「マイナンバーカードと保険証の一体化」とは、マイナンバーカード(以下マイナカード)に健康保険証の機能を持たせ、医療機関や薬局などで利用できるようにすることを指します。具体的には、医療機関や薬局などの窓口に設けられた顔認証付きのカードリーダーにマイナカードをかざすことで、「本人確認」と「資格確認」が同時に行われます。
この「マイナンバー健康保険証(以下マイナ保険証)」制度自体は、2021年10月20日からすでに運用が開始されています。
マイナカードの取得は任意ですので、健康保険証の利用者にとってマイナ保険証も義務ではないことになります。一方、医療機関には2023年4月よりマイナ保険証への対応が義務付けられています。また2023年末には、2024年12月2日に従来のいわゆる「紙の保険証」を廃止し、マイナ保険証へ完全に移行することが閣議決定されました。
2024年2月現在は経過措置として、マイナ保険証と紙の保険証の両方が使え、利用者がどちらを使うか選べる状況にありますが、1年もしないうちに原則として「保険証として使えるのはマイナカードのみ」になるのです。一方で、つい先日も岸田総理大臣が「マイナカードの取得完全義務化は現段階では難しい」と発言しており、資格確認書などの代替策も引き続き検討されています。
マイナ保険証は、保険証やマイナカードの更新手続きをすることで手元のマイナカードに情報が反映されます。転職などをした場合も紙の保険証のように「保険証そのもの」を変える必要がなく、カードが破損したりしない限り継続して使うことができます。
また、マイナ保険証によって医療機関が必要とする健康情報がデータ化されるので、特定健診情報や診療・薬剤情報・医療費の確認がしやすくなります。マイナポータルと連携すれば利用者自身も情報を確認しやすくなるので、確定申告での医療費控除申請もより簡易になるはずです。
これに加えて、保険者証類(健康保険被保険者証/国民健康保険被保険者証/高齢受給者証等)、被保険者資格証明書、限度額適用認定証/限度額適用・標準負担減額認定証、特定疾病療養受療証といった証類が必要なケースでも、窓口へ書類を持参しなくてよいようになります。
紙の保険証は、企業の担当者が従業員の入社に際する保険資格取得手続きを終えていても、手渡しや郵送などで「保険証そのものが従業員に届くまでは利用できない」ことになっています。一方マイナ保険証は、担当者が手続きの完了を通知するだけで、よりスピーディに利用開始できます。
また、紙の保険証は従業員の退社時に企業の担当者が回収しなければならず、紛失した場合にも再発行の手続きが必要ですが、マイナ保険証ではこの対応も不要になります。また、高額療養費の申請が不要になるなど、利用者にも企業にも多くのメリットがあります。
マイナ保険証の利用者のデメリットとしては、まず「マイナ保険証に対応していない医療機関が依然多い」ことが挙げられます。また、マイナンバーカードを紛失した場合の再発行の手続きは基本的に本人が行わなければならず、紙の保険証以上に時間がかかります。
企業側や人事・労務担当者のデメリットとしては、「マイナ保険証を利用する従業員と、資格確認書などを利用する従業員が混在し、保険証の種類がバラバラになる可能性」が挙げられます。この場合、資格確認書への対応などで、担当者の業務がより複雑になりかねません。
メリット | デメリット | |
利用者 | ・カードが破損したりしない限り継続して使うことができる ・マイナポータルから診療・薬剤情報・医療費の確認ができるため、医療費控除申請の手続きが容易になる ・保険者証類などの書類を窓口に持参しなくてよい |
・マイナ保険証に対応していない医療機関が多い ・カード紛失時は利用者本人が再発行手続きをする |
企業 | ・担当者が手続きの完了を通知するだけで保険証として利用できる ・退職時の保険証の回収が不要 ・カード紛失時の再発行の手続きが不要 ・高額療養費の申請が不要 |
・従業員の保険証の種類がバラバラになり、業務が煩雑化する |
先にも挙げたとおり、マイナカードの取得は義務ではありませんから、強制的に取得させることはできません。とはいえ、従業員の保険証がバラバラだと人事・労務担当者の業務を圧迫しかねないのも事実です。ここは担当者が従業員に業務改善への理解を求め、「従業員のマイナカード取得」を推進していくのがよいでしょう。
従業員にマイナカードの取得を迫るばかりで、疑問の解消や手続きは従業員任せとなっていては理解も進みません。まずマイナカードを健康保険証として利用するためには、会社から発行されるのを待つだけでなく「自分自身での手続き」が必要なことを伝えましょう。また、扶養家族がいる場合、被扶養者分も併せて手続きをした方がよいことも知らせたいところです。
なお、マイナ保険証の利用申し込みをしても、保険者情報の紐付けが完了していなければマイナ保険証が使えません。この場合「健康保険証を置き忘れるなどして、持参できなかった」ケースと同じように「ひとまず全額を支払い、後日、保険資格を確認できた際に差額を返還してもらう」流れになります。マイナ保険証の申し込み手順と、マイナ保険証が利用できなかった場合の対応についても知らせておきましょう。
従業員から「高額療養費利用を申請したい」という申し出があった際には、まず「本人はマイナ保険証の利用登録を済ませているか」、「利用する医療機関はマイナ保険証に対応しているか」を確認しなければなりません。本人と医療機関、双方がマイナ保険証を利用できる状況であれば、限度額適用認定証の手続きは不要になります。一方、片方でもマイナ保険証を利用できない状況であれば、従来通りの手続きが必要になります。
先ほど、情報の紐付けが完了しておらずマイナ保険証が使えないケースを紹介しましたが、そもそも社会保険の資格取得手続きが遅れていると、マイナ保険証の利用開始も遅れることがあります。マイナ保険証はスピード感がメリットのひとつでもあるので、資格取得手続きを速やかに進められるよう、体制を整えておきましょう。
□従業員のマイナカード取得推進はできているか
□マイナ保険証利用について、従業員に説明できるか
・メリット・デメリット
・手続きについて(自身で手続き、被扶養者分も併せて)
・一時的に利用できない場合の流れ
□高額療養費利用に際しての確認事項
・従業員本人のマイナ保険証の利用登録が済んでいるか
・利用する医療機関がマイナ保険証に対応しているか
□速やかな手続き体制を確立できているか
マイナカード、マイナ保険証は、ITリテラシーに不安がある層の「よくわからない」という忌避感や、完全移行に際する混乱の可能性が取りざたされがちで、メリットなどがよく吟味されないまま遠ざけられている傾向もあります。不安を取り除いていけるよう、人事・労務担当者は移行のメリットやスムーズな手続き方法などをしっかり伝え、従業員の保険証をできるだけ統一できるようにしたいところです。
ランスタッドでは、人事に関する最新トレンドをタイムリーにお届けする様々なお役立ち資料をご提供しています。ぜひ業務にお役立てください。