mhlw.go.jp/niigata-roudoukyoku/content/contents/29.3.7parttimekenshin.pdf
■厚生労働省 労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の診断項目の取扱いが一部変更になります(令和9年4月から適用)
https://www.mhlw.go.jp/content/001697021.pdf
執筆者:社会保険労務士法人大野事務所 特定社会保険労務士 榎本 美奈