人事・HR分野で耳にすることが多くなった「タレントマネジメント」。マネジメントという言葉が使われていることから管理に関わる内容だろうとは分かっても、詳細についてはピンときていない人もいるかもしれません。まず、「タレント」の意味合いから、タレントマネジメントについて見ていきましょう。
タレントマネジメントにおける「タレント」の解釈には諸説が見られます。組織のパフォーマンス向上に大きな影響を与える能力を持つ人材、つまり「組織のリーダー候補」とする考え方や、「従業員の持つ素質・才能」、「従業員の持つスキルや能力」とする考え方が主流ですが、「従業員そのもの」と見る向きもあります。
「タレントマネジメント」は、人材を企業の競争力の源泉と見なし、人材が持つ技術や知識を経営資源として捉える考え方に基づいています。この経営資源を活かして競争力を高めるために、採用から配置、育成、キャリア形成といった一連のプロセスを戦略的に管理・支援する手法がタレントマネジメントなのです。
上司が部下を定性的に評価する従来の人事評価に対して、タレントマネジメントでは能力やスキル、キャリアビジョンなどのデータを一元管理し、そのデータに基づいたスコアリングで評価します。主観の入らない明確な人事評価は、配属などによる評価への不公平感を軽減し、エンゲージメント向上につながります。
先にも説明した通り、タレントマネジメントでは従業員の能力やスキル、キャリアビジョン、加えて経験や職歴、保持資格などもデータとして一元管理し、可視化することが前提になっています。これにより、各部署が求める能力やスキルを持つ人材をデータから割り出し、効率的に配置できます。適材適所を徹底することで、人材と業務のミスマッチを防げるだけでなく、従業員一人ひとりのパフォーマンスも最大化されます。
従業員の能力やスキルをスコアリングすることにより、一人ひとりの長所・短所も可視化されます。これによって強み・長所を最大限に活かしながら、弱み・短所を補うような育成が行えます。横並びで一律に育成し、その上でなお突出してくる要素を強み・長所とする従来の育成よりも、効率的かつ効果的に人材を育てられるのです。
効率的で成長しやすい環境の整備、強み・長所を活かした適材適所の人事などにより、従業員と企業の信頼関係が深まり、「ここで働くことには将来性がある」という判断や、企業に対するエンゲージメント向上につながります。環境を変える、キャリアアップなどを理由とした離職を防ぎ、定着率の回復も期待できます。
従業員の強み・長所を活かすといっても、「活かしどころ」が把握できていなければお題目で終わってしまいます。まずは自社の経営状況や市場での立ち位置などを客観的に分析し、企業理念と経営ビジョンを実現するにあたって壁となる経営課題を抽出してみましょう。
その上で、課題を解決するために必要な人材像を具体化し、教育・研修プログラムや人事評価制度といった育成計画の指針を定めていきます。
また、タレントは従業員の業務経験や研修受講、資格取得などで日々変化していきます。データを常にアップデートできる環境作りも進めておきましょう。
目的が見えてきたところで、タレントマネジメントシステムなどを利用して、従業員の数や所属する部署、それぞれの経歴や資格、保有するスキルなどを可視化し、定量的に分析・評価していきましょう。
「どんな人材が何人必要なのか」、「足りない部分は育成と採用のどちらで補填するか」など、人事施策やKPIなどを詳細に決め、それを満たすための研修制度や教育プログラム、採用計画を体系化していきます。
不足する人材を補うため、今いる人材に研修や教育でスキルをつけてもらったり、新たな人材を採用したりして開発を進めていきましょう。ただし、人材開発はあくまで「仕込み」。並行して従業員をタレントに応じた適材適所へ配置し、人材活用も進めていくことを意識しましょう。
先に説明した通り、職場に介護に関する制度があったとしても「介護を行っている、もしくは必要に迫られている従業員がその事情を申し出ることをためらう」ケースは少なくありません。
そこでまずは、制度を利用することを「周囲への負担になる」と考えたり、「キャリア形成に差し支える」と考えたりしがちな当事者の意識を変えていく必要があります。積極的に介護制度に関する情報提供を行い、研修や相談窓口を設定したり、介護について話しやすい社内風土を醸成したりできるように努めたいところです。
タレントマネジメントは「運用」するもの。ゴールにたどり着けばOKというわけにはいきません。従業員が想定していた通りの能力を発揮できているか、強みを活かし能力を向上できているか、モチベーションの増減はどうかなどを随時チェックしていきましょう。ここでも、タレントマネジメントシステムが役立つでしょう。
現状と理想との間にギャップがあれば要因を分析し、課題を抽出した上で目標を軌道修正するなど、必要に応じてブラッシュアップを重ねます。
企画 | |
□ | 自社の経営状況や市場での立ち位置などを客観的に分析 |
□ | 企業理念や経営ビジョン実現の壁となる経営課題を抽出 |
□ | 課題を解決するために必要な人材像を具体化 |
□ | 教育・研修プログラムや人事評価制度といった育成計画の指針を定める |
準備 | |
□ | タレントデータを常にアップデートできる環境作り |
□ | 従業員のタレントを可視化し、定量的に分析・評価 |
□ | 人事施策やKPIなどを詳細に決め、研修制度や教育プログラム、採用計画を体系化 |
運用 | |
□ | 人材開発・人材活用を進行する |
□ | 施策の結果を分析し、課題があれば要因から課題を抽出、改善を重ねる |
人材データベースなどタレントマネジメントの運用をサポートする機能を持った「タレントマネジメントシステム」。さまざまなベンダーから多様な特徴を持ったシステムがリリースされていて、得意とする機能もそれぞれ異なります。とりあえず導入するのではなく、まず自社の人材戦略の中でタレントマネジメントシステムがどういう役割を果たすのかを確認し、目標を達成するためのプロセスを明確にした上で、マッチする仕様や機能を持ったツールを選定しましょう。
人事担当者の理想を叶えてくれるタレントマネジメントツールだったとしても、従業員やその働き方に合った使い方ができなければ、運用への協力を得られなかったり、トラブルを起こしたりといったことも考えられます。自社の規模とシステムの想定するユーザー規模が合っているか、既存システムとの互換性はあるか、互換性がない場合は完全移行しても問題ないか、外部システムとの連携性は確保されているか、使いづらかったりサポートが不十分だったりして敬遠される懸念はないかなど、周囲の声も適宜聞きながら検討していきましょう。
導入までのポイント | |
□ | 人材戦略の中でタレントマネジメントシステムの役割を確認 |
□ | 目標を達成するためのプロセスを明確化 |
□ | 目標やプロセスにマッチする仕様や機能を持ったツールを選定 |
選定のポイント | |
□ | 自社の規模とシステムの想定するユーザー規模が合っているか |
□ | 周囲への導入に関するヒアリングはできているか |
□ | 既存システムとの互換性はあるか、互換性がない場合は完全移行しても問題ないか |
□ | 外部システムとの連携性は確保されているか |
□ | 使いづらかったりサポートが不十分だったりして敬遠される懸念はないか |
A社では、2016年ごろからタレントマネジメントへの取り組みを開始。まず戦略上カギとなるポジションを明確化し、国内外に委員会を設置して候補者プールを構築しました。カギとなるポジションについては、求められる成果や必要要件を職務記述書の形式で明確化し、全基幹職に公開。丁寧な説明に加え、タレントマネジメントの成果もアピールし、重要性を社員へと知らしめたのがポイントとなっています。
B社では、タレントマネジメントに置いてグループ全体の一体感や想いの共有、グループ内での長期的人材育成・活用を重視する方針を策定しました。社内のキャリア情報を積極開示し、従業員のキャリア自律を促進するのに加え、本人・上司・人事が三位一体となって長期的視点で個を育成する風土を醸成しています。タレントマネジメント=リーダー候補優遇となりがちな中、「全社員型」を掲げる独自性がポイントとなっています。
人事システムの拡張機能や関連ツールとしてタレントマネジメント機能が提供されることもあるなど、人事と関わりの深いタレントマネジメント。現在使用しているツールに、システム更改を機にタレントマネジメントが取り入れられるといった可能性も大いにあります。人事担当者としてはむしろ先んじて勉強しておき、積極的にタレントマネジメント導入をリードするといったことも意識しておきたいところです。