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ワークライフ・ラボ:介護と仕事の両立は可能です! 「事前の準備が肝心」と池田心豪さん|ランスタッド法人ブログ

作成者: randstad|Dec 26, 2022 3:00:00 PM

やってもやっても押し寄せて来る仕事と悪戦苦闘中のある日、実家から「親が倒れて介護が必要になった」という知らせが来たら、どうしますか――。介護と仕事を両立できるのか、会社にどう説明すればいいか、いよいよの時は退職しなければならないのかなど、最初は大混乱するかも。そんな人たちのために、12月7日の第5回ワークライフ・ラボではナビゲーターの佐藤博樹さん(中央大大学院教授)がこの分野研究の第一人者、労働政策研究・研修機構主任研究員の池田心豪さんをお招きして、「介護と仕事の両立」必勝法を伝授してもらいました。

 

 

佐藤さん: 仕事と介護の両立には、そうした事態に直面してからというのではなく、事前の心構えが必要ということですが、なぜでしょうか。

池田さん :まず、制度として育児・介護休業法という法律があって、一見すると育児と介護に関する制度の建て付けは似ていますが、両者の性質はかなり違うことを念頭に置いて下さい。育児と介護は違うんです。どういうことかと言うと、介護保険の在宅介護サービスの場合、かなりしっかりした供給体制ができています。施設介護だとすぐには入れなかったりしますが、在宅介護ならサービスをうまく利用することで両立は十分可能です。

介護というと、「親のために子供はなんでもする」といった献身的な姿勢が美徳とされた時代もありましたが、現代は自分の家族や仕事を犠牲にしない範囲で介護をするという時代になっています。そのためには制度をうまく利用することです。間違った使い方をしたり、“我流”でやってしまうと、結局は離職に追い込まれるなど、自分で自分の首を絞めることになりかねません。サービスを利用するためのハードルは低いですから、変に身構える必要もないです。

佐藤さん: 今日の参加者の皆さんは、この介護休業の利用目的がどこにあると思っているのか聞いてみましょう。へえ、「自分で介護を直接担うため」と誤解している方が、「両立の準備をし自分で介護を担わないようにするため」より少し多いんですねえ。

池田さん :厚生労働省も制度の周知徹底に努めてはいますが、まだ十分浸透していないということでしょうか。仮に自分で全面的に介護するとして、法律で認めている93日の休日を使い切った場合、「さあ、その後はどうしよう」ということになりかねませんよね。育児と違って、「先が見えない」というのも介護の特徴ですから、そこをよく考える必要があります。

むしろ、93日というのは、親の入院などの緊急事態を乗り切り、その後の介護態勢づくりのための準備期間と考える方が現実的です。その場合、食事や入浴などの身体介護はヘルパーさんに任せ、家族は介護態勢の判断や親に対する精神的なサポートを心掛けることです。ですから、家族間でよく話し合い、課題などを共有することがとても大事です。
ここでこじれて、結局、自分だけで介護しなければならなくなったといった状況は避けたいものです。その意味で、介護休業は「介護“準備”休業」と考えた方がいいです。

佐藤さん: 現在の制度では、誰でも40歳になると介護保険料を支払いますが、それを知らない人もかなりいるようです。あるいは、保険料は払っているが、介護保険証を見たことがないという人もいます。健康保険に比べると、認知度は低いのが現実です。だから、いざという時に混乱する人が多いのではないでしょうか。どうすればいいですか。

(編集部の声 佐藤さんは今回、zoomの「投票機能」を使って、参加者からアンケートを募る手法を始めました。問題に対する皆さんの意識や対応ぶりがリアルタイムでわかるので便利。これからも多用するのでは、と予想されます)

 

介護は企業にとって「見えにくい」という特徴

池田さん: まず、当事者の要介護認定が必要になります。全国にある地域包括支援センターに連絡して状況を説明し、認定に当たるケアマネジャーに来てもらうことから始めます。ここで重要なことは、家族も立ち会って、どこまで介護できるのか、仕事の都合なども考えながらケアマネを交えて協議することです。要介護者とケアマネだけで介護内容を決めてしまうと、自分の仕事に支障をきたす場合も出てきて、両立がむずかしくなりかねません。

佐藤さん :では、社員の親らの介護が必要になった場合、企業や職場はどう対応すればいいでしょうか。

池田さん: 個々の社員の実態を把握することから始めます。この図からもわかるように、育児に比べると介護は企業にとって「見えにくい」という特徴があります。仮に企業トップが「介護休業を取りましょう」と号令をかけても、個々の社員にとってどの程度必要なのか、どんな家族状況なのか、実に多様ですから上司も困っちゃいます。

そこで、社員の側から自分を取り巻く介護の状況を上司たちに伝えておいて、職場の理解を得ておけば、いざという時に休暇などもスムーズに取れます。その意味でボトムアップが重要なカギになります。「仕事に私事を持ち込まない」という発想はもう捨てるべきですね。また、短時間勤務、フレックスタイム、テレワークなどの柔軟な働き方を選択できる企業なら、社員はいきなり介護休業をしっかり取るより、できるだけ通常勤務をしながら必要に応じて制度を活用して両立を図る方が長続きします。そのためにも、職場におけるコミュニケーションが大切になります。

(編集部の声 最も人口の多い団塊の世代は、あと2年すると全員が75歳以上の後期高齢者になります。介護問題もピークを迎えると言われていますが、お2人の話を聞いていると、悲観するだけでなく、適切な対策を事前に講じておけば子供の世代に大きな迷惑をかけることもない。そんな気分で身近に学べるひと時でした)

 

 

第五回ワークライフ・ラボ 登壇者

佐藤博樹
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授。雇用職業総合研究所(現、労働政策研究・研修機構)研究員、法政大学経営学部教授、東京大学社会科学研究所教授などを経て2014年10月より現職。2015年東京大学名誉教授。
 

池田 心豪
研究員。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程満期退学。専門は職業社会学、人事労務管理。最近の主な著作に『仕事と介護の両立』(佐藤博樹・武石恵美子責任編集、シリーズダイバーシティ経営、中央経済社、2021年)。
 

取材・編集 アドバンスニュース