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月200時間?残業45時間?労働時間の上限はどう算出するか

作成者: randstad|Aug 30, 2024 12:00:00 AM

労働時間には定められた上限があり、残業含む月200時間の労働は適正な範囲内といえます。しかし繁忙期などが原因で上限を超え、労基の監督指導が入ることも。労働時間の上限を再確認しましょう。

労働時間の種類を知ろう

所定労働時間とは

「所定労働時間」とは、各企業の就業規則や雇用契約によって定められた労働時間のことを指します。働いている時間のことなので、休憩時間は含まれない一方で、残業時間は含まれます。

似た用語に「勤務時間」がありますが、こちらは各企業の就業規則や雇用契約によって定められた「業務開始から終了までの時間」のこと。

所定労働時間とは逆に、勤務時間には休憩時間を含み、残業時間は含まれません。


法定労働時間とは

「法定労働時間」とは、労働基準法によって定められた労働時間の上限のことを指します。

法定労働時間は原則として「1日8時間、週40時間」と定められていて、その範囲を超えて働かなければならない場合には、後述の「36協定」を結ぶ必要があります。


36協定(時間外労働協定)とは

「36協定」とは、労働者に法定労働時間を超えて労働させる場合に結ばれる労使協定のひとつで、「サブロク協定」と読むのが一般的です。

省庁などでも使用されている用語ではありますが、実は労働基準法の第36条に時間外労働・休日労働に関する協定が記されていることに由来する通称で、正式には「時間外労働協定」といいます。

 

月平均所定労働時間とは?

残業代や割増賃金算出に必要な月平均所定労働時間

所定労働時間では、月平均をとることが一般的です。

これは、残業代や割増賃金などの算出に月平均所定労働時間が必要とされることによります。
例えば割増賃金を算出する際には「1時間あたりの賃金額」が必要です。月給制の場合は、単純に考えると「月給÷月の労働時間」で算出することになります。
しかし、営業日数は毎月異なるものですから、この方法で計算してしまうと「1時間あたりの賃金額」も毎月変動してしまいます。そこで「月平均所定労働時間」を用い、変動しない「1時間あたりの賃金」を算出しているのです。

 

月平均所定労働時間の算出方法は?

月平均所定労働時間を算出する計算式は下記のようになります。

「月平均所定労働時間=(365日-年間休日)×1日の所定労働時間÷12ヵ月」

例えば,

年間休日が120日、1日の所定労働時間が8時間の従業員の場合
・月平均所定労働時間=(365日-120日)×8時間÷12ヵ月=163時間※

従業員の月給が45万円だとすると、1時間あたりの基礎賃金は
・45万円(月給)÷163(月平均所定労働時間)=2,760円※

となります。

※端数切り捨てにて計算

 

 

月の労働時間について人事担当者が注意すべきことは?

月別の法定労働時間も把握しておく

まずは「従業員が1ヵ月あたりどれくらい働くことができるのか」を把握しておく必要があります。

実際の「月あたりの法定労働時間」はその月の日数によりますが、概算すると「4(月の週数)×40(週の労働時間の上限)=160時間」ほどということになります。
ちなみに「1ヵ月の日数÷7(1週間の日数)×40(週の労働時間上限)」の計算式で、月ごとの日数に合わせた法定労働時間が算出できます。

 

残業を含めた合計労働時間の目安は月200時間程度

「36協定を締結すれば法定労働時間を超えて労働できる」といっても、いくらでも働けるわけではありません。

36協定締結で認められる残業時間は月45時間(年間360時間)までとなっています。月の法定労働時間が160時間程度と考えると、残業を含めた1ヵ月あたりの合計労働時間の目安は200時間程度までが適正だといっていいでしょう。

正確には「月別の法定労働時間+45時間」で月の日数に合わせて算出できます。

 

「毎月45時間残業できる」わけではない

36協定締結で認められる年間の残業時間は「360時間まで」となっています。「月45時間」というのはあくまで「残業時間の年間合計が360時間に達するまでの上限」であり、年間合計が360時間に達してしまうと残業自体が認められなくなります。つまり、月45時間残業できるのは最大でも年間8ヵ月ということになるのです。

 

労働基準監督署の監督指導結果に見る長時間労働の実態

厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和5年度の監督指導結果を公表します」より引用

 

2024年7月に厚生労働省が公表した「長時間労働が疑われる事業場に対する令和5年度の監督指導結果を公表します」によると、監督指導が実施された26,117事業場のうち、違法な時間外労働があったのは44.5%にあたる11,610事業場。

中でも製造業、接客娯楽業、運輸交通業では監督指導が実施された事業場の半数近く、もしくは半数以上に違法な時間外労働があったとされています。

違法な長時間労働の事例1「倉庫業」

取扱貨物量の増加による業務繁忙と人手不足のために最長1ヵ月あたり127時間の違法な時間外・休日労働が発生。労働基準監督署からは、36協定を超えて時間外労働を行わせたことなどへの是正勧告と共に、改善策の検討・実施の指導が行われました。
指導の結果、「責任者による労働時間管理の徹底」、取引先の理解を得た上での「一部業務の同社別事業場への移管」、「当日出荷依頼の締め時間の前倒し」、「倉庫内での荷物移動を効率化するシステムの導入」などが実施され、時間外・休日労働時間数は最長でも月45時間まで改善しています。


違法な長時間労働の事例2「製造業の営業職」

繁忙期に上司の不在が重なり業務が集中。最長1ヵ月あたり111時間の違法な時間外労働が原因で精神障害を発症する社員が出たという事例です。こちらも労働基準監督署からは、36協定を超えて時間外労働を行わせたこと、時間外労働の割増賃金を支払っていないことなどへの是正勧告と共に、改善策の検討・実施の指導が行われました。
社内調査の結果、管理者が部下の時間外労働の状況を把握していなかったことから、改善策として「時間外労働は所属長の確認を経て実施」、「所属長は特定の社員に負担が偏らないよう業務量を調整」という体制がとられ、時間外・休日労働時間数は最長でも月30時間まで改善しています。

 

改善策を支援する「働き方改革推進支援助成金」

時間外・休日労働時間を減らす改善策においては、設備投資などの費用がネックになりがちです。厚生労働省では、生産性を高めながら労働時間の縮減等に取り組む中小企業・小規模事業者などに対して「働き方改革推進支援助成金」を設けています。労働時間短縮・年休促進支援コース、勤務間インターバル導入コースなど4つのコースがあり、具体的な対策の例を見ながら自社に合ったコースで申請できるので、ぜひチェックしてみてください。

 

 

「うっかり労働時間超過」を防ぐ具体的な施策を

労働時間の計算は複雑なうえ、1人ひとり細かく行わなければならず、労使双方が意識しないうちに「うっかり法定労働時間を超えてしまった」ということも珍しくありません。

まずは人事担当者がルールを把握したうえで、リアルタイムで合計労働時間が把握できる勤怠管理システムの導入など、ミスを抑える施策を採っていきたいところです。