試用期間中の社員の能力不足などが気になる場合、解雇(本採用拒否)は可能なのでしょうか。試用期間の基本的な考え方や、解雇が認められる例などをご紹介します。
試用期間とは、従業員の本採用の前に試験的に一定期間働かせてその職業に対する能力を試す期間のことを言います。一般的には各会社の就業規則や募集要項などで見られる言葉であり、法的な規定があるわけではありません。
労働基準法にも「試みの使用期間」とされる期間が定められています。一見すると試用期間と同じ意味を示すように思えますが、これは「解雇予告が必要ないとされる雇入れから14日以内の期間」を指すもので、「能力を試す期間」である一般的な試用期間とは意味合いが異なります。
先に紹介した通り、「入社してから暦日で14日を経過すると解雇予告が必要になる」と労働基準法に定められています。つまり「試してみたけれど、やはり正式採用はしない」とこの段階で決められるわけではなく、「すでに採用しているが、解雇する」という形になるのです。
”試用期間中といっても、既に働いているわけですから、通常は、正式採用としないことは「不採用」ではなく「解雇」となり、合理的な理由が必要となります。この場合に要求される「合理的な理由」とは、試用期間中の勤務状態等により、採用前には知ることができなかった重大な事実が判明した場合に限られます。ただし、この理由は、何年も働いてきた人を解雇する際に求められるものほど厳しいものではありません。” |
ちなみに「厳しいものではありません」といっても、「うちの会社には合わない」といった雇用側の恣意的な判断による解雇は難しいとされています。解雇理由などによっては解雇される側の再就職に支障が出かねませんから、労働審判や訴訟問題などにつながる可能性も否定できません。
未経験者や新卒であることを了承した上で採用している場合、多少の能力不足があったとしても試用期間での解雇は難しいでしょう。むしろ、経験者であってもまずは会社の指導不足を問われるケースが多いと言えます。
労働契約書に記載されている業務レベルや成果を満たすことができない、会社が指導した実績が明らかであるにも関わらず改善が見られない、または会社に多額の損害が生じている、といった極端なケースでも、解雇は認められやすいだろうという程度にすぎません。
病気やケガの理由が業務と関わっている場合、労働基準法には療養のための休業期間と休業期間終了後30日間は、原則解雇することができないと定められています。
業務と関わりのない病気やケガでも、まずは休職を勧め、復職が可能かを判断するといった流れが一般的です。もし、医師が復職の見込みがあると判断した場合、会社は復職のためのサポートに努めるべきとされていますから、無下に解雇すると不当解雇と見なされかねません。
ただし、「面接時に健康状態を偽っていた」となれば話は変わってきます。この場合、試用期間中に労務提供が困難な健康状態であると判明すれば、解雇・本採用拒否が認められる可能性があります。
正当な理由がない遅刻・欠席を繰り返す場合、試用期間中での解雇事由として認められることがあります。ただしこれも「企業が指導をしているか」がポイントであり、指導したにも関わらず改善しないといった状況ではじめて解雇が認められる可能性が出てきます。
また、解雇できる遅刻・欠席の回数などが明示されているわけでもありません。ただし所轄労働監督署長の認定を受けた場合に、解雇予告手当の支払いを免責される「従業員の責に帰すべき事由」のひとつに「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」がありますので(厚生労働省「しっかりマスター 労働基準法 解雇編」を参照)、これが目安となるでしょう。
面接や履歴書において、虚偽の事実を発言・記載したりする「経歴詐称」。嘘をついたわけですから事の大きさに関わらず……と考えるかもしれませんが、実際は「その事実を知っていれば採用していなかった」と言えるような重要な部分に詐称があった場合に解雇が認められるとされます。これもケースバイケースですが、最終学歴、職歴、犯罪歴、また資格の有無が業務に支障をきたす場合などが考えられます。
解雇に至る前に指導や注意を行わず「従業員にとって改善の機会がない」状態での解雇は不当解雇と見なされやすくなります。また、解雇にあたって「従業員側の話を聞いたかどうか」もポイント。上司などの一方的な判断だけで解雇を決定するのはハイリスクです。他にも、新卒・未経験者を能力不足などで解雇しようとしていないか、経験者でも十分な事由があるかなど、さまざまなチェックポイントがあります。
✅業務に関わる病気やケガで療養中、もしくは回復後30日経っていない ✅業務に関わらない病気やケガで早期に回復が見込める、休職していない ✅能力不足が理由となっているが、新卒・未経験採用である ✅早退、欠勤、遅刻が多いことが理由となっているが、指導の実績がない ✅経歴詐称が理由となっているが、業務に支障がない軽微なものである ✅会社側との話し合いなど、対象従業員の話を聞く機会が設けられていない |
試用期間中も含め、従業員を解雇する場合、原則的には30日前に従業員に解雇の予告をするか、30日以上の賃金(解雇予告手当)を支払って即日に解雇するかどちらかの手続きが必要とされています。ただし、試用期間開始後14日以内に解雇する場合は、解雇予告や解雇予告手当は必要ありません。
試用期間中の解雇であっても、雇用保険制度の対象者であれば原則として離職票の発行が必要です。手続きが発生するつもりで用意をしておきましょう。
試用期間中の解雇や本採用拒否はよほどの事由がなければ難しく、その判断にも明確な基準が設けられているわけではありません。深刻な経歴詐称などやむを得ないケースはあるにせよ、企業側でも「試しに採用してみる」という意識を捨て、採用段階での見極めに注力するのが良策と言えます。
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