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ED&Iを組織文化に根付かせるには?ERGとアライシップで実現する実践的アプローチ

作成者: randstad|Jun 23, 2025 6:24:17 AM

遅々として進まない日本企業のED&I、他人事ムードを振り払うには?

多くの企業がED&Iに取り組む中で、残念ながら本来の目的を見失い、形骸化してしまうケースも少なくありません。本記事では、ランスタッドの事例を交えながら、ERGを活性化し、組織全体に「尊敬と共感の文化」と「真のアライシップ」を醸成するための実践的なステップをご紹介します。

 

 

1、「尊敬と共感の文化」をどう作り上げていくか

ランスタッドは、2025年6月上旬に行われた「Tokyoプライド2025」の「Pride Festival」に出展し、ボランティア28名、事務局メンバー8名の総勢36名がイベントに携わりました。また、NPO法人プライドハウス東京とパナソニック コネクト株式会社が共同で企画した『Pride action 30』にも参加しています。

こうしたイベントやキャンペーンに積極的に参加することは、社内に「尊敬と共感の文化」を築く上で非常に重要です。従業員の目に見える形で支援を行うことにより企業の姿勢が伝わり、心理的安全性を高めることにもなります。また従業員が普段の業務だけでは知り得ない視点を得たり、他部署の従業員との交流の機会にもなったり、従業員同士のインクルーシブなコミュニティの形成にもつながります。そしてこうしたイベントの成功の背景には、ERG(従業員リソースグループ)の運営など、日頃からのED&I施策への地道で継続的な取り組みがあります。

 

▼ 「Tokyoプライド2025」の出展ブースではERGメンバーを中心に多くの社内ボランティアがスタッフとして活躍


▼ブースを訪れた人にはオリジナルのリング・ブレスレットが配布され、その写真を投稿することでギフトカードが当たるキャンペーンも実施

▼ランスタッドブースへの訪問者は2日間を通して延べ約3,000名に達した


 

 

 

2. 「真のアライシップ」を育むボトムアップ施策

ランスタッドでは、真のアライシップを育むために、経営層からの積極的な発信に加え、従業員の自発的な取り組みやボトムアップの施策を重要視しています。

2.1. LGBTQに関して2つのERGを展開

ジェンダーや障がいチャレンジド、LGBTQなど、様々なテーマでERG活動を行っています。LGBTQに関するERGも運営していますが、実は1グループだけではありません。当事者のみのクローズドのERG(LGBTQ ERG)とアライのERG(LGBTQ allies ERG)の2つがあります。

 

2.1.1 プライバシーに最大限配慮した当事者のみのERG

当事者のみのLGBTQ ERGは、人事や経営層にもメンバーが公開されないため、当事者の社員が安心して同じ境遇の仲間とつながり、支え合うことができます。これにより、孤立感を解消し、エンゲージメントの低下を防ぐ上で大きな役割を果たしています。こうした細やかな気遣いを大事にしながら、会社ではなく、当事者やアライが主体となって取り組んでいるのです。

 

 2.1.2 LGBTQアライのERGが重視する視点と職場改善への貢献

ランスタッドのLGBTQアライのERGでは、当事者が日頃感じている課題を具体的に言語化し、会社や人事だけでは気づきにくいボトムアップの視点から、職場環境の改善に貢献しています。実際に、ランスタッドのLGBTQ Allies ERGが実施しているボトムアップ施策を見ていきましょう。

 

  • 四半期ごとのランチセッション: 知識共有、テーマ別ディスカッション、イベント告知など、継続的な交流の場を提供しています。
  • 1~2回の全社対象啓発ウェビナー: 当事者の声や専門知識を交え、社員の理解を深める機会を設けています。
  • ランスタッドERGの専用ページの開設: イントラネットで専用ページを作り、ERGの活動報告やイベントの告知、メンバー募集などを行っています。
  • 社員の声に基づいた施策実施: イベント後にアンケートを行ってニーズを把握し、それに応じた施策を検討・実行しています。
  • 会社への提言: LGBTQ当事者やアライが感じる課題を具体的に言語化して会社に提言し、ビジネスへの貢献や社内環境の改善につなげています。

これらの施策からは、「一般的な知識を学ぶ機会」だけでなく、「当事者やERG、一般社員の声を聞く機会」、そしてその「声を届ける機会」が多く設けられていることが分かります。一般論だけで「こういうものだろう」と施策を打つのではなく、それぞれの職場に合わせた施策を探っていくことが重要です。

 

▼プライド月間に向けて開催されたランチ交流会には、LGBTQ allies のERGメンバーが集まりました。



 

 

2.2. ボトムアップ施策を積極的に進めるには?

せっかく施策を立ち上げても、その先へなかなか進められないケースも珍しくありません。ランスタッドでは以下の取り組みを行っています。

  • 柔軟なミーティング設定: 通常業務の妨げにならないよう、ランチタイムなどにミーティングを設定することで、参加しやすい環境を整えています。
  • ED&Iチームによるサポート: イベント開催時には、ED&Iチームが企画から実施までを全面的にサポートすることで、ERGメンバーの負担を軽減しています。
  • マネージャー層への情報共有: ERGの目的や活動内容を資料化してマネージャー層へ共有することで、ERGメンバーの参加を理解し、サポートできるようにしています。ED&Iチームによるサポートとも相まって、ERGの活動を「有志による活動」に留めさせず、「会社ぐるみ」でサポートする体制を作り上げています。
  • 経営層スポンサー制度: 各ERGに経営層のメンバーがスポンサーとして就き、活動にコミットすることで、組織全体へのメッセージとして「ED&Iが経営戦略の重要な柱である」ことを浸透させ、活動への理解と推進力を高めています。

 

このように、メンバーが参加しやすい環境に加えて、ED&Iチーム、マネージャー層、経営層と立場を超えて多くの人を巻き込んでいく取り組みが目立ちます。当事者やアライを主体としつつも「有志による活動」だけに留まらず、会社ぐるみでサポートしてもらえるよう働きかけていくことがポイントになります。


 

2.3. 職場でできるアライシップのヒント

職場で実践できるアライシップには、アンコンシャスバイアスをテーマとした研修への参加、差別的な行動を許さない姿勢を示す、困っている同僚がいれば声をかけるといったことが考えられます。

例えば、ランスタッドのLGBTQ allies ERGが主催する全社対象の啓発イベントには、毎回200名以上の社員が参加し、理解促進に大きく寄与しています。イベント後のアンケートでは、『LGBTQに関する理解が深まった』『職場でできることが見つかった』など、ポジティブなコメントが多数寄せられており、組織全体の心理的安全性の向上にもつながっています。重要なのは、「理解が深まった」ことに加えて「職場でできることが見つかった」ということ、つまり行動に移すことでその気持ちが「アライシップ」へとステップアップしていくことです。ボランティア活動やERGなどへの参加も積極的に検討してみましょう。

 

2.4. 日本企業で効果を発揮しているアライシップを育む事例

ランスタッド以外でも、各社でさまざまな取り組みが行われています。高い効果を発揮している事例をご紹介します。

 

2.4.1. ニュースレターや小冊子でアライシップを育む

積極的な情報発信でアライシップを育んでいる例もあります。ある企業では多文化・障がい・LGBTQ+をテーマに、スローガンを掲げて社員を中心としたアライ活動を支援しています。積極的に社内イベントを開催し、社員へのカミングアウトストーリーの共有や、全社員に対するニュースレターの発行、ライフプランを切り口にLGBTQ+当事者が直面する困難をまとめた小冊子の発行などを実施しました。こういった取り組みは当事者や社員はもちろん、顧客からも評価を得ています。

 

2.4.2. アライコミュニティとリーダー層の連携

アライコミュニティと会社が積極的に連携して成功している企業もあります。ある企業では全従業員を対象に職場におけるLGBTQについてのハンドブックの公開や継続した講演会、福利厚生などの制度の整備、就業中のドレスコードのフリー化など、アライコミュニティの意見を反映しながら実施しています。講演会などには社長をはじめ管理職・役員も積極参加しており、職場全体として風土の醸成につながっています。

 

 

3. 一人ひとりが実は「多様性の当事者」。ED&Iへの取り組みは経営戦略の重要な柱に

ED&Iへの取り組みは、もはや『あったら良いもの』ではなく、今日の企業が生き残る上で不可欠な、まさに経営戦略の重要な柱です。まずは、経営課題や経営計画の解決策として、ED&Iがどのように貢献できるかを経営層に具体的に提示し、サポートを得ることが非常に重要です。企業によって現在地や置かれている状況は異なると思いますが、一歩踏み出す勇気を持って、ぜひ取り組みを始めましょう。その一歩が、貴社の持続的な成長と、より良い未来を築くための大きな原動力となるはずです。

 

非営利活動法人東京レインボープライド(TRP)が6月14日・15日に初開催したイベント Tokyo Pride 2025 『Youth Pride(ユースプライド)』にはランスタッド ED&I・エンプロイヤーブランドマネージャーの土橋直子が登壇

 

 

多様性の問題は「マイノリティ当事者とその他」といった文脈で語られがちですが、そもそも一人ひとりに代えがたい個性があるのですから、突き詰めれば皆が多様性の当事者なのです。多様性について考えることは、関わり合うメンバー一人ひとりについて考えることにもつながります。ED&Iは単なるCSR活動ではなく、「誰にとっても働きやすい、活気ある職場を作ることで、企業の持続的成長とイノベーションを促進する」もの。だからこそ、経営戦略の中核となり得るのです。

貴社も今日から、従業員主導のERGを起点としたED&I推進に一歩踏み出してみませんか?

 

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