「HR(Human Resource)」は人を経営資源と見なす言葉で、「人的資源」などと訳されます。これは「事業を成長させるには、優秀な人材や事業・会社にマッチする人材が欠かせず、企業経営において『人』は重要な資源である」という考え方に基づいています。そこから転じて、人的資源の活用に関連する事業領域や、企業内の役職名として「HR」が使われることも増えています。
業務内容が似ていることからよく比べられる「人事」と「HR」ですが、取り組み方や目的には明確な違いがあります。
人事は、採用や評価などを通じて人を「管理」することを主な目的としています。商品・サービスや売り上げに直接関わらないことから、非生産部門、間接部門などと呼ばれることもある部門のひとつです。
一方、HRは戦略的に人的資源を活用することで、事業により貢献させることを目指す「事業のサポート」を主目的としています。位置づけとしては非生産部門、間接部門ですが、目的を踏まえるとそう言い切れないところもあるのです。こうした方針への転換を表明するため、人事部門的な組織にあえて「HR」を冠するケースも見られます。
HRの具体的な業務内容には、採用、評価・人事、人事戦略・制度立案、労務管理・福利厚生、能力開発(育成・研修)、組織開発などがあります。
人事とおおむね同じように思えますが、HRの場合「優秀な人・事業部が欲しがっている人を採用する」、「定着力が高まる人事評価を行う」など、それぞれの業務を独立して遂行するのではなく、「採用~入社~定着~活躍」といった流れを意識して各業務を横断的に捉え、また中長期的な目標を持って業務にあたる必要があります。
特に、能力開発(育成・研修)、組織開発などは従来の人事以上に広い視点を持って取り組むことが多いようです。
タレントマネジメントとは、HRの広まりと共に注目されている人材マネジメントの仕組みです。前提として、従業員とその能力やスキルを「タレント(才能のある人、才能そのもの)」と呼び、重要な経営資源として捉えます。このタレントを適切に把握・管理し、採用や配置、育成に活用することで、従業員と組織のパフォーマンスを上げ、事業への貢献を目指すのが「タレントマネジメント」というわけです。
「HRテック(HR Tech)」とは、「HR」と「Technology」からなる造語で、HR領域におけるあらゆる課題をテクノロジーの力で解決するという手法そのものや、課題解決のために提供されるサービスのことをいいます。
人事部門の業務にテクノロジーを取り入れる手法やサービス、いわゆる「人事ソリューション(人事システム)」は以前から見られましたが、HRテック独自の特徴としては「クラウド」、「人工知能(AI)」、「ビッグデータ解析」などの先端テクノロジーを活用する点、また、管理機能だけでなく人材戦略に関わる機能に重きを置いている点が挙げられます。
ある市場分析資料 によると、2021年度のHR Techクラウド市場規模は国内で584.7億円、前年度より30%以上成長したといいます。2022年度もやはり30%超の成長となる785.6億円が見込まれており、これを受けて2023年度は1000億円以上にまで市場規模が拡大すると予想されています。この背景には、労働生産年齢人口の減少による人手不足対策や、定額課金制のSaaSなどによるシステム導入コストの低さ、DX推進への機運の高まりなどがあると見られます。
人事は「人と関わる」部門ということもあり、業務判断などにはこれまで長らく経験や勘が重視されてきました。この傾向にも、HRテックの台頭と共に「データドリブン人事」を取り入れる新しい流れが生まれています。
データドリブンとは、収集したデータを分析し、それに基づいて判断や意思決定を行う手法のことです。売り上げデータやマーケティングデータなどに基づくアクションが連想されがちではありますが、「データドリブン人事」と言われるように、HR領域でも人事データベースの構築とデータに基づく判断が求められているのです。
ここでの人事データベースには、氏名や所属などの基本情報、勤怠情報、人事評価といった「管理」目的の情報だけではなく、職歴、資格、スキル、そして本人の意思に基づくキャリアビジョンなど「タレントマネジメント」に資する情報が欠かせません。
今後、HRの考え方やHRテックが広まるにつれて、人事に対しても管理業務にとどまらない、HR的な視点やデータ分析スキルなどが求められると予想されます。