10月のピンクリボン月間に合わせ、ランスタットのジェンダーERGは、産婦人科専門医であり4児の母でもある稲葉可奈子先生をお招きし、特別ウェビナー「知って備えるライフステージごとの女性の身体とがんリスク」を開催しました。
ウェビナーは、ランスタッドIT本部長であり乳がんサバイバーでもある林知果さんの力強いメッセージから始まりました。
「女性の9人に1人が乳がんに罹患する時代。私自身も5年前に診断を受けました」
診断を待つ間の「生きた心地がしない」不安、しかし、「医学の進歩による早期発見での高い生存率」と「職場の理解」があれば、治療と仕事の両立は決して不可能ではない——。この当事者としての言葉から、セッションは「自分ごと」としてスタートしました。
本レポートでは、稲葉先生が語った「すべての女性が知っておくべき健康知識」の主要なトピックと、質疑応答の概要をお届けします。
主要なトピック
1. なぜ今「女性の健康」なのか? ~ホルモンと経済損失~
なぜ、これほど「女性の健康課題」が注目されるのでしょうか。稲葉先生は、その理由を「ホルモンの特性」と「経済損失」の2点から解説しました。
- ホルモンの特性:
男性のホルモンがなだらかに分泌・減少するのに対し、女性ホルモンは生涯を通じて「乱高下(月経周期)」と「急降下(更年期)」という大きな変動にさらされます。
- 経済損失:
これらのホルモン変動に起因する生理痛、PMS、更年期症状、あるいは不妊治療やがんに直面した結果、キャリアを諦めたり昇進を辞退したりする女性は少なくありません。経済産業省の試算では、これらの健康課題による年間の経済損失は、生理痛関連で約5,700億円、更年期症状で約1.8兆円、女性特有のがんで約6,400億円にも上ります。
稲葉先生は、「身体的なデフォルトは男女平等ではない。しかし、それは決して女性が活躍しづらいという意味ではない」と強調。大切なのは、これらの課題が「適切な医療介入」によって解決可能であることを知ることだと述べました。
2. スローガンは「休む」より「コントロール」。生理・PMS・更年期は「1mmも我慢しない」
本ウェビナーで稲葉先生が一貫して伝えた最も力強いメッセージは、「女性特有の症状は、1mmも我慢しなくていい」というものでした。
- 生理痛(月経困難症)とPMS:
生涯で約7年弱もの期間にわたる生理。その痛みや、生理前のイライラ・落ち込み(PMS)は、「個人の努力不足」や「心が弱い」せいでは決してありません。これらは低用量ピルやホルモン放出子宮内システム(ミレーナ)など、保険診療で治療可能な「症状」です。放置することは、将来の不妊リスクを高める可能性もあります。
- 更年期症状:
ホットフラッシュや関節痛、気分の落ち込みなど、多彩な症状が出る更年期。「相談しても症状は軽くならない。不調があるなら婦人科で相談してほしい」と稲葉先生。ホルモン補充療法(HRT)など、これも保険診療で安全に治療できる選択肢があります。
国のスローガンは「しんどいなら休みましょう」になりがちですが、稲葉先生は「コントロールすることで、休まなくて良い体調を目指す」ことこそが、サステイナブルな働き方につながると提唱しました。
3. 知って備えるべき「乳がん」と「子宮頸がん」
女性特有のがんの中でも、特に「乳がん」と「子宮頸がん」が取り上げられました。その理由は、この2つのがんは「検診」による早期発見や「予防」が極めて有効だからです。
- 乳がん:
今や「9人に1人」が罹患する、最も身近ながんです。40代以降に多くなりますが、最大の武器は「早期発見」。1期で見つかれば、5年生存率は90%以上、ほぼ100%治ると言われています。
対策: 月1回のセルフチェック(ブレストアウェアネス)と、40歳になったら2年に1回のマンモグラフィ検診を受けること。
- 子宮頸がん:
20代後半から40代の若い世代に多く、「マザーキラー」とも呼ばれます。しかし、このがんは原因(HPVというウイルス)が特定されており、「予防できる唯一のがん」です。
対策: HPVウイルス感染を防ぐ「HPVワクチン」の接種と、がんになる手前の“前がん病変”を発見するための「20歳からの2年ごとの子宮頸がん検診」。
稲葉先生は、HPVワクチンの正しい知識を広める「みんパピ!」の代表も務めており、検診とワクチンの両輪で備える重要性を強く訴えました。
質疑応答(Q&A)まとめ
セッションの最後には、参加者から寄せられた質問に稲葉先生が回答しました。
Q.閉経していないのに、ホットフラッシュのような更年期症状が出ることはありますか?
A.あります。閉経する前からホルモンの数値は下がってくるため、症状が出る可能性は十分にあります。
Q.更年期のホルモン補充療法(HRT)は、がんのリスクを上げると聞いて不安です。
A.5年以内の使用であれば、乳がんのリスクは上げないというエビデンス(科学的根拠)があります。必要な場合は安心して治療を受けてください。
まとめ
今回のウェビナーは、女性の健康課題は「我慢して耐えるもの」から「医療で賢くコントロールするもの」へと意識を転換する、大きなきっかけとなりました。
正しい知識を持つことは、自分自身だけでなく、パートナー、家族、そして大切な同僚を守るための第一歩です。この学びを行動に移し、誰もが安心して持続可能(サステイナブル)に働ける環境づくりを推進していく重要性を再確認する時間となりました。
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profile:
稲葉可奈子
- 産婦人科専門医・医学博士
- 京都大学医学部卒業
- 東京大学大学院にて医学博士号を取得
- 双子含む4児の子育て中
みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 / みんリプ!みんなで知ろうSRHR 共同代表/ メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表 フジニュースα公式コメンテーター / Yahoo!エキスパート / NewsPicksプロピッカー 【書籍】『シン・働き方 ~女性活躍の処方箋~』など
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