コロナ禍を期に、急速に定着したリモートワーク。当時は「必要に迫られて」という状況だったこともあり、感染症対策が落ち着くにつれて「対面で業務を行うことの重要性」も改めて見直されるようになってきました。そんな中で登場してきた、リモートワークとオフィスワークを組み合わせた働き方「ハイブリッドワーク」は、両方の特性を取り入れられる働き方として注目を集めています。
2023年秋現在、引き続きリモートワーク中心で業務を行う企業もあれば、オフィスワークのみの働き方へ、いわば「戻した」企業も珍しくありません。なぜ、ハイブリッドワークで両方の特性を取り入れる必要があるのでしょうか。
それには、リモートワークにもオフィスワークにもそれぞれメリットやデメリットがあり、「全員が揃ってどちらかの働き方をするのでは、その働き方のデメリットを補いきれない」ということがあります。また、従業員側から「どちらかに偏らない多様な働き方」を望む声が上がることもあり、両方を取り入れることでより従業員の満足度が高まるという面もあります。
リモートワークとオフィスワーク両方の環境があることで、従業員は業務内容や、それぞれの立場・置かれている状況などに応じて効率のよい働き方を選択できるようになります。例えば、「企画など1人で集中したいときはリモートワーク」、「顔を合わせてカジュアルに意見を募りたいときはオフィスワーク」といった風に働き方を最適化でき、より生産性を向上させることができます。
完全に自由ではないケースもあるにせよ、ハイブリッドワークでは従業員がある程度自分の意思で働く場所を選ぶようになるため、主体性が生まれます。その主体性が仕事の面白さとなり、やる気や意欲の向上に結び付きます。また、育児や介護など、働き方が固定されることで生まれる負担を軽減できるため満足度の向上につながり、ひいては離職率低下も期待できます。
「リモートワーク可能な職場」は就職・転職の人気条件として定着しつつあります。ただ「フルリモート」に限定しているわけではないため、ハイブリッドワークも視野に入っていることが窺えます。ハイブリッドワークが可能な職場を「多様な働き方に対応できる働きやすい環境」と見なす応募者は多く、採用において自社の強みになるはずです。
リモートワークの勤怠管理はPCログ、オフィスワークの勤怠管理はICタイムカードというように、働き方ごとに勤怠管理の方法が分かれてしまうとシステムの複雑化につながります。両者共通の勤怠管理ツールの導入などが必要になるでしょう。
また、従来の人事評価制度のまま運用を開始すると「オフィスワークの多い従業員が優遇され、リモートワークの従業員には妥当な評価が行われない」といった問題が起きる可能性も。ハイブリッドワークに応じた人事評価制度を検討しておかねばなりません。
管理職がオフィスワーク中心で勤務しているケースなどでは、オフィスワークの多い従業員にコミュニケーションが偏り、リモートワークの多い従業員と距離ができるなどの懸念が考えられます。逆に、管理職がリモートワーク中心であるため、オンラインでのコミュニケーションツールを使いこなせない従業員が置いてきぼりになるといったケースも。利用ツールの統一や、使いこなすための研修など、コミュニケーションを平準化するための環境づくりも必要です。
エンゲージメント維持の難しさはリモートワークの課題として語られがちですが、ハイブリッドワークの場合はリモートワーク中心の従業員とオフィスワーク中心の従業員が二分化する懸念があります。リモートワーク中心の従業員はオフィスワーク中心の社員たちからの疎外感を覚え、余計に職場に対しての帰属意識が薄れていく可能性も考えられます。定期的に出社日を設けるなどして社内でのコミュニケーションの機会を設けるとよいでしょう。
従業員の働き方が多様化すると、フリーWi-Fiの使用がきっかけでサイバー攻撃の被害にあったり、外部で書類やデータを紛失したりするなど情報漏洩に関するリスクが高まります。ルール策定やセキュリティ教育などで対策を講じておきたいところです。
オフィスワーク | リモートワーク | ハイブリッドワーク | |
メリット | ・コミュニケーションが取りやすい ・勤怠管理がしやすい |
・通勤など従業員の負担が軽減できる ・満足度が高まりやすい |
・両方選べるので最適化できる ・自分で選べることで主体性が育ち、満足度はより高まりやすい |
デメリット | ・通勤など従業員の負担が大きい ・多様な働き方への対応が遅れていると見なされやすい |
・エンゲージメントを維持するのが難しい ・セキュリティ対策が問われる |
・勤怠管理・人事評価が複雑化しやすい ・コミュニケーションのギャップが生まれやすい |
総評 | 管理者の負担は軽減できるが、従業員の負担が大きい傾向にあるので、満足度低下などに懸念がある | デメリットは環境整備などである程度フォローできるが、オフィスワークに及ばない面も | デメリットは環境整備や働き方を選ぶことでフォロー可能。片方固定でなく「選べる」メリットは絶大 |
オフィスワーク・リモートワーク・ハイブリッドワークのメリット&デメリットを一通り見てきたところで、ハイブリッドワークの課題解決法や推進するためのポイントについて、改めて整理してみましょう。
「コロナ禍にリモートワークの環境は整えたから、いつでもハイブリッドワークへ移行できる」というように、無意識に「オフィスは従来通りで構わない」と考えてはいないでしょうか。しかし実際は、オフィスもハイブリッドワークに合わせて見直さなければ、なかなか効果を最大化できません。レイアウトの見直しやフリーアドレス化など、働き方の変化に応じて整備していきましょう。また、コミュニケーションツール、プロジェクト管理ツール、グループウェア、勤怠管理ツールなども「リモートワークでもオフィスワークでも無理なく使えるか」といった視点で見直す必要があります。
見切り発車でハイブリッドワーク導入を進めてしまうと、働き方による不公平やコミュニケーションの齟齬が懸念されます。導入に先んじて「会社の方針」を明示することが重要です。全体的な方針だけではなく、対象者・勤務場所・時間・出社頻度・コミュニケーションの取り方などについても細かい条件を設定しておきましょう。また多様な働き方への対策は、緊急事態時の働き方を想定しておく「事業継続計画(BCP)」にも役立ちます。併せて考えておくとよいでしょう。
コロナ禍の急なリモートワーク導入で暫定的にとったセキュリティ対策が、そのまま残ってしまってはいないでしょうか。ハイブリッドワーク導入を機に、社外持ち出し用のデバイスやネットワークのセキュリティ対策を見直しておきましょう。また、従業員もコロナ禍の時期より行動範囲が広がっているはずですから、改めて社内研修を実施し、従業員のセキュリティリテラシー向上を図っておきたいところです。
A社では、リモートワークの状況に関する社内アンケートを実施。調査結果を踏まえて、「リモートワークのメリットを活かしつつ、逆にデメリットを解消する手段として出社勤務をうまく組み合わせる」働き方を検討し、「ハイブリッド勤務」を導入しました。「出社とリモートワークをうまく使い分ける」方針が徹底しているので、詳細なルールは事業場ごとに必要に応じて策定されています。
B社では、既存のリモートワーク制度を大幅に柔軟化。『1日の中で柔軟に中抜け休憩を取得できる』制度や、「午前は家で働き午後は出社して働く」といった『1日の中でのハイブリッド勤務』、「オフィスに出社するときは子どものお迎えに合わせた時間で退社し、通勤時間を省けるリモートワークではより長時間働く」といった『条件別の時短設定』など、選択肢を広げることで、それぞれにとってより効率的な働き方を実現させています。
ウィズコロナ時代の到来と共に「出社回帰」、「オフィス回帰」が話題にのぼりがちな昨今。しかし、オフィスワークのみ、リモートワークのみの体制にはそれぞれ弱点もありますし、そもそも「働き方を選べない」こと自体をネガティブに捉える流れも加速しています。ここはぜひ「いいとこ取り」のハイブリッドワーク環境を確立して、盤石の体制を築きたいところです。