勤務先としての企業の魅力度調査、ランスタッド エンプロイヤーブランド リサーチ。今年の調査結果では、飲食(食品・飲料・飲食)業界が認知度・魅力度ともに圧倒的なハイスコアという結果を示しました。それに対して、認知度が圧倒的に低かったのが人材サービス業界。金融・保険業界は、認知度は第2位にもかかわらず魅力度は最低スコアという結果でした。
認知度が高い業界は、生活に密接に関わる商品・サービスを扱う企業が属する業界が多く見られます。一方で、消費財として目に見えない人材サービスや天然資源・素材業界は、認知度が低い傾向に。では魅力度は業界の特性とどのように関係しているのでしょうか。それぞれの業界の特徴を解説します。
ランスタッド エンプロイヤーブランド リサーチでは、世界の企業を16の業界に、日本の企業を11の業界に分類して調査を行っています。まずは各業界の認知度・魅力度の順位を、魅力度上位の企業から順にご紹介します。
飲食(食品・飲料・飲食)業界は、認知度・魅力度ともに他の業界を引き離すスコアで圧倒的な1位。魅力度2位の電機・精密機器業界は認知度も4位と高く、広く認知されています。魅力度は3位という好結果のヘルスケア・ホームケア・化学業界ですが、認知度では9位という結果でした。
魅力度4位の機械・輸送機器(自動車など)業界は認知度も5位と、ともに上位にランクインしています。IT・通信サービス業界は5位と一定の魅力度が認められているようですが、認知度としては8位。商社・卸売・小売業界は、魅力度・認知度ともに6位のスコアでした。魅力度7位の天然資源・素材業界ですが、認知度は10位とワースト2の低さです。
魅力度で8位となった交通機関業界は、認知度7位とともにやや低め。魅力度では9位だった建設・不動産・住宅業界は、認知度では3位と上位に入っています。人材サービス業界は魅力度で10位、認知度は11位。金融・保険業界は魅力度で最下位の結果ですが、認知度では2位と広く知られていることがわかります。
次にそれぞれの業界ごとの特徴を見ていきましょう。魅力度や認知度に影響を与えている業界特性が何かあるのでしょうか。また、高い魅力度・低い魅力度の背景には何があるのでしょうか。
魅力度調査の項目では、次の 5つで1位を獲得しています。
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生きていくために欠かせない「食」を扱う食品・飲料メーカーが多く属するこの業界。日々の生活の中に溶け込んでいる商品であることから、高い認知度があるのも頷けます。食品・飲料は景気の影響を受けにくく、安定しているとして人気の業界でもあります。大手企業が多く福利厚生などの制度が整っていることもあり、ライフステージに合わせて長く働ける環境が整っていることから、従業員エンゲージメントが高い企業が多いと予想されます。
しかしそれだけでなく、興味深いのは「環境や社会に配慮している(CSR)」「社会的評価が高い」という項目での評価。社会に役立つ企業・業界というイメージが醸成されているようです。
工場を持つ業界の特徴として、魅力度調査の項目のうち「利便性の良さ(リモートワークを含む)」は低い評価になる傾向があります。電機・精密機器業界も例外ではありませんが、それ以外のどの項目でも上位スコアを出しています。
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世界的に展開する企業や、グローバルニッチトップ企業が多く属するこの業界。さらに近年の需要の高まりで、半導体関連企業の成長は著しいものがあります。生活を支える製品や先進機器を開発している企業・成長産業に携わる企業が多いことから、まんべんなく高い評価が得られていると予想されます。
人の生活や健康を支え、仕事が「人の役に立っている」という実感につながりやすそうな印象のある業界。魅力度調査では1位・2位にランクインしている項目が多数ありました。
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志を持って働く人が多く、満足度の高い働き方を実現できような印象を受ける調査結果となっています。
今回の調査で前年より大きく魅力度のポイントを上げたのが、この業界です。「長期にわたる安定した雇用機会がある」で1位。「環境や社会に配慮している」「給与水準が高く、福利厚生が充実している」で2位。
「利便性の良さ(リモートワークを含む)」が低評価となり全体の足を引っ張っていますが、それ以外の項目の評価は総じて高スコア。人気の業界であることがうかがえます。
2020年の調査では全業種の平均値を下回っていたIT・通信サービス業界。しかし2021・2022年は平均を大きく上回っています。これは新型コロナの感染拡大の影響があったと考えられます。
ただし2023年に全業種の平均値が大きく上昇したのに対し、IT・通信サービス業界の伸び率はわずか。「キャリアアップの機会がある」「ワークライフバランスが実現しやすい」の2つが3位にランクインしているに対し、「環境や社会に配慮している(CSR)」「社会的評価が高い」が9位、「長期にわたる安定した雇用機会がある」10位と、社会貢献や安定雇用に対する評価は得られていません。
各項目でも全体ランキングでも、およそ全業種の平均値の周辺のポジション。「利便性の良さ(リモートワークを含む)」「キャリアアップの機会がある」「給与水準が高く、福利厚生が充実している」の項目はスコアが高い一方で、「ワークライフバランスが実現しやすい」「長期にわたる安定した雇用機会がある」のスコアは振いません。
厚生労働省の「令和4年 雇用動向調査の概要」によると、卸売・小売は離職者が最も多い業界です。長く安心して働ける環境を整えることで、全体スコアの上昇が期待できそうです。
「長期にわたる安定した雇用機会がある」の項目では高いスコアを得ているものの、「キャリアアップの機会がある」「利便性の良さ(リモートワークを含む)」で低評価。
「環境や社会に配慮している(CSR)」「社会的評価が高い」「興味深い業務内容を提供している」も8位と振るいません。仕事で得られるやりがいや企業の社会的な貢献度が、魅力度に大きく影響しているようです。
「キャリアアップの機会がある」「ワークライフバランスが実現しやすい」「給与水準が高く、福利厚生が充実している」が最下位の11位、「環境や社会に配慮している(CSR)」「職場環境が快適である」「興味深い業務内容を提供している」「財務体質が健全である」の4項目で10位。
この低評価の背景には、拘束時間が長い労働環境と、スキルを身につけてステップアップしづらい業務内容があるのではないかと予想されます。
認知度では上位に入るも、魅力度では下位グループに入っている業界。厚生労働省の「令和4年 雇用動向調査の概要」を見ると建設業の入職超過率はマイナスとなっていて、魅力度の低さを裏付けています。
特に「ワークライフバランスが実現しやすい」「職場環境が快適である」「興味深い業務内容を提供している」の項目が低いスコアとなっています。従業員が働きやすい環境の整備とモチベーションを高める施策を検討する必要がありそうです。
下位に位置している人材サービス業界ですが、「ワークライフバランスが実現しやすい」「利便性の良さ(リモートワークを含む)」の2項目で1位評価、「キャリアアップの機会がある」は2位、「職場環境が快適である」は3位。柔軟で働きやすい労働環境が整っているように見受けられます。
一方で、「社会的評価が高い」「財務体質が健全である」「長期にわたる安定した雇用機会がある」の3項目では最下位。景気の影響を大きく受ける業務内容が、低評価要因の一つになっていると推察されます。しかし他業界に比べて圧倒的に認知度が低いことから、業務内容が一般的に広く理解されていない可能性も否めません。業界全体として、認知度向上に向けた働きかけをする必要があるのかもしれません。
魅力度調査の10項目のうち9項目がワースト3圏内のスコアで、「環境や社会に配慮している(CSR)」「職場環境が快適である」「興味深い業務内容を提供している」の3項目が最下位。厳しい労働環境の中で生き残る難しさがあるイメージが、一般の人の中にありそうです。
非効率なシステムや紙での書類のやり取りなどが多く存在し、DXが遅れていると言われている金融・保険業界。それゆえに、優秀な若手人材が集まりづらく定着しにくい傾向にあるようです。そういった業界の文化も、低評価の背景にあると推察されます。
キャリアアップの機会、柔軟な働き方、長期的な安定など、働き手が会社に望むことや優先度は人により様々。業界ごとに特徴と魅力度の項目を見ていくと、その業界で働く人が求めるものや働き方が透けて見えてくる部分もあります。
本調査では、企業の売り上げ割合により属する業界を振り分けています。そのため、例えば鉄道事業の売り上げが大きいJR西日本は「交通機関」、駅ビルの収益など不動産売り上げが大きいJR東日本とJR東海 は「建設・不動産・住宅」にカテゴライズされています。
調査対象企業には個別レポートをご用意していますので、ぜひお問い合わせください。実際に自社がどの業界でどのように評価されているのか、業界内でどのポジションにいるのかをご確認いただけます。
次回の記事では、エンプロイヤーブランドの上位にランクインする企業、下位にランクインする企業の特徴にフォーカスします。従業員エンゲージメントや採用活動に大きく影響する「働く場所としての魅力度」をどのようにして向上させるのか、ヒントになれば幸いです。