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日米の弁護士に聞く!人事労務ウェビナー「問題社員を生まない仕組みづくり」

作成者: randstad|May 21, 2025 12:00:00 AM

ランスタッド ライズスマート事業部が人事労務をアップデートするウェビナーを主催!

全体のテーマは「問題社員を生まない仕組みづくり」

コーチングをベースとした各種サービス(ワークライフコーチング・再就職支援・キャリア開発・配置転換サポート等)を提供する、ランスタッド ライズスマート事業部。最先端テクノロジーとヒューマンタッチを融合させたソリューションで、お客様のエンプロイヤーブランドの強化や定着率の向上において優れた結果をもたらしています。
そのライズスマート事業部が、2025年4月より「問題社員を生まない仕組みづくり」をテーマに全7回のウェビナーを開催。日米の弁護士を講師に迎え、米国や日本の事例をもとに効果的な対処法や、失敗事例、注意すべきポイント、日米での違いなどを紹介します。加えて、参加者からの事前質問に答えるQ&Aコーナーも設けられています。

 

「問題社員を生まない仕組みづくり」第1回、職務記述書・雇用契約書とは?

「自社における問題社員とは」を明確にする

2025年4月に開催された第1回では、問題社員の定義を明確化するための2つの文書、「職務記述書」と「雇用契約書」について、具体的なケースを取り上げながら、日本と米国で対処法にどのような違いがあるのか比較し探っていきました。
講師は、米国の事例に詳しいSGR法律事務所の小島 清顕弁護士、碓井 允揮弁護士、日本の事例に詳しい増井総合法律事務所の増井 邦繁弁護士のお三方です。

米国における「Job Description(職務記述書)」

まずは碓井弁護士が、米国における「Job Description(職務記述書、以下JD)」について解説しました。米国では、JDはほぼすべての企業が作成していると言えるほど一般的な文書なのだそう。そしてJDには「採用のミスマッチを防止できる」、「人事評価の透明化・明確化に資する」、「Exempt(残業代などの免除対象)か否かの判断基準にできる」といった重要な役割があると言います。

JDの主な記載内容
  • 職位・ポジションの概要
  • 業務及び責務の内容及び範囲
  • 必須もしくは望ましい能力、スキル、資格など
  • 身体的な負担(出張などの有無、頻度)
  • 残業代の支払い対象か否か
  • 給与水準など 

米国では能力不足などを理由とした解雇が認められやすい一方で、「人事評価が低いから解雇されたこと」や「その人事評価が正当であること」を、客観的なエビデンスに基づいて主張していく必要があります。

つまり、JDは人事評価の正当性を裏付ける重要な書類のひとつなのです。Exemptについても同様のことが言えます。

 

米国における「Employment Agreement(雇用契約書)」

続いて小島弁護士が、米国における「Employment Agreement(雇用契約書、以下EA)」について解説しました。EAは「雇用条件を記載する文書」という点で、「オファーレター」(採用通知や労働条件を示す文書)と一部重なる面がありますが、EAにはそれよりも遥かに具体的な内容の記載が求められると言います。

また、どのようなEAを交わしていても、働き手には「辞める自由」があるため、EAは主に会社側だけを拘束する契約になるという特徴も指摘されました。
つまり、EAは“EAを交わしてでも迎えたい”重要なキーパーソンを勧誘する際に活用すべきものであり、一般的にはオファーレターや、働き手側にも契約履行が求められる「Covenant Agreement(合意規約)」で対応するのが望ましいというわけです。

EAの主な規定内容
  • 従業員の権限範囲
  • レポートライン
  • 報酬額やその決め方
  • ボーナスの有無やその決め方
  • その他特別なベネフィット
  • 各種保険提供の有無
  • 達成目標(KPI)
  • 雇用期間
  • 雇用契約終了の条件
  • 雇用契約終了の判断が誰によってなされるか
  • 雇用契約終了のための通知方法
  • 雇用契約終了時の金銭補償の有無及びその金額
  • 従業員の死亡・障がいなどにより雇用契約が終了する旨
  • 紛争解決方法
  • 雇用契約終了後の義務 

このように、主な規定内容には働いている間だけでなく、雇用契約終了に関する内容が多々見られ、契約終了後に大きな影響を及ぼしかねない重要な人材を主な対象としていることが分かります。
小島弁護士は、米国のことわざ「Agree When Everyone Is Agreeable」を引きあいに、EAやJDで規定される内容は、辞めると決まってからでは合意形成が難しいものも多く「合意できることは早期に詳細に決めておく」ことが重要だと強調しました。

 

 

日本における「問題社員」とその対応方法

「問題社員」の位置づけと問題点

次に増井弁護士が、セミナーのテーマである「問題社員」をポイントに、日本での事情や対処法を解説しました。

まず、当セミナーでいう「問題社員」とは法律上の用語ではなく、企業に何らかの問題をもたらす従業員を総称していること。そして、会社経営において問題社員の発生はまず避けられないものであることが語られました。さらに、日本国内の労使間における紛争では、どのような論点であっても「従業員にどういう問題があったか」と「その問題に対して会社はどう対応してきたか」の双方が重視されるため、「従業員が引き起こす問題の深刻さ」のみに焦点を当てて争うことは難しい点などが伝えられました。


問題社員対応のための仕組み

先の内容を受けて「問題が起こってからの対応も大事ではあるものの、前もって対応のための仕組みをつくっておくことも非常に大事です」と語る増井弁護士。

人事制度、評価制度、退職に関する取り決めなど、問題社員の対応に備えた雇用ルールの構築、風評被害や紛争の規模拡大への備えなどが必要であると指摘しました。また、「紛争は0:100の勝負ではない。負けた場合に被る損失や負担の可能性まで考えてアクションを決めてほしい」と続けました。さらに「従業員が能力不足だった場合まで想定して雇用契約書を整えておけば、裁判所もその仕組みを考慮してくれるケースは多い」と言います。

こうした備え中心の対応に加えて、問題社員対応としての「ジョブ型雇用」導入には、「人材確保」や「働き方の多様性確保」など事業成長につながるメリットもあるとして、導入までの設計や法的対応なども解説されました。

 

 

受講者から寄せられたQ&A

ウェビナー開催に先駆けて集められた質問の中から、この日は3件が取り上げられました。


Q1 在宅勤務を悪用しサボる社員を生まないための方法は?

小島弁護士は、「職場が多様化すればするほど管理は難しくなると思います。米国は解雇にシビアなこともあり、生産性を測れるとなれば、ログイン記録だけでなくキーストロークの頻度、メールのトラフィック、スリープモードの回数などの記録を取る企業もあります」と回答。

増井弁護士も「『サボってはならない』というのは当然のことなので、制度としてはさほど必要ないと思いますが、測定はしないといけないですよね。測定ツールもいろいろあるので、それをどのように導入するかというIT面の話かなと」と続きました。


Q2 JDの期待値に達することが難しいと思われる場合、内容を調整するべきでしょうか

トレーニングや指導をしても期待値に届かない……と途方に暮れるこの質問に対して、碓井弁護士は「JDを後から実態に応じて変えるのは適切でないと思います。それよりありのままに評価して、その記録を残しておくこと」と言います。

小島弁護士は補足として、「米国ではJDを人によってむやみに変えたりすると、『あの人のJDは変えたのに、私はなぜ変えてもらえないのか』ということになり、訴訟につながりかねない。JDはいわゆるモノサシであり、『足りないからモノサシを変えよう』というのはよろしくない」と続けました。

増井弁護士はJDが一般的でない日本の事情に触れた上で、やはり「JDに柔軟性は持たせるべきでない」と回答。「JDをつくることは、まず目的があり、その『手段』を示すことだと思うので、求めるスキルなど、期待する点はしっかり記載しておく方がよい」とも述べました。


Q3 JDはどこまで詳細に書くべきでしょうか

司会のランスタッド 下瀬川が「もっと時間の必要なお話だと思いますが」と前置きしつつ、「まずは考え方について聞きたい」と問うと、増井弁護士は「後から『話が違う』となりがちなのはやはり『スキル』ですね。コミュニケーションやマネジメントなど、客観的な表現が難しいスキルもありますが、評価制度としてしっかりつくられているところは明記した方がいい」と応じました。

碓井弁護士は「『漏れがないように』という意味ではできるだけ具体的に書いた方がいい。(米国では)業務内容について10~15個箇条書きすることもあるくらい細かい」と言います。小島弁護士も「米国だとJDが2~3ページに及ぶこともあります。なんせ締めの一文が『その他会社から頼むことはなんでも』ですから、いろいろ記載されるべき」と続けました。

これに下瀬川も「JDでなんでも決めておくことは、仕事の線引きが明確になり過ぎてコラボレーションを阻みかねないという懸念も見られますが、『その他~なんでも』はそのよい解決法になりそうですね」と感想を寄せ、第1回は無事終了しました。

 

 

「問題社員」はこれからあなたの会社にも現れるかもしれない

「問題社員」は決してレアケースではなく、どんな企業でも起こり得る課題のひとつです。今回レポート紹介したのはウェビナーのほんの一部で、当日は他にもさまざまな話題が飛び交っていました。現在抱えている問題や、今後発生するかもしれない問題の対策をするための参考情報として、ぜひ実際にウェビナーをご視聴いただけると幸いです。人事分野の情報収集に関心の高い方のご参加をお待ちしています。



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