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社労士のアドバイス/在宅勤務の労務管理について

作成者: 社会保険労務士法人大野事務所|Mar 31, 2026 1:08:29 AM

こんにちは、社会保険労務士法人大野事務所の榎本と申します。社労士として、企業の皆様から寄せられる人事・労務管理に関する様々なご相談に対応させていただいております。

本コラムでは、労働・社会保険諸法令および人事労務管理において、日頃の業務に携わる中で、悩ましい点や疑問に感じる点等について、社労士の視点から、法令上の観点を織り交ぜながら実務上考えられる対応等を述べさせていただきます。

さて、新型コロナ感染症の流行を契機に急速に普及した在宅勤務ですが、現在では「非常時対応」から「通常の働き方の一つ」へと位置づけが変わりつつあります。今回はそんな在宅勤務の労務管理について、今一度整理をしてみましょう。

Index

 

ポイント

  • 在宅勤務でも労災は通常勤務と同様に「業務遂行性」「業務起因性」により判断される。私生活との境界が曖昧になりやすいため、勤務時間や業務内容の記録を整備し、業務との因果関係を客観的に説明できる体制が重要である。
  • 在宅勤務では管理の目が行き届きにくいため、所定外勤務が生じやすく、結果として、長時間労働が発生しやすい傾向にある。時間外連絡の抑制やシステム制御、勤務間インターバルの確保等により、適切な労働時間管理が求められる。
  • 在宅勤務ではコミュニケーション不足となりやすいことから、心身の不調の把握が難しくなる傾向にあり、孤立や業務の偏りも生じやすい。定期面談やアンケート、ストレスチェックの活用により、早期把握と対応の仕組み整備が重要である。
  • 勤怠管理は、使用者の現認による管理が難しいため、PCログやシステム利用履歴等による客観的な記録による把握が原則となる。また、自己申告制を採用する場合でも、客観的記録との乖離確認を行い、適正な労働時間管理を確保する必要がある。また、みなし労働時間制の適用も慎重に判断する必要がある。
  • 在宅勤務に伴う費用負担や制度設計は、実態との整合が重要である。在宅勤務手当は実費弁償として整理できなければ賃金となる点に留意が必要。
 
 

 1.在宅勤務中の労災・安全衛生に関して

(1)在宅勤務中の労災

在宅勤務中であっても、事業場における勤務と同様に、労働契約に基づき事業主の指揮命令下で発生した災害は、労災の対象となり得ます。

 

①業務中の事故
例えば、

  • 自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した。
  • 業務用書類をほかの部屋に取りに行く途中で負傷した。

といったケースは、原則として業務災害に該当します。

一方、

  • 私用で外出中に事故にあった。
  • 家事の最中に指を切った。

等は業務外と判断され、労災補償の対象外となります。在宅勤務では業務と私生活の境界が曖昧になりやすいため、労災の基準となる「業務遂行性」「業務起因性」についての判断が難しくなる傾向があります。そのため「勤務時間の明確化」や「業務内容の記録」が重要です。

 

②休憩時間や中抜け中の事故
休憩時間や中抜け中は、事業主の指揮命令下にないため、原則として労災の対象外となります。

 

(2)長時間労働による疾病予防

在宅勤務では、使用者の管理が相対的に及びにくく、時間外の勤務が生じやすいことや、自宅という同一の空間で仕事と日常生活を行うことにより、両者の区別が曖昧になりがちです。その結果、生活時間の確保に支障が生じるおそれがあります。このため、長時間労働による健康障害の防止や、ワークライフバランスへの配慮が求められます。在宅勤務における長時間労働等を防ぐ手法としては、次のようなものが考えられます。

  1. 時間外にメールや電話で業務指示を行うことを抑制

  2. 原則として所定外深夜や休日は、社内システムにアクセスできない設定とする

  3. 時間外・休日・深夜労働を行う場合のルールの整備

  4. 長時間労働者への注意喚起

  5. 勤務間インターバル制度の導入等、その他の制度利用

 

(3)メンタルヘルス対策

在宅勤務中は、コミュニケーションが不足しがちになり、上司等が労働者の不調に気づきにくいとされています。また、お互いの動きが見えづらくなり、役割分担や業務内容が不明確になったり、偏りが生じたりする可能性があります。そのため定期的な面談や、アンケートの実施に加え、ストレスチェックの結果も活用し、労働者の心身の変化を早期に把握できる仕組みづくりが重要です。

  

 

 2.勤怠管理のポイント

(1)客観的な記録による把握の場合

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においては、使用者の現認以外の方法として、タイムカードや、パソコンの使用時間の記録等、客観的な記録を基礎として労働時間を確認することが原則とされています。なお、これらの記録はあくまで業務に従事していた時間を推認する資料であるため、休憩時間や私的な中断時間との区別が適切に行われるよう、運用ルールを明確にしておく必要があります。

 

(2)自己申告の場合

「始業・終業を自己申告させている」という会社も多いですが、客観的記録との乖離が出ないよう、適切な運用について労働者に丁寧な説明を行うことが肝要となります。また、

・PCログイン・ログアウト時間
・業務システムの使用履歴
・メール送受信時間

等について、整合性を確認する仕組みを整えておくとよいでしょう。

 

(3)みなし労働時間制

在宅勤務だからといって、当然に事業場外みなし労働時間制が適用できるわけではありません。事業場外みなし労働時間制は、労働時間を算定することが困難なときに適用できる制度であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばない事業場外で業務に従事する場合に活用できる制度です。具体的には、在宅勤務において、次の①②を満たす場合に適用できるものとなります。

①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと

・勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
・通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングも労働者が判断することができる場合
・会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、又は折り返しのタイミングについて、労働者において判断できる場合

②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、一日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決める等、作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合

上記を満たしている場合には、みなし労働時間制の適用が可能と考えられますが、筆者としては安易な「みなし適用」は未払残業リスクを高めるため、推奨していません。

 

(4)中抜け時間の取扱い

在宅勤務では、

  • 通院
  • 子の送迎

等で一時離席するケースも想定されます。あらかじめ「中抜けは事前申請制」「やむを得ず中抜け時間が延長してしまった場合は、事後速やかに報告する」等、ルール化しておき、労働時間の把握が曖昧にならないような仕組みづくりが大切です。

  

 

 3.費用負担の整理

(1)通信費・光熱費

法律上、在宅勤務に伴う通信費・光熱費等について「会社が必ず負担しなければならない」と明確に定められているわけではありません。とはいえ、次のような性質の費用については、会社負担とする運用が一般的です。

  • 業務遂行に必要不可欠であること
  • 労働者側に負担させる合理性が乏しいこと

実務上は、通信費・光熱費に関する費用補填として月額の定額手当を支給している会社も多く見られます。この「定額の在宅勤務手当」については、行政通達(令6.4.5基発0405第6号)により、当該手当が"実費弁償"として整理できる場合には、労基法上の賃金に該当せず、割増賃金の基礎に算入しなくてよい、とされています。ただし、"実費弁償"と整理するためには、少なくとも次の点が外形上明らかである必要があります。

  • 労働者が実際に負担した費用のうち、業務のために使用した金額を特定し、その金額を精算する仕組みになっていること
  • 就業規則等で「実費弁償分の計算方法」が明示されており、かつ、その計算方法が、在宅勤務の実態(勤務時間・在宅日数等)を踏まえた合理的・客観的なものであること

このことから、例えば、当該手当を欠勤等により使用しなかった場合でも、返還する必要がない(例えば、毎月5,000円を一律支給)場合は、"実費弁償"には該当せず、"賃金"に該当するため、割増賃金の基礎に算入すべきとされています。

なお、「在宅勤務手当における1日単価を合理的・客観的に定めた」場合で、その単価に在宅勤務日数を乗じて支給されている場合は、その額が実費を上回らない限り、実費弁償として差し支えないとされている点も、抑えておく必要があります。「1日単価を合理的・客観的に定める」具体的な方法としては、一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も額が低いものを、1日当たりの単価として運用する方法が挙げられます。

 

(2)設備・備品

PC・モニター・社用携帯等は、業務遂行に必要不可欠であることから、会社負担とするケースが多いです。やむを得ず私物使用を認める場合は、

  • 情報セキュリティ規程
  • データ保存ルール

を明確にしておく必要があるでしょう。

  

 おわりに

在宅勤務は柔軟な働き方を可能にする一方で、「見えない労務管理」という新たな課題を生み出します。労災・勤怠・費用負担のいずれも、「出社と同じ責任が会社にある」という前提を忘れてはなりません。制度を形だけ整えるのではなく、実態に即した運用と記録管理を徹底することが、リスク回避の最大のポイントとなります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

<参考URL>
■厚生労働省 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインパンフレット(令和6年度版)
https://www.mhlw.go.jp/content/tw_guideline.pdf
■厚生労働省 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf
■国税庁 在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf

 

執筆者:社会保険労務士法人大野事務所 特定社会保険労務士 榎本 美奈

 
〔執筆者プロフィール〕
社会保険労務士法人 大野事務所
特定社会保険労務士
榎本 美奈

地元福岡の大学を卒業後、一般企業の人事部にて、採用、労務に携わる中で、もっと奥深く法律を学びたいという思いから社会保険労務士を目指しました。2017年に資格を取得し、福岡の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、2022年に社会保険労務士法人大野事務所に入所しました。現在は主に人事・労務に関する相談業務や給与計算、手続のアウトソーシング業務に従事しています。常にお客様とのコミュニケーションを大切にしながら、それぞれに合った適切なアドバイスができるよう心がけております。

 

〔この執筆者の記事〕
社労士のアドバイス/在宅勤務の労務管理について