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ランスタッドニューロダイバーシティERG主催:「障がい者雇用の『定着』を科学する:LITALICOの実践とデータが示す未来の職場づくり」イベントレポート

作成者: randstad|Oct 22, 2025 12:42:34 AM

 

このセミナーは、障がい者雇用の重要なテーマである「職場定着」に焦点を当てたものです 。株式会社LITALICOは、「障がいのない社会をつくる」というビジョンを掲げ、「障がいは人ではなく、社会の側にある」という考えに基づき事業を展開しています 。ウェビナーでは、LITALICOが現場で培ってきた具体的な実践事例やデータを基に、障がいのある方一人ひとりへの理解を深め、個々に合わせた環境を整えることが、いかに職場定着に寄与するのかを解説してもらいました 。

 

1.障がいの捉え方:「個人モデル」から「社会モデル」へ

皆さんは「障がい」と聞くと、どのようなことを想像するでしょうか。例えば、車椅子に乗っている方を見て、「歩けないことが障がいだ」と考えるかもしれません 。これは障がいを個人の問題と捉える「医学モデル」や「個人モデル」という考え方です 。

しかし、現代ではその捉え方が変化しています。行きたい場所に行けない、やりたい活動に参加ができないといった、社会との関わりの中で生じる障壁こそが障がいである、というのが「社会モデル」の考え方です 。この考え方は、WHOが採択したICF(国際生活機能分類)にも基づいています 。

本人の心身機能だけでなく、社会や環境側の障壁を取り除くことで、活動や社会参加の制約を減らすことができるのです 。目に見えにくい精神障がいや発達障がいも同様で、例えばADHDの特性がある方に対して、職場の騒音を減らしたり、指示を明確にしたりする「環境調整」を行うことで、その方のパフォーマンスは大きく向上します 。障がいを個人の課題としてのみ捉えるのではなく、環境との相互作用の中で捉え直すことが、すべての土台となります。

 

 

2.障がい者雇用の現状と「定着」という課題

日本の民間企業における障がい者の雇用者数は過去最高を更新し続けており、特に精神障がいや発達障がいのある方の雇用は著しく増加しています 。21年連続で過去最高を更新している状況です 。しかしその一方で、「職場定着」は非常に大きな課題となっています 。特に精神障がいのある方の場合、就職後1年での離職率は約50%以上にものぼります 。これは、一般労働者の平均離職率約15%と比較して著しく高い数字です 。

この高い離職率の背景には、コミュニケーションの難しさ、人間関係の問題、合理的配慮の不足、そしてご自身の障がい特性への理解が不十分であることなどが挙げられます 。障がいの有無にかかわらず、誰もが働きやすい環境を整えることが、結果として定着率の向上につながる重要な鍵となります 。

 

 

3.「誰でもできる配慮」から始める未来の職場づくり

では、どうすれば誰もが働きやすい環境をつくれるのでしょうか。それは、特別なことではありません。

指示を具体的にする:「あれ」「それ」といった指示語を避け、タスクを分解して具体的に伝えることは、誰にとっても分かりやすいものです 。

暗黙のルールを言語化する:職場で自然と続いているルールや暗黙知を、あえて共通言語でやり取りするだけで、コミュニケーションは大きく改善されます 。

環境を整える:集中できる環境の確保や、適切な休憩は、障がいの有無にかかわらず全ての人のパフォーマンス向上に繋がります 。

こうした一つひとつの「ちょっとした配慮」を習慣化することが大切です 。誰か一人のための特別な対応(合理的配慮)が、結果的にチーム全体、組織全体の生産性向上や働きやすさに繋がるのです。

 

 

質疑応答

ウェビナーの最後には、参加者の皆様からいただいた質問に小野寺さまよりご回答いただきました。

 

Q1. 精神系の診断を受けた知人に、LITALICOのような支援機関の利用をどう勧めればよいか?

まずは、ご本人が「何を解決できると働きやすくなるか」という点について話を聞くのが良いと思います 。例えば、「長く働き続けたい」という希望があれば、「そのためのアドバイスをくれる場所に相談に行ってみないか?」といった形で、本人の困りごとの解決策を見つける提案から始めてみてはいかがでしょうか 。

 

Q2. 精神障がいを持つ部下のパフォーマンスを評価する際に、配慮すべきことは?

評価の前に、その方の特性や障がいへの配慮を踏まえた目標設定や業務設計がなされているかが重要です 。その上で評価を行い、フィードバックをする際には、「次はどうすればうまくいくか」「そのために私たちが一緒にできることは何か」というように、次につながる対話をしていくことが大切だと考えます 。

 

Q3. 組織的な合理的配慮には時間がかかるが、個人側で働きやすくなるためにできることは?

ご本人に「どうあれば分かりやすいか、理解しやすいか」を言語化してもらい、それに対して「自分でできること」を書き出してもらうのが一つの方法です 。本人が「これならできる」と思うことを私たちも把握できますし、その本人が挙げた行動を周囲が少しサポートする形であれば、日々の業務の中でも実践しやすいと思います 。