この数年、さまざまな「○○ハラ」という言葉が頻繁に話題になっています。名前を付けて騒いでいるだけで、流行語のようなものだろうと思っていると、思わぬところで足をすくわれるかもしれません。まずは、職場における主なハラスメントの種類から再確認していきましょう。
「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」の定義によると、職場におけるパワハラとは「職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、相手に精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為」のことを指します。
上司から部下に対して理不尽ないじめなどが行われるケースが多いイメージではありますが、入社歴や業務上の関係などで優越的立場があれば、同僚同士や、部下から上司へといった関係性でも起こり得ます。
パワハラにあたる言動の一例
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先ほどと同じく「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」の定義によると、職場におけるセクハラとは、「『相手方の意に反する性的な言動』で労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけるとともに、労働者が労働条件に不利益を受けたり、労働者の就業環境を悪化させたりする」ことを指します。
男性が自分の欲求を満たすため、女性に対して性的な言動を行うイメージを持ちがちですが、女性から男性、および同性から同性であってもセクハラは成立します。
また、性的欲求によらない男らしさ・女らしさといった価値観の押しつけや、性的マイノリティ(LGBTQ)差別などもセクハラの一種です。
セクハラにあたる言動の一例
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パワハラ・セクハラの定義について参照した「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」は、職場におけるパワハラ(セクハラ)被害を防ぐため施行された法律の総称です。2022年4月以降は大企業から中小企業まですべての企業にパワハラ防止対策が義務付けられています。つまり、企業側も見て見ぬふりはできない状況になっているのです。
「何をやってもハラスメントになる」と茶化すのでは許されない
パワハラ・セクハラの定義だけを見ていても「手を出したり、暴言を吐いたりしなければハラスメントではない」などと考えてしまうかもしれません。しかし、近年耳にする「〇〇ハラ」の事例には、セクハラ・パワハラの要件を満たしていたり、法律で禁止されていたりするものも多数あります。「何をやってもハラスメントになってしまう」などと茶化しても、被害者に対しては言い訳になりません。
まずは誰でも加害者・被害者になり得ることと、「何がハラスメントにあたるか」を意識しておくことが重要です。もちろん加害防止につながりますし、うっかりハラスメントをした場合も自ら気づき、速やかに謝罪することができます。また、行為を受けた側としても「正当な業務指導とハラスメントを取り違えて被害意識を持つ」といった誤解を防ぐことにつながります。
モラハラ(モラルハラスメント)
モラハラの定義については、法律などで明確化されているわけではありませんが、一般的には言葉や態度などによって人の心を傷つける、精神的な暴力や嫌がらせのことを指します。
加害者が被害者に強迫的な言動を取ることが多く、夫婦間など実際には上下関係がない場合でも「行為者が上、被害者が下」だと被害者に思い込ませた上で、精神的な暴力を振るったりするケースが見られます。一方で、殴る蹴るといった肉体的な暴力は振るわないのも特徴です。
モラハラにあたる言動の一例
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一般的には、人間関係の優位性やその場の雰囲気などを背景にアルコールを本人が望む以上に摂取するよう強要したり、いわゆる「酒が飲めない」人を、飲めないことを理由に不当に傷つけたりするといった行為を指します。また、無理な誘いで相手の帰宅を妨げるなど、酒に酔った上で迷惑行為を働くことも含まれます。
アルハラにあたる言動の一例:
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妊娠、出産、育児などを理由とする解雇、雇い止め、降格、減給などの不利益な取り扱いにあたるものを指し、法律上も明確に禁止されています。デリケートな状態にある妊娠中の社員に通常時と同等の負担を強いるなど、配慮を示さず苦痛を与えることもマタハラにあたります。
ちなみに、育児をしている男性社員に対して、制度利用などを不当に妨げるハラスメントは「パタハラ(パタニティハラスメント)」と呼ばれます。「パパ」からきた造語ではなく、「パタニティ(父性)」によるものです。
マタハラ(パタハラ)にあたる言動の一例
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働きながら介護を行う労働者に対して、介護休業や介護時短制度など制度利用を不当に妨害する行為のことを指し、法律上も明確に禁止されています。また、介護を行うことを理由に解雇や降格などの不利益な取り扱いをすることもケアハラにあたります。
ケアハラにあたる言動の一例
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近年よく耳にするようになった「就ハラ」は、就職活動中やインターンシップ中の学生などに対して、就職活動上の優位性を背景に行われるセクハラ・パワハラ行為のことを指します。中でも新卒全般の採用難から、企業が内定を出した就職活動生に対し他社の選考を辞退するよう促したり、自社への入社を強要するなどの圧力をかけたりして人材を確保しようとする「オワハラ(就活終われハラスメント)」は特に目立つようになってきました。
就活生へのハラスメント対策は、2023年6月現在義務化にこそ至っていませんが、さまざまなハラスメント対策への意識が高まっていく中、放っておいていい状況ではないと言えます。現に、労働施策総合推進法及び男女雇用機会均等法に基づく指針には、就活ハラスメント防止措置が望ましい取り組みとして明記されています。
そもそも「就ハラ」を放置することは、企業にも多大なリスクがあります。被害者との信頼関係は崩れ、内定辞退はもとより、就活コミュニティの口コミに書き込まれたり、SNSで告発されたりする可能性もあるでしょう。
応募者の尊厳や人格を不当に傷つけたとして社会的信用は低下しますし、それに伴って応募の減少も考えられます。さらに、現在働いている従業員のロイヤリティやモチベーションを低下させたり、悪くすると退職を招いたりしかねません。
ルール化などで抑止しきれない部分も多く、難しいハラスメント対策ですが、どのように取り組んでいけばいいのでしょうか。職場におけるハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置が、厚生労働大臣による指針で以下のように定められています。
1.事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること 2.相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること 3.相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること 4.相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること 5.業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること |
出典:厚生労働省『職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)』
これを参考に、まずは会社の「ハラスメントに対して毅然と対処する」姿勢を示していきましょう。続いて相談窓口の設置、そこでの相談に対してどう動くか、問題があった場合の処分内容などを具体的に定め、社員に周知しましょう。
会社としてハラスメントを許さないと示すこと、具体的な対策に取り組んでいると知らせることは、被害者の助けになり、また加害者への抑止力にもなります。これに加えて、知識不足でハラスメントに至るケースを防ぐために「何がハラスメントにあたるか」などを学ぶハラスメント研修なども実施できるとよいでしょう。
ハラスメントは社内風土などによって助長されるところもあります。まず人事が、社内風土に流されないようHR、労務、社会課題などの知識を十分に蓄えていることが、ハラスメント防止や起きてしまった問題の解決につながります。